2019年12月13日 大掃除の日
2019年12月13日
前日夜遅く……。真凛の部屋に二人。
真凛「う、うー……うぇぇん……」
真凛は顔を赤くして布団を被っている。それをあの子が心配そうにしながら冷えピタをおでこに貼ってあげた。
真凛「ご、ごめんなさい……明日の『大掃除の日』が楽しみで……体の熱があがっちゃったみたいで……」
真凛は子供みたいな理由で熱を出していたのである。
真凛「で、でも……明日の大掃除の日は頑張らなきゃ……わたしが頑張ってお掃除しないといけないし……大掃除の日、楽しみにしてたから……」
ゆっくり寝てね、ということを伝えたあの子は真凛を寝かせ、部屋を出ていった。
真凛「う、うーん……暑い……体が……」
寝ながらうなされる真凛。
真凛「寒い……痛い……」
布団を剥ぎ取り、自室の床に落ちてゴロゴロ転がっている。
真凛「……狭い」
そして13日の朝。みんなの家のすぐ外で。
留音「これは……一体何があったと言うんだ……」
西香「真凛さんは楽しみにしていましたからね……今日、大掃除の日を。だからきっとより『大掃除』に適した状態に進化した……と見るべきですわね」
留音「人間の大掃除……?」
衣玖「……いや、今日の記念日のために進化するのであればこれよりもっと別の形態があるはずよ。これは『大掃除の日』という概念が真凛のお掃除スピリットにシンクロした結果だと思うわ」
四人の前には真凛がいる。だがいつもと違う真凛だ。留音が結論を言った。
留音「まさか真凛が……ダイマックスしてしまうなんて」
巨大化である。真凛は全長20メートル弱の巨大ガールとなっていたのだ。
真凛「うわぁぁぁぁぁん!! これじゃあ大掃除出来ませんよぉーー!!!」
西香「うるっっっっっっさ!!!! 声でっっっっっか!!!」
真凛「あ、ご、ごめんなさい……声量も大きくなって……うっぅ、どうしてこんな事にぃ……」
衣玖「仮説なら立てられるわ。真凛、あなたは掃除に対する執念がやや常軌を逸している面がある……その自覚はあるわね?」
真凛「……大好きですけど……」
衣玖「そんなあなたの前に、日めくりを初めて『大掃除の日』という記念日がやってきてしまった。最近の私達は日めくり一辺倒。これに影響されるのは仕方がないわ。あなたは掃除という概念を自身にシンクロさせてしまったのよ。だから掃除=真凛自身。"大"掃除の日は、"大"真凛を作り出すことになった」
留音「んふっ……大魔神の発音……」
大真凛「そ、そんなぁ……元に戻る方法は無いんですかぁ……? 今日はみんなで大掃除をするって、わたしすっごい張り切って……すごく楽しみにしてたのに……この大きさじゃあわたし……」
衣玖「元に戻る方法か……今日の大掃除の日が終われば自然と元に戻るとは思うけど」
大真凛「えぇー! それじゃあ遅いですぅー! 今日! 皆さんと大掃除がしたいのにー!」
やだやだ! と駄々をこねる真凛。バタバタする度に小さな地震が起きている。
そんな真凛に聞こえない小声で西香が呟いた。というか声量を抑えめで普通に喋っただけで巨大な真凛の耳に届かないというだけなのである。
西香「わたくしは別に大掃除なんてしたくありませんけど」
衣玖「確かに。これはこれで出来ないのは仕方ないという体裁が整ってるわね」
大真凛「衣玖さぁぁん! なんとか戻してくれませんかぁ……」
衣玖「悪いけど真凛、今日、大掃除の日はその姿でいるしか無いかもしれない」
大真凛「そんなぁー……じゃあ皆さんが代わりに家の大掃除してくれますかぁ……?」
西香「わたくしはやりませんわよ。掃除なんて気が向いた時にやればいいんですのよ。真凛さんが」
そう言って両手で腕を擦りながら家に戻っていく西香を、真凛が片手で鷲掴みにして自分の顔の近くに持ってきた。
大真凛「西香さぁん……今なんて言ったんですかぁ? よく聞こえなくて……」
巨人が人間を食べようとしている、みたいな構図で両手で西香の体を握る真凛。西香は腕までがっちりとホールドされ、一切身動きが取れないでいた。
西香「や、やめなさいな真凛さん!! わたくしは大掃除なんてしたくないって言ってるんですのよぉ!」
大真凛「駄目です。わたしが出来ない以上、皆さんがわたしの分もお家の掃除頑張ってくれなきゃ許しません。そうですよ。この姿になったのには理由があるはずです……この姿だからこそ出来るお掃除をすべきですよね。普段目につかない場所や出来ない場所が、このダイマックスした姿だったら出来るかも……! うーん! 元気になってきましたぁ! 皆さん! お家の中のお掃除はお願いしますね!」
衣玖「や、やっぱり元に戻せるかもしれないわ。真凛、ちょっとまってて」
そう言ってそそくさと家に入ろうと体の向きを変え、頭の中で縮小装置の設計図を急ピッチで思い描く衣玖だったが、真凛が西香を掴んだのと同じように「待って下さい!」と衣玖を掴んだ。
大真凛「衣玖さん、良い機会です。わたしがいなくてもちゃんとお掃除しましょう! 大丈夫! ほら、今のわたしなら一階も二階もちょっと顔を横にすれば窓から覗けますし、お掃除の仕方はちゃあんと教えてあげますから! ね?^^」
衣玖と西香は二人して真凛の片手だけで完全に封じ込まれている。
大真凛「もしやってくれなかったらどうしよっかなぁ~。二人とも食べてみちゃおうかなぁ。あ~ん……」
真凛は大きく口を開け、二人をバナナの如く口に運び、口を閉じる寸前で二人を元の先程まで立っていたあたりの位置に戻した。
大真凛「なんちゃってぇ、あははは、ふたりとも食べてもおいしくなさそ~☆」
衣玖「(ガタガタガタガタ)」
西香「(ブルブルブルブル)」
二人に生物としての本能的な恐怖を埋め込んだ真凛は可愛くケラケラと笑って「じゃあ、お掃除開始ですよぉ♪」と楽しそうに二人の背中を人差し指で押した。
大真凛「留音さんは大掃除してくれますよねぇ?」
留音「あ、当たり前じゃあああん!! トレーニング用具とか、全部拭いちゃおうかなーっって思ってたんだよぉおおお!」
大真凛「あ、いいですね~! 今日は1年お疲れ様って気持ちで拭いてあげてくださいねぇ~」
留音は「うん! 超掃除する!!」と家に飛び込んでいった。真凛はいつも掃除をするあの子だけはなんの心配もなしに家の掃除をよろしくねと頼むと、普段見ることが出来ない屋根の上や上から見た時に汚れている場所だったり外壁などの掃除を始めるのだった。
今日は大掃除の日。たまには手の届かない場所を掃除したり、散らかっているものを片してみるのもいいかもしれない。