2019年12月5日 新技完成!バミューダトライアングル!(の日)
2019年12月5日
イリス「いい?魔法にはね、現地特性というものがあるの。あたし達魔法使いの使う魔法はマナを使う。マナは自然発生するものもあるけど、人の感情エネルギーが変化しているという説もあるわ」
突然始まった異世界ものっぽい解説はななめ読みですっ飛ばし可である。アンジーはピンと来ないので口をぱかーと開けてなんの気なしの相槌をする。
アンジー「ふぁ~」
イリス「だから例えば、その地域に根ざしている何かを魔法にするとすごく強くなる。例えば香川県でうどんの魔法はめちゃくちゃ強いわ」
聖美「例えばコシが……ということかな……?」
イリス「そうよ。シッコシコになって噛み切れない位強くなる。対象を絞め落とす魔法に転用出来てしまうかもしれないわね。それでね、あたしは今日、新しい最強の魔法を作ったかもしれない……それも日めくりをやる人間に特効を持つはずよ。なんてったって記念日から作ったんだから。名付けて『バミューダトライアングル・バニッシュ』……ふたりとも、バミューダトライアングルって知ってる?」
聖美「魔の三角海域だよね。船とかがたくさん事故を起こしたっていう」
アンジー「あー!聞いたことあるよ!都市伝説かなんかの番組で!」
イリス「そう。バミューダトライアングル……略してBTとしましょう。ここでは船や飛空艇なんかが消えたりする怪事件が起きているらしいの。それも数々の不可解な状況でね。だからあたしはそれを魔法に昇華した。ちょうど三人でしょ、あたしたち。さぁ聖美、アンジー、こっちへ来て、トライアングルポーズを取るのよ!」
アンジー「トライアングルポーズ!?」
イリス「それっぽい三角形を作るの!」
三人は三角の角の部分に立ち、お互いの腕を使って大きな三角形を作り出した。そこにイリスが小さな杖を浮かせて何やら呪文を唱え始める。
イリス「サイン・コサイン・タンジェント、内角の和が百八十……!」
すると三人の中心からブラックホールのような空間が発生し、周囲の空気を吸い込んでいる。聖美ははためくスカートを抑えるのに必死で、イリスはミニスカートだが気にしていない。アンジーが「見えてるよ!」と注意するが「女同士でしょ!気にしないで!」なんて言っている。
イリス「出来たわ……BTバニッシュ。実際のBTの怪現象になぞらえて対象を吸い込み消失させる大魔法よ。これで奴ら、五人少女達を一人ずつ消していく……さぁふたりとも!出陣よ!五人少女をまずは四人少女にしてやろうじゃないの!」
こうして勇み足で五人少女の家に向かったミニーズ。その途中買い物帰りの真凛が歩いていた。
アンジー「とおりゃー!五人少女ミニーズ参上!やっほーこんにちは!真凛ちゃん!」
聖美「ど、どうもこんにちは……その節はどうも……」
イリス「悪いわね、真凛。孤立したあなたから消えてもらう……さぁアンジー!聖美!BTの陣を組みなさい!」
アンジー「らじゃっ!」
聖美「(ととととっ)」
そして再びトライアングルポーズを決めるミニーズ。
イリス「情報によれば真凛、あなたはとんでもない曲者らしいわね!だから間髪入れず消えてもらう!BTバニッ……」
三人を中心にして再び時空が歪みだした。既に風が吸い込まれており、周囲の木々がそこを中心に引っ張られるように葉を揺らしている。真凛は買い物袋をしっかり抱えながら言った。
真凛「えぇっと、すみません。どちら様ですかぁ……?」
時空の歪みは勢力を拡大し、また真凛の一言で少しずつ弱まっていった。全開稼働していたパソコンのファンが落ち着いてきた時のような音の静まり方である。
イリス「……覚えてない?」
真凛「あっ!;前に会いましたよねっ!;会いました会いました!……会いました!……えっと、えっと、この前本屋さんで立ち読みしていた人かな……あいや!じゃがいもの袋詰がセールで最後の一つをわたしが買っちゃった時に後ろに並んでた人ですねっ!?」
聖美「……」
アンジー「……」
時空のゆがみは完全に消え去った。
イリス「……テンションが下がると魔法って使えないのよね。撤退よふたりとも……」
三人はトボトボと真凛の前から姿を消していった。でもその後「あ!変顔の人だ!んぶっふ!」と思い出し笑いはしていたので完全に忘れてはいないようである。
アンジー「うん、仕方ないよ、ポッと出だもん、ボクたち」
聖美「そうだよね。認知されてないから……」
イリス「……気を取り直していくわよ。大丈夫、自称天才もいるのよ、あいつらの中には。これでそいつがあたしたちの事覚えてなかったらやーい自称自称って貶してやりましょう……行く?」
アンジー「ボク、ちょっと休憩してからがいいかな……」
イリス「実はあたしもそうしたいと思ってた」
聖美「それがいいね」
はぁ……とミニーズで公園の自動販売機でアンジーはホットミルクセーキを、聖美はほっとミルクティを、イリスはおしるこを買って座って飲んでいた。少し冷えるな、そんなことを思いながら。
するとそこへ歩いてきたのは小さな影……紛れもなく衣玖である。ミニーズはひそひそと「アレ衣玖ちゃんじゃない?」「ほんとだ……」「覚えてるかな……」と耳打ちしあっている。
衣玖「ちょっとあなた達」
アンジー「な、なぁに……?」
衣玖「さっきから局所的にマイクロブラックホールみたいなのが発生してるみたいなんだけど、イリス、あなたの仕業じゃないの?」
イリス「……な、なんで?」
衣玖「なんでって、あなた魔法使いなんでしょ? イリス・フォン・ルクレツィア・セーヌ・ラプソディ」
一息に言ってくれた衣玖に、イリスはぱぁっと表情を明るくして立ち上がった。
イリス「ふ、ふん、さすが天才ね。なんでもお見通しってわけ……そうよ、あたし達の新技、見るがいい!いくわよみんな! バミューダ!」
ノッてきた!イリスはみんなを即興の掛け声で位置につかせる。
聖美「トライアングル!」
アンジー「バニッシュ!!!」
衣玖「なるほど。バミューダトライアングルにひっかけた魔法なのね。今日ってバミュトラの日だし、図らずしも日めくりしてるじゃない。でもミニーズ、それ迷信っていうか、作り話って知ってた?」
今度はシャットダウンするパソコンよりも早く、強制シャットダウンさせたときみたいな早さでプツンと魔力の流れが途切れ、空間の歪みは即座に消滅した。
イリス「……そうなの?」
衣玖「海難事故なんて普通にあるし、それがあの海域だけ多いなんて事ないのよ。さも超常現象みたいな言われ方してるけど、あれって盛られた話なのよね。でもわかるわ。私も都市伝説なんかは好きだしそういう空間があるなら是非研究してみたいと思うもの。まぁ目の付け所はいいわね、バミューダトライアングル、私は名前も好き。ミニーズ頑張ってるわね。でもあんまりブラックホールはつくらないようにしなさいね、後処理が大変よ、私もやらかしたことがあるし……。ふぅ良かった~……私のブラックホールの子供が散歩してるわけじゃなくて……」
衣玖は言うだけ言うとてこてこ帰っていってしまった。
イリス「……ばみゅ……」
アンジー「……帰ろっか……」
聖美「そうだね……」
それ以降、バミューダトライアングルバニッシュの発動をすることはなかった。
アンジー「衣玖ちゃん、いい子だね……」
聖美「褒めてくれたね~……」
イリス「名前、覚えててくれた……」
このトライアドはまだまだバニッシュしなさそうだ。