2019年12月23日 不眠の日 はい、あーんですよぉ 真凛編
2019年12月23日
冬至を迎え、長い夜を過ごすあなたは趣味に没頭し、眠さがピークを超え、逆に眠れないでいた。
それになんだか小腹が空いて、あなたは今夜、徹夜をしてでも溜まっていた趣味の物を消化するつもりで、今の時間に軽食をとっても問題はないだろうとキッチンに立つ。
冷蔵庫にあるのはなんだろうか。真凛の作った晩御飯の余りでもあれば頂いて腹を膨らませようなんて思いながら中を見るのだが、簡単につまめそうなものは入っていなかった。
仕方がない、何かを軽食を用意しよう。あなたは買い置きしてあるはずのカップラーメンを探して棚をパタパタと開けたり締めたりするのだが、どうやら切らしているようだった。それもそうだ、真凛が基本的に食事係で、カップラーメンを食べる機会などほとんど皆無に等しい。買ってあったと思ったが、誰かが食べてしまって補充を忘れていたようだ。
さて困った。お菓子でも開けて食べるか。そんな考えで再び棚を探索するあなたの背後から声がした。
??「あれ……どうしたんですかぁ?」
現れたのは真凛だ。彼女はパジャマ姿であなたの前に現れた。ゆったりとしたピンク色の、子供のようなパジャマ姿は彼女にとても似合って可愛らしい。あなたは小腹が空いてしまったと話すと、真凛はあなたの方へ歩み寄った。
真凛「仕方ないですねぇ。でも丁度いいのがあるので……小さいおうどんでも食べますか?」
真凛はパパっと材料を手元に用意した。冷凍されていたうどんを茹で、手際よくネギを刻む。あなたはキッチンの外のテーブルに座って、トントントンと包丁の立てる音を聞きながら真凛の料理の様子をぼんやり見ていた。ただ真凛、どうやらめんつゆがもう殆どないことに気がついたようだ。
するとプランを変更して、うどんの茹で汁の一部をお椀に移し、お椀を温めた。それからうどんだけをお椀に入れて、そこに卵を一つ落とす。あとは先程きざんだネギとごまを振り、醤油を少し垂らして、ご飯用のふりかけをシャカシャカとふりかけると完成したようだ。
真凛特製の即興釜玉うどんである。
真凛「はいどうぞぉ、召し上がれ^^」
とろんと乗った卵と、醤油の量は絶妙で食欲がそそられる。それにお椀がしっかり温まっていて、それがこの冬の中には嬉しい気遣いだった。
あなたは卵を混ぜて一口食べた。夜食の背徳感も含めて絶妙な醤油加減とカツオの入ったふりかけの食感が相まって、ほんの数分で作られたものとは思えないような味がする。あなたは歓喜の声を持って真凛に美味しいと伝えると、真凛はニコニコしながらあなたが食べる様子を見ている。
しかしあなたが三口、四口ともりもり食べていると、真凛はムズムズとし始め、それからゴクリとツバを飲み込んでいる。真凛も食べたいらしい事をに気づいたあなたはうどんを箸に持ちながら食べるか尋ね、真凛が頷いたので取皿と彼女の箸を取りに行こうと思い、掴んだうどんを置こうとしたのだが……。
真凛「あー」
真凛はあなたがうどんを置くよりも早く、あなたの方に口を開けた。どうやらそれを食べさせろ、ということのようだ。あなたは自分の使っている箸でもいいのだろうかということが頭をよぎるのだが、しかし本人が先んじているのだからと、ゆっくりと真凛の口元にうどんを運んでいく。
真凛「はむっ……はんはん。あー美味しく出来てる~、ぱぱっと作ったものにしては上出来ですね~☆」
真凛は満足そうにほっぺを撫でながら口を動かした。
真凛「あーーん」
それに更にもう一口要求してきている。あなたは先程よりも多めに取ると、真凛の小さな口が汚れないように慎重にうどんを運んで食べさせてあげた。
真凛「うー、深夜にこれは悪魔的美味しさ……食べるつもりじゃなかったのにぃ……」
なんていいながら幸せそうに噛み締めている真凛に、あなたの表情は自然と緩んでいた。それじゃあ真凛とも半分に分けよう。そう思い立ったあなたは真凛用の小皿とお箸を取りに行き、釜玉うどんをだいたい半分ずつに分けて渡す。真凛は照れながらデヘヘと笑いつつ、自分の分を口に運ぶ。
そして、なんのつもりだか箸をあなたの方に向けた。そこには真凛の分のうどんが掲げられていたのだが、間違いなくあなたに向けられていた。
真凛「はい、あーんですよぉ☆」
あなたの分は手元にあるにも関わらず、真凛はあなたの口にそれを近づけている。何故かと聞くと、さっきのお返しがしたいのだそうだ。あなたは嬉しさや照れが混じった気持ちで口を開け、真凛の箸から直接うどんを口に入れた。それはなんだか少しだけ甘い味がしたような気がした。
真凛「美味しいですね♪」
あなたの気持ちなどお構いなしにケラケラ笑う真凛と、深夜の背徳的な食事の時間を終えて片付けを手伝った後に部屋に戻ろうとすると、真凛があなたの部屋についてきた。どうやらこんな時間に食べてしまった以上、もう少し起きていないと体に悪いためだという。あなたと時間を潰し、消化が終わったくらいの時間に眠るつもりらしい。
真凛「一人よりも一緒に起きてる人といたほうが楽しいですし^^」
真凛はそう言ってあなたの部屋に入った。あなたが先程までしていた趣味の続きが置いてある。真凛と一緒に遊んだりしたほうがいいのだろうかと考えたが、どうやらその必要はないらしい、あなたの部屋に置いてあるものの上に積もった埃を見つけて、ティッシュを持って拭き出している。
あなたは今の時間に一緒に掃除をするつもりはなかったので、ありがとうとは言いつつも見て見ぬふりをするように、再び自分の趣味に没頭し始めた。それから真凛が静かになったと思って彼女に目を向けると、真凛は興味深そうにあなたがしている趣味をベッドの上に腰掛けて見ていたのだ。寒さもあって、あなたの布団にくるまり顔だけ出しながら。
彼女に退屈ではないかと聞くと「そんなことないですよ」と朗らかに言った。
あなたは再び趣味の方に意識を移した。それを見る真凛の目線もあったが、まぁ見ていて楽しいならと放置して、この部屋では不思議な時間が流れていた。そうして、それがキリの良いところに来たこともあるし、お腹に入れた食べ物の消化が進んだせいで眠くなってきたこともあってそろそろ眠ろうかと思い、ベッドの方に視線を向けると。
真凛「くー……すぴ……」
そこでは彼女が可愛らしい寝息で、あなたのベッドを完全に占領して眠っていた。これではあなたの眠るスペースがないし、まさか彼女が眠っているベッドに入り込むわけにもいかないし、真凛の部屋を代わりに使おうとも思わなかった。
あなたは仕方なく、ひざ掛け用に常備する小さな毛布と電気毛布で工夫して床に寝転がった。幸いふかふかのマットが敷いてあるので、眠るために体を痛めることはないだろう。部屋も少しは温かくはなっているので、風邪を引くことも無いはずだ。
そうしてあなたは部屋の電気を落とし、床で眠りについた。だがその数十分後、眠るつもりのなかった真凛が目を覚ます。部屋が暗くなっていることと、自分ひとりがベッドを使っていることに気付き身を起こすと、ベッドの下で寝転がっているあなたに気付いたようだ。
真凛「(……ベッドで眠ればいいのに~……)」
真凛はあなたの毛布にくるまりながらベッドを降りると、あなたにもしっかりと毛布がかかるようにして隣に寝転がった。あなたは夢の中で新しい暖かさを感じた。
真凛はあなたの寝息を聞きながら、再びを目を閉じたのだった。