2019年12月19日 五人少女おとぎ話 ~鶴の恩返し~
2019年12月19日
年末にかけて記念日という記念日が消えていく日めくり少女たちによる決して苦し紛れじゃないおとぎ話。
今日のお話は鶴の恩返しです。始まり始まり。
※なお、このお話はフィクションです。本編の登場人物とは一切関係ありません。
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むかしむかし、心の優しい留音じいさんとがめつい西香ばあさんがいました。
留音じいさんは商売へ出かけます。
西香ばあさん「いいですか、一円でも高く。妥協は許されませんわよ」
留音じいさん「自分が行けばいいのに……」
町へ渋々出かける留音じいさんは、そこで一羽の鶴が罠に引っかかって動けなくなっているのを見つけました。
留音じいさん「可哀想に。ほら、もうかかるんじゃないぞ」
留音じいさんは無断で他人の家の罠を破壊し、鶴を逃してあげました。
その夜、雪はだんだんと強く降り、留音じいさんと西香ばあさんは暖を取っていると、戸をコンコンと叩く音に気が付きました。
??「すいません、ごめんください」
やや控えめの声量で、外から少女の声が聞こえます。留音じいさんはその戸を開けると、そこには頭から雪をかぶった小さめの美少女が立っていました。
留音じいさん「寒そうだなー。中へお入りなよ、温まってきな」
西香ばあさん「(お金がありそうなら使用料と思いましたが……)」
すると少女は言いました。
少女「あ、あの、外大変で、一晩泊めてもらってもいいですか」
やや緊張したようにカチコチと肩を固めて言った少女に、留音じいさんはうなずきます。
留音じいさん「こんな寒くて雪が降ってちゃな。いいよいいよ、泊まってきな」
西香ばあさん「(世話をかけるってことはお礼の一つもしていくんでしょうね……?)」
少女「あ、あり、ありがとう。私は衣玖。ちなみに料理も掃除も洗濯も出来ません」
留音じいさん「あぁいいよいいよ、毎日卵かけご飯だからうちは。洗濯も川で流すだけだし」
西香ばあさん「えっ、そうだったんですの?地獄じゃありませんか」
次の日も大雪が降り積もり、戸を開けることは出来ませんでした。
衣玖「おじいさんおばあさん、お願いがあるの。そこの屏風を貸してもらって、毎晩覗かずに私に部屋を貸してもらってもいい?」
衣玖は不思議な提案をして、部屋の隅っこに隠れるように屏風を立てました。
留音じいさん「別に構わないけど……何するの?」
衣玖「秘密よ」
西香ばあさん「(かすかにお金の匂いがしますわ)」
そうして衣玖は夜中、屏風の裏で何かをしていました。カタカタカタカタ……キュイーン!ヒュウインヒュインヒュインヒュイン、プッシュううー……次の朝、衣玖は縁のある黒い鏡のような物を留音じいさんに手渡しました。
衣玖「これを町で売って、それからそのお金でエレキテルの材料を調べて買ってきてほしいの」
留音じいさん「こ、これは……?」
衣玖「電子スマートタブレットよ。太陽光によって発電されて音楽を聞いたり写真を撮影したり出来るから高く売れるわ」
西香ばあさん「留音じいさん! お殿様! お殿様のところへ持っていってくださいな! ふっかけて! 最低で5000両ですわよ5000両!!」
衣玖の話は本当でした。おじいさんがそれを持っていくと、お殿様は大金をはたいてそれを購入しました。そして留音じいさんは言われたとおりに金属類を購入し、またそれを衣玖に手渡します。するとその晩もまた、衣玖は一人でこもって異音を放ち、次の日には再び立体音響サウンドバー5.1チャンネルサラウンド再現可能デバイスや体感型コントローラー一体型ヘッドマウント式VRゲーム機などを制作し、留音じいさんに手渡しました。
こうして衣玖の作ったものを売りさばくことで、家はどんどんお金持ちになっていきます。
ですが留音じいさんは不思議でした。なぜ衣玖はこのような時代錯誤なガジェットを作り上げているのか。それをどうしても気にしてしまい、ついに屏風に近づいていきます。それを止めたのは西香ばあさんでした。
西香ばあさん「駄目! 駄目ッ、留音さん駄目!! お金! お金のなる木!! マネェ!」
留音じいさん「いやでもさ! 気になるじゃん! 超気になるじゃん! 江戸時代だかの木造平屋一戸建てからどうしてノートパソコンやらタワー型ゲーミングPCと4K対応稼働アーム式デュアルモニターが出てくるんだよ! 時代設定から何から全部おかしいじゃん!」
西香ばあさん「気にしないふり! 気にしないふりですわ! お金!!! お金の為に!! わたくしたち一生安泰ですわよ!?」
留音じいさん「でも見ないと話が先に進まないんだから見るの!」
留音じいさんは腕力の限り屏風を取り去り、衣玖の正体を目にしました。
衣玖「あっ……バレてしまったか」
そこにはギトギトネオンの光る服を来た美少女、衣玖の姿がありました。
留音じいさん「……いやわかんないわかんない。そこは鶴の格好をしてるんじゃないのか」
衣玖「え? 鶴じゃないし。おじいちゃんおばあちゃん人工生体パーツを使ったプロトタイプ鶴型ドローンを助けてくれてありがとう。そのお礼がしたくて残っていたけど、バレてしまったらもうここにはいられないので未来に帰るわ。さようなら二人共お達者で」
衣玖はその格好や鶴型ドローンを何故飛ばしていたかなどについての説明は一切せず、不条理な速さで光の粒を発しながら姿を消していきます。もう少し情のある間は取れないのかと留音じいさんは思いましたが、特にありませんでした。
西香ばあさん「待ってえぇ! 急展開すぎてついていけませんわ! もうちょっと何かありませんのぉ!?」
衣玖「ないわよ、そういうものだから。何故かわからないけどこういうのって一線踏み越えたら急展開なものなの。それに手放してもいい使い古したガジェットもそろそろなくなるし。というわけでさよならー」
留音じいさん「達者でな~」
西香ばあさん「せめてそのお洋服置いてって~! 不思議な色のお洋服をー!!」
とは言え二人の老夫婦はオーバーテクノロジーを売ったお金で幸せに暮らしたとさ、めでたしめでたし。