2019年12月4日 血清療法の日
2019年12月4日
それは遠くの空に雷鳴が轟くある曇りの日の事だった。
留音「た、大変だ―!なぜだか突然近所の街の一帯がゾンビだらけになっちまったぞー!」
衣玖「なんてこと。でもこんなこともあろうかと既に対ゾンビ化対策は既に用意してあるわ。今からこれを注射する。みんな、チクっとするけど我慢してね」
既に街から供給される電力は途絶えており、薄暗い曇天の中で衣玖はそう言って、五本分の注射器を取り出した。針が当たっても全く痛くないように改造された注射器によって、全員の体に対ゾンビ化の秘薬が入り込んだ。
真凛「でも大丈夫なんですか? ゾンビって言っても原因色々あるじゃないですかぁ」
衣玖「当然よ。私を誰だと思ってるの? 呪術、謎の宇宙細菌、古代寄生虫、製薬会社の意図的なウィルス散布……これはその全てのゾンビ化原因に対応する最強の手段となる注射よ」
西香「相変わらずのスーパーご都合天才ですわね。でも今はそれに甘える時ですわ。何故ならそんな話をしているうちにわたくしたちのお家がゾンビたちに包囲されてしまったので」
ひしめくゾンビたちに完全に包囲され、ドンドンと家のドアが乱暴に叩かれている。
留音「仕方ねぇ、あたしの出番だな……まぁ元々手傷の一つだって追わずにゾンビなんざ殲滅出来るわけだが……じゃあちょっとやってくるぜ!」
衣玖「待って! ルー! ゾンビ化は病気よ! それを倒すということは殺人にも等しい行為よ! 清純コンテンツにその要素は重すぎる!」
留音「なんだ急に……パニック映画の害悪キャラみたいな事言い出して……」
真凛「もしかして衣玖さん、その血清でゾンビになった人たちを治せるんですか?」
衣玖「不可能ではないわ。でもそれだとこの秘薬の準備に時間がかかってしまう……なんせ注射器に一本一本液体を注入して水滴が一滴一滴落ちるのを見守る仕事をしなきゃならないから」
西香「それはまた随分不毛な作業を経て作り出した秘薬なんですのね……」
留音「それでも衣玖、お前がそんな事を言い出したってことは別の方法があるってことなんだろ?」
衣玖「えぇ。今日は血清療法の日という事がポイントになっているの。血清とはつまり、弱い毒を打ち込んで対応する病気の治療を行う事……そう、つまりみんなには一時的にゾンビになってもらっています!」
ジャジャーン!と鏡を持ち出してみんなの姿を映し出した。
留音「う、うおー! 画面蒼白だ! 死んでるような生きてるような血色の悪さだ!」
衣玖「そう、ゾンビ化初期段階にあるわ。でもまだ人間よ。ゾンビたちは鮮肉を求めて私達の体をむさぼり食おうとするでしょうね……」
真凛「えぇっ! じゃあだめじゃないですかぁ!」
衣玖「心配はいらないわ。私達の体は既にワクチンを持っている。だから噛まれてもこれ以上ゾンビ化しないし、噛まれたら噛まれたでむしろ噛んだ方のゾンビ化が治るわ」
留音「なんじゃそら……お前まさかとんでもない方法で対応しようってんじゃなかろうな……?」
衣玖「そんなわけないでしょ。私はいつだって攻撃的パンキッシュロックンロールガール。そう、私達は今、体全体が対ゾンビ血清の役割を持っている。その分泌物の全てがゾンビ化を治療する最強の薬となっているのよ。ということはつまり……言わなくてもわかるわね」
西香「全然わかりませんけど」
衣玖「その通り。むしろ私達が噛んでやるの。人間がゾンビになることが病気なら、血清存在となった私達が同じ理論を反転して適応出来ないわけがない。つまりゾンビに"人間を感染させる人間化を引き起こす"……時代は変わった。私が変えた。私達は血清としてゾンビと戦う。でもゾンビからしたら人間を感染するも同義よ。ゾンビのIQならさぞ苦のない日々を送れるでしょうけど、人間を感染することで大変な毎日を再び過ごすことになる……やはりホラー映画としての体裁は崩れない。さすがゾンビ。完成されたコンテンツ」
真凛「会話になっていませんし何を言っているのかもわかりません……!」
留音「衣玖はゾンビもの結構好きだからなぁ……」
衣玖「ふははははは! いくわよみんな! あの腐った死体共を噛んで噛んで噛みまくる! そう! むしろ私達がゾンビ! 紛れもなくゾンビだけど私達自身が血清の役割を果たし、ゾンビを浄化するのだ!! ふわーっはっはっは!」
西香「楽しそうですわね。噛むったって相手は腐った死体ですわよね。ちょっと神経疑いますわ」
留音「なぁ衣玖ー、それって唾液とかペッってやるだけじゃだめなのか?」
衣玖「ありかもしれないわね……とは言え、映画で唾液だけで感染はしな……あー! そうよね! ゾンビの唾液も傷口から入ったら感染するわ! ……ということは既にボロボロのゾンビ達は私達の唾液だけでも人間化を発症して人間になる……!? すごいわ……逆の視点で考えたらとんでもない恐怖演出よ……もしゾンビがツバを吐いてきて、それが人間に当たっただけで感染するとしたら……これはあらたなゾンビ映画のスタンダードな恐怖演出にもなり得る!! 今日はなんて素晴らしい日なの!!!」
留音「よく喋るなぁ……」
衣玖「さぁ行くわよ!! 私達、血清少女! ゾンビを人間化させてやるのよ!」
西香「視点が逆になってますわね」
真凛「楽しそうだなぁー」
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聖美「イリスちゃーん! 外が大変なことになってるよー! ゾンビ! ぞんびー!」
イリス「うーん失敗したわ。完全に失敗した。まぁあるあるなのよ、召喚術の失敗って。私達の世界じゃ完全によくある話なの。で、意味わからないしょぼい男とか別の世界の魔王とかが呼ばれんの。よく知らないけどね。でもそんな知識量でやる話じゃなかったわ、これ」
アンジー「なんでもいいけどー! もうバリケード限界だよー!! 壊れちゃう! ボク壊れちゃうよぉーっ!」
イリス「参ったわね。せめてあいつら五人少女共が壊滅しててくれたらいいんだけど」
聖美「そんな事言ってる場合じゃないよぉ! なんとかしてぇ!」
イリス「超巨大宇宙生物ゴルゴンゾーライオンの召喚にはまだ触媒が足りないのね……おのれ五人少女共、いつか絶対倒してやるわ」
アンジー「言ってる場合じゃないんだってばぁー! だぁれかたっしゅけてー!」