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2019年8月4日 橋の日と吊橋の日は別枠らしい日

2019年 8月4日


衣玖(いく)「よし、これで完成したわ。さすがIQ3兆千億万の私ね……」


 衣玖(いく)はふぅ、と汗を拭い、目の前にある装置を満足気に見つめた。見た目はただの丸い板みたいなもので、それはとてもIQなんたら万が汗をかいて完成させるようなものとは思えなかった。

 

 そんな満足気な衣玖(いく)に、近くにいた真凛(まりん)がぽやぽやと聞く。


真凛(まりん)衣玖(いく)さん、何が完成したんですかぁ?」


 衣玖(いく)は誇らしげに「ん~?」と焦らすように間をおいて、丸い板を床に置くと、その起動スイッチを押した。


衣玖(いく)「これはねぇ、全国の橋にワープする転送装置なの。ほら、今日って8月4日、はしの日でしょう?家で箸の話題で終わらせても良かったんだけど、たまには外をメインに取り上げるのもいいかなと思ったの」


真凛(まりん)「へぇ~!いつもと違うアプローチだぁ~」


衣玖(いく)「そゆこと。ってわけでちょっと行ってくるわね」


真凛(まりん)「えーっ、いいなぁー!わたしも一緒に行きたいですー!」


衣玖(いく)「それじゃ、一緒に行ってみましょうか。どこに出るかはわからないけど……転送装置起動。『スコッティ、転送してくれ』」


 衣玖(いく)真凛(まりん)の手を握り、携帯電話のような端末に向かって起動コードを読み上げると、転送装置は光を放ち、携帯端末を中心にして二人をまばゆい光を持ってどこかへ送ったようだ。


 転送完了までのタイムラグは殆どない。それも完璧な状態で作用したその転送装置は、二人をある絶景の橋まで運んだ。


 二人の降り立った場所は、木製の足場が緩やかなアーチ状になっているとある橋の真ん中の辺りだ。足元見れば美しい木の継ぎ目が均等に続き、その視線の先には小屋があって、それが湖の上に高床式の小屋として建築されている。


真凛(まりん)衣玖(いく)『うわぁーっ……』


 二人共、その美しさに言葉を失った。湖に反射する橋と、遠くに見える山、耳をすませば風に揺れる湖のせせらぐ音が聞こえる。ちょっぴり湿った空気が夏にも心地よく、遠くに見える釣り人や、水遊びをする子どもたちに思いを馳せた。そこを少しだけしみじみ歩いて、小屋の中で一息つきながら真凛(まりん)が言う。


真凛(まりん)「キレイですねぇ……ここは一体どういう場所なんですか?」


衣玖(いく)「ここは青森県にある鶴の舞橋ね。あっちに見える山は岩木山。自然と木造建築の融合が美しい世界観を生んでるわよね……ザ・日本とも言える橋の一つだと思うわ。実際に来たことはなかったけど……この美しさには飲まれちゃうわね」


真凛(まりん)「すごいすごーい!いつもの日めくりと全く違って普通にキレイで感動しますー!」


衣玖(いく)「まぁね。いつでも進化し続けるのが私達よ。じゃあ次行きましょうか」


 衣玖(いく)は転送端末を取り出し、真凛(まりん)の手を握る。


真凛(まりん)「次はどこだろー!」


衣玖(いく)「『チャーリー、転送を頼む』」


真凛(まりん)「(あ、さっきと違う)」


 一方その頃、家では。


西香「あら?なんですのこれ?お皿?」


 衣玖(いく)の作った転送装置のメイン装置であるが、床に置かれたそれを西香は不思議そうに見つめていた。とても白くて、でも皿ではなさそうだ。持った感じはプラスチックっぽくて、それが急に発光しはじめた。衣玖(いく)たちが転送を開始したためだ。そのエネルギーを持ったその装置はまたたく間に温度をあげたため、西香は「あっつ!!」と持ち上げた装置を手放し、床に落としてしまった。ガチャコーン!といい音がして、ほんの少しだけ電流が走った。


西香「もう!きっと衣玖(いく)さんのいたずら装置ですわね!いたいけなわたくしにこんな事をして……ちょっと衣玖(いく)さん!衣玖(いく)さーん!どこですのー!?」


 と、明らかなフラグを建てられた後に転送された二人。


衣玖(いく)「いやぁ……こっちもすごい絶景ね……」


真凛(まりん)「もう……無理ですぅー……衣玖(いく)さん一人で……死んでくださいぃ~……」


 二人のセリフの温度差が違うのは、間違いなくその状況のためであった。


 衣玖(いく)は両腕で真凛(まりん)の腰にひん掴まっていた。その状態で真凛(まりん)が掴まっているのは、あまりにも細すぎる鉄柱一本だった。二人の身は宙ぶらりんになって、運命は真凛(まりん)の両腕のみにかかっている。


真凛(まりん)「なんなんですかここはぁ!は、は、橋って言いましたよね!?」


衣玖(いく)「言ったわね……でもここも、一応橋なんでしょうね……私自身まさかって感じするけど……」


 二人が次に飛んだ橋はとある山奥にある吊橋。その通称"無能吊橋"。その足場は点々と錆びたワイヤーから設置された鉄骨とも言えない小さな鉄の棒のみ。子供向きのアトラクションよりもずっと足場が少なく、もはや橋として機能はしていない、しかも落ちたら普通に死ねる高さにあるという、実際に存在する橋だった。


 そんな橋のど真ん中に転送された衣玖(いく)は、秒もかからずバランスを崩して真っ逆さまに落下しかけた。即座に真凛(まりん)の腰を掴み、真凛(まりん)を道連れになりながらもなんとか細い鉄柱一本に二人の身をぶら下げる状態となっている。とは言っても、鉄柱を掴んでいるのは真凛(まりん)だけだ。


真凛(まりん)「どうしてこんなことにぃ……さっきまでいつもと違ってちゃんとしてたのに……どうして突然こんなオチ寄りの展開にぃ……!今日は誰も悪くないはずなのにー!!」


衣玖(いく)真凛(まりん)……頑張って……もう私はダメ……私はただ……日めくりを進めたかっただけなの……」


真凛(まりん)衣玖(いく)さん……さっき一人で死んでって言ったけどそんな事言われたらぁ……あーでももう腕が無理です!!やっぱり死んでくださいーー!!」


衣玖(いく)「ぐぬ、ぐ……元気でね真凛(まりん)、みんなにもよろしく……日めくりの意思を……継い……で……あ~~れ~~」


真凛(まりん)衣玖(いく)さーーーーん!!!でもわたしもここからのリカバリーは無理ですぅー!だって手の届く場所に足場がないんだもんー!!落ちる~!(足バタバタ)」



 二人は大変ですが、今日は橋の日です。同時に別枠で吊橋の日ともなっています。

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