2019年12月10日 三億円事件の日
2019年12月10日
西香「今日は日本で最も有名な未解決事件の一つ、三億円事件が起きた日ですわ」
真凛「へぇー。よく知ってますねぇ」
西香「そりゃあ知ってますわよ。何人もの従業員のために支給されるはずだった大量のお金が一人の人間の手に渡った日なのですから。三億円と言ってもですね、現在の価値に置き換えれば二十五億円前後って話ですわ。かっー! 当時の警察は情けないったらありゃしない!」
留音「ずいぶん熱が籠もってるなぁ……お金絡みだから……」
西香「それでですね、皆さん。わたくし今日の日めくり企画を決めました。その三億円事件を見物に行きましょう。もう犯人は割れてるんですのよ。白バイ隊員に偽装した男が犯人だって。ですからその場を見に行こうじゃありませんか。衣玖さん、あなたタイムワープ装置くらい持っていましたわよね?」
衣玖「当然あるけど……めんどいわね。未解決事件なら今日坂本龍馬の暗殺もあったからそっちの方が犯人気になるんだけど」
西香「あのですね衣玖さん。その坂本さんとやらでも三億……二十五億の価値はありませんわよ。わたくしは見てみたいのです。どのような鮮やかな手口で二十五億円という大金を盗み、そして逃げおおせたのか……」
留音「こいつ坂本龍馬を知らない……?」
西香「というわけで衣玖さん、タイムワープをお願いします」
衣玖「……まぁ行ってみましょうか」
西香「皆さん、特に留音さん。事が起きたらわたくしたちで輸送者側の救援に入りますわよ。謝礼で一割もらえるだけで今のお金で一億二億というお金が入りますわ……!!」
衣玖「超便利ワープ装置起動!」
みんなは光の量子となって時を超えた。
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犯行現場付近にて。木陰には白バイにまたがっている男がいる。
三億マン「私は三億という数値に惹かれ、それを求める者……なんだか今日はすごい三億に出会えるような気がしている白バイ隊員」
そのすぐ近くで、量子が収束すると共に少女たちが現れた。
西香「むっ……かすかに大金の香りがいたしますわ。もうじきここに来ますわよ……お金が」
提案した西香はクンクンと鼻を鳴らして気配を感じ取っているようだ。
衣玖「うん。超便利ワープによって場所とか時間も完璧にワープしてるからね」
三億マン「むむっ……三億の気……何かがここに……」
三億マンも同様に何かを感じ取っているようだ。ちょうどその時現金輸送車が見えてきた。誰よりも早く気付いた西香がバッと指で示しながら、叫ぶほどにはしゃいでいる。
西香「あ! 来ましたッ! 来ましたわッ!! げんきッ、現金輸送車がッ!!!」
留音「興奮しすぎだろ」
西香「さぁ、見せてもらいましょうか……三億円事件の犯人のお手並みとやらを……!ほら!見てくださいな!あそこに白バイ隊員!!犯人ですわよ!あれ犯人ですわよ!」
西香は木陰に佇む白バイ隊員こと三億マンに気付いて、アイドルでも見つけた少女のように「ひゃー!」と飛び跳ねる。
真凛「なんだか西香さんに不安を感じますねぇ~……犯罪は駄目ですよぉ?」
西香「当たり前じゃありませんか! わたくしは清廉潔白のド清楚美少女ですから。あくまで日本史至上最初で最後の国内で誰も損をしなかった劇場型強盗犯罪、という形が興味深いだけですわ」
その時、白バイ三億マンが動き始めた。
三億マン「はっ……あれだ……三億……!」
真凛「あの……ちょっと?」
向かうのは当然現金輸送車の方……ではなく。
留音「なんか白バイこっちに来てんな?」
西香「ど、どういうことですの!?」
少女たちの元であった。それから白バイをガシャンと倒しすと少女の一人に駆け寄り、跪いて言った。
三億マン「あぁ……あなたのお名前は……?」
相手は衣玖である。
衣玖「えっ」
三億マン「私は三億好夫……三億が大好きな警察官であります……あまりにも三億が好きすぎて、見たものが三億的なものかどうかすぐに分かるのです……それをついに見つけた。今までは三億円が当たらない宝くじしか見つけたことがなかったのに!!」
西香「さんお……あーびっくりしましたわ! 当たる方を見つけなさいな! なんて役に立たない!!」
三億マン「あなたから溢れ出る三億オーラ……いったいどこから溢れ出ているというのか。しかし私にはわかります。あなたは三億の女性だ!」
衣玖「ま、まぁ……たしかにIQは三億……」
三億マン「やはりそうだ! わたしはついに見つけた!! 楽して三億円稼ぐ方法を探しても見つからなかった! 三億つぎ込んでも愛したい女性も見つからなかった! 宝くじを何枚買っても三億当選くじは当たらなかった!」
留音「この人割と普通の事しか言ってないけど明確に変人だ」
三億マン「でも今日! IQ三億の人を見つけた!! どうか私と三億時間一緒に過ごしましょう!」
衣玖「え……そう言われてもちょっと……未来人だし」
三億マン「ま、まさか三億年後の未来から!?」
西香はこんなよくわからないやり取りではなく、もっと劇的な瞬間が見たいのである。いい加減にしろと三億マンに詰め寄った。
西香「ちょっとあなた! あなたあの現金輸送車からお金を盗むんじゃなかったんですの!?」
ほら、のんきに走ってますわ、なんて言われて件の輸送車を見る三億マン。だが彼は首を傾げた。
三億マン「え? 何をおっしゃっているんです。あの輸送車には三億なんてありませんよ」
衣玖のIQのを一瞬見抜いた三億マンは乾いた呆れ声で言った。だから本当にそうなのかもしれない。大金を運んでいるからダミーなのかも。そんな考えが少女たちによぎる。
留音「え、そうなの? タイミング間違え……ってあれ!? やっぱり襲われてないか!?」
視線を車に戻せば、何やら別の偽白バイ隊員が車から運転手などを退かせ、車の下から煙を噴出させて奪う準備を進めているところだった。
西香「あ、あー! 衣玖さんの茶番を見てて犯行のお手並みを見逃していましたわ! 三億ー!」
真犯人は車に乗り込み、すごい勢いで飛び出していった。
衣玖「あの輸送車に三億あるみたいけど……警察なんでしょ? 追わないの?」
三億マン「違いますよ、あの車には2億9430万7500円程度しか入っていません。私はきっかり三億が好きなんだ! 今日は三億記念日だ……後世に語り継がれる私の三億記念日だー!」
西香「良いんですのそれで!? あなた警察ですわよね!? 追いなさい! ちゃんと追って! わたくし以外の手に大金が渡ろうとしているのですよ!? それにあれ犯罪ですわよ!? こうなったらわたくしが追いますわ! 自らの足で!!」
真凛「西香さんが正義の心に目覚めた……?」
衣玖「そういえば奪われた金額の語呂合わせから『にくしみのないごうとう』とか言われてたわね」
留音「よくわからんけど、歴史は収束するって流れだなこれは」
今日は数多くの情報が残されるも未解決となった三億円事件の発生した日。
本人であるか、という真偽は定かではないが、この事件の犯人を名乗る人物が『小説家になろう』で当時の記録を(警察しか知らない情報も含めて、という触れ込みで)本事件を小説にしたそうである。(これホント)