2019年12月20日 五人少女おとぎ話 ~シンデレラ~
2019年12月20日
年末にかけて記念日という記念日が消えていく中で行われる、日めくり少女たちによる決して苦し紛れじゃないおとぎ話。
今日のお話はシンデレラです。始まり始まり。
※なお、このお話はフィクションです。本編の登場人物とは一切関係ありません。
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昔々、ある貴族の家に真凛デレラという可哀想な美少女がいました。
というのも、寄辺の無い真凛デレラはある家庭に迎え入れられたのですが、その家にいたのはいじわるで器量の悪い女の子ばかりだったのです。
留音「あ~なんか小腹減ったなー。卵かけご飯卵かけご飯~」
真凛デレラ「えーっ!言ってくれればもっといいものわたしがつくりますよぉ!」
留音「えー、いいよ別に、卵割って醤油垂らすだけなんだからさぁ」
真凛デレラ「それに待って下さい!いまご飯食べちゃうんですかぁ?晩御飯食べれなくなっちゃう……」
留音「だーいじょぶだってぇ。最悪残しても夜食にするし」
真凛デレラ「あったかいうちに食べてほしいのにぃ……」
まるで女子力の無い姉達は、真凛デレラの言うことを聞いてくれず、真凛デレラの仕事をとってしまうなど、とてもいじわるなのでした。
衣玖「ふぅ、片付け完了っと。普段やらない分、最近なんだかやたら掃除してる気がするわ」
真凛デレラ「えぇぇぇぇぇ! なんでわたしがやろうと思ってた分片付けちゃうんですかぁ……あー! それに全然片付けるところ違います! あーもうなんでこっちにしまっちゃうかなぁ……あとで取り出す時大変なのにぃ!」
衣玖「別にどこでもいいじゃない、使いやすいのは出しとけば」
真凛「もぉぉぉぉ! 衣玖さんは片付けてもセンスが無いんですからこういう事はわたしに任せてくださいよぅ! いじわるー!」
衣玖「いじわるって言われても……」
しかし真凛デレラは健気にもみんなの面倒を見ていました。
西香夫人「真凛デレラさん! しっかり暖炉や厨房、お風呂などの掃除をしておいてくださいね! それが終わったらご飯の支度ですわよ! わたくし今日はお肉の気分ですわ! 材料が無いなら買い物もよろしくおねがいしますわね!」
真凛デレラ「は~いもちろんですよぉ♪お掃除~♪お料理~♪おっ買い物~♪ふんふん……」
そんなある日、なんでもこの国の王様が王子様のお妃様になる人を探すために舞踏会を開くことが発表されます。
王様は国中の若い女の子を全員集めて王子様が気に入った子と結婚させようという無茶苦茶なイベントを開催しようとしていたのでした。
そこには当然、この家の女の子たちも招待が来ています。
西香「留音さん、衣玖さん、真凛デレラさん! 王様からの招待ですわ、我が家の威光を示すため、皆さんちゃんと舞踏会に出席しなさいな! 真凛デレラさんはお仕事があろうが王様主催のイベントです、中途半端に切り上げてでもきちんと出席するんですのよ!」
真凛デレラ「えぇ~……そんなぁ……酷いですぅ……」
留音「お、王子様かぁ~……見初められちゃったらどうしよぉ……」
衣玖「無いわよ、ナイナイ。っていうか王家の横暴やばくない? なに、国中から若い女の子を集めて王子に選ばせるって」
真凛デレラには苦痛でした。だって真凛デレラにとって、しつこいシミがやっと落ちることや、自分の料理が美味しいと言ってもらえることの方が見知らぬ王子様と結婚するよりも幸せなことだったのです。
しかし舞踏会の日取りは刻々と迫ってきます。留音や衣玖もオーダーメイドの素敵なドレスを発注し、真凛デレラもまた寸法を測ってしっかりとしたドレスを購入することになりました。しかしドレスのために何度か服飾店に足を運んだせいで満足に掃除ができなかったりして、真凛デレラにとっては少しストレスの貯まる日々でした。
そして舞踏会の当日……。
留音「う―! 緊張してきた! 超緊張してきた!」
衣玖「はぁ……行きたくなーい。ねぇ、絶対に行かなきゃ駄目なの?」
西香「そりゃ行きますわよ! なんたって王様ですわよ! 気に入られればその力は計り知れませんわ……わたくしも本気を出さねばなりませんわね……」
真凛デレラ「めんどくさいなぁ……」
しかしみんな緊張していたのか、迎えの馬車が来るという頃に、いろんなことをやらかしました。
留音「あ、そいや洗濯物洗濯機の中に入れっぱなしだった」
衣玖「あー! キーボードにジュースこぼしたぁ!!」
西香「ぎゃあー! 花瓶を倒してしまいましたわ!!!」
真凛デレラ「ぴぎゃああーーー! なんで今なんですかぁ!!」
既に馬車が来るまで秒読みです。このままでは様々な状況を放置していかねばならなくなってしまいます。洗濯物は臭くなり、キーボードはベタベタで買い替えに、そして花瓶から広がった水が床にしみついてそこだけ軋んだりするようになってしまうかもしれません。
真凛デレラ「あーもう! 皆さん先に行ってて下さい! わたし全部済ませたらあとで行きますから!」
西香「そ、そんなぁ! 一人だけ置いていったなんて知られたら王様の印象が悪くなるかもしれませんわ……」
真凛デレラ「大丈夫です! 空飛んでいきますから!」
真凛デレラは基本的に家事労働はもちろんのこと、飛ぶことも出来るのです。
衣玖「仕方ない……私達は先に馬車で王様の元へ向かいましょう。
留音「真凛デレラすまん~、後は頼む~」
可哀想な真凛デレラ。一人で家に残った真凛デレラは腕まくりをして早速マルチタスクに仕事をはじめました。
衣玖のキーボードはちょっとお高いゲーミング仕様で防水性になっていたので、簡単に水洗いをして、ベタつく場所が残らないようにしっかり拭き取ります。洗濯物も最悪部屋干しでなんとかなるでしょう。花瓶の水もしっかり拭き取って……そんなことをしている真凛デレラの目の前に、とある魔法使いが現れました。
フェアリー・ゴッドガール。その子は一人で家事をし続ける真凛デレラを見かねて、何か手伝えることはあるかと出てきたようです。
その子は「私には魔法があるから、あなたの夢をなんでも叶えてあげるよ、王子様の舞踏会に出たい?」そう真凛デレラに聞きましたが、即答でノーと首を横に振りました。じゃあ代わりに魔法でして欲しい事はあるかとその子は尋ねます。
真凛「じゃあ……新しい柔軟剤と新鮮な野菜とか果物とかが欲しいです……あとは舞踏会にも出たくなくて……」
その子は少し困ったようでしたが、真凛に食材とお掃除セット一式を与えてから、こんな事を言いました。「じゃあ私が真凛デレラちゃんに成り代わって舞踏会に出てくるね」……真凛デレラはその子にとっても悪いと思いましたが、交換条件に美味しいスープを作って待っているから、明日の朝にでもまたここに来て欲しいと言いました。
そうして真凛デレラはその日、心穏やかに自分のやりたいことに没頭することが出来ました。しかしお城の舞踏会場では大変な騒ぎになりました。真凛デレラの代わりに出場したあの子、フェアリー・ゴッドガールがあまりにも美しかったためです。しかしその子は12時の鐘の音に合わせて姿を消し、王族は総出でその子の存在を探そうとしましたが、残された手がかりは靴片方すらありませんでした。
その後、真凛デレラの家にお呼ばれしたフェアリー・ゴッドガールは真凛デレラたちと仲良くなり、その家に居着くことになったのだそうです。めでたしめでたし。