2019年11月27日 更生保護記念日
2019年11月27日
ここは極悪非道なワルを更生のために保護する施設、エブリデイ少年院。
そんな更生施設の中に今日もまた、一人のワルが収容される。
「ねぇ、さっき看守さんから聞いたんだけど……今日は札付きの暴力事件を起こした人が来るらしいよ……」
「そうなの……もしあの人達に目をつけられたらまたここが荒れるね……」
既に収容されている少女達はヒソヒソ噂をしている。ブザーが鳴り、開かれた扉の向こうから現れた新たな収容者の姿が見えてくる。長い金髪、抜群の体型。彼女の名前は留音。彼女は黙って看守(保護委員)に連れられ、長い足を組んで座椅子に座り、収容の手続きを待っているらしい。
「……ちょっとかっこいいね」
「やめなよ!殴られるかも……!それに他の人に憧れてることが西香さんにバレたら……」
コソコソと話す二人は気付いていなかった。そのすぐ後ろに西香と呼ばれる極悪人が迫っていることを。
西香「お二人共……何を話しているんですの?」
「ひっ!あっ、は、西香さんっ……素晴らしい私の友達西香さん……」
「す、すいませんっ、すぐにお友達業務に取り掛かりますので!素晴らしい私の友達西香さん!」
西香「困りますわね。ちゃんとわたくしのために働いてもらわないと。……あら?あちらは?」
「は、はい……えと、今日収容される、暴力事件を起こしたって人で……」
西香「へぇ……まぁ見るからにバカで脳筋そうですわね……そうですわ、あの方もわたくしのお友達にしましょう……お二人はもう行きなさいな。あなた方のようなひょろい方がいても邪魔ですわ。さぁ、わたくしの護衛、アーマードブサイク(AB)さん、あの方に『お願い』、しに行きましょう」
AB「ぶぁぃ……」
収容少女たちは急いで逃げるように立ち去った。そして西香は大きな"お友達"を引き連れて留音の元に行くと馴れ馴れしく話しかける。
西香「ちょっとあなた。新入りですわね。ここのルール、わかってます?わたくしがボス。ボスの西香様ですわ。ここに入った方々はみんなわたくしのお友達として働かなければなりませんのよ。でないとどうなるか……おわかりでですよね?」
西香はニコ、と一歩下がり、ABを前に置く。
留音「興味ないね……構わないでくれないか」
西香「あら、クールですわね……でも良くないですわ。わたくしには忠実でいてもらわないと。さぁブサイクさん!この方にわからせてあげてくださいな!もちろん看守さんにはバレないようにですわよ!」
AB「ぶぁ~」
留音「(チッ……)後悔するぞ?」
AB「サイカサマ、メイレイ、ダイイチー!」
留音は立ち上がり、伸ばした四本指の腹を天井に向け、相手に向かって突き出した指先をくいくいと2回持ち上げる。
留音「……ホぁタァー!!アチョアチョアチョアチョ!!ホアッチャー!!!」
留音はまるで特定の誰かのように、ジークンドーを極めた誰かのように6秒も時間をかけずにABを戦闘不能にした。
西香「なっ、ちょっと……そんな……わたくしの私兵の中でも最重量級のアーマードブサイクさんがこうも容易く、一瞬で……!?」
留音「やめとけと言った。今日のあたしは……悲しいんだ。放っておいてくれ」
そこに手続きを終えた看守が現れる。
「こら!何をやっている!!」
留音「こいつが……」
看守は西香を見ると事態を察したようだ。留音に収容部屋のIDと館内の地図、着替えを渡して「もう行きなさい」と肩を押した。不服そうに歩いていく留音の後ろで見送る看守と西香はこんな話をする。
「西香様、あの少女はやめておいたほうが良いかもしれません」
既に看守は西香の手先に落ちていたのだ。
西香「どうしてですの?何をやった方なんです?あんなに強いなんて……」
「西香様は、ブルース・リーという人物をご存知ですか?」
西香「えぇ。名前を聞いたことくらいは……」
「あの留音という娘は、そのブルース・リーの誕生日を祝うために演舞を行っていたのです。しかしその最中、ブルース・リーにの若すぎる死を思い出して興奮した彼女は……私にも信じられませんが、『超最強波』なる波動砲を街中で発射し、大惨事を起こしたと言います」
西香「超最強波……?」
「資料を見ましたが、町一個クレーターのようになっていましたよ。もう一度言いますが西香様、あの少女はやめたほうがいいかと……今でこそ亡きブルース・リーのために実戦6秒とされるジークンドーに流派を縛っているようですが……その気になればこの施設ですら容易に制圧することでしょう」
西香「……くっ……」
数日後……留音の噂は既に院全体に広まっていた。街を破壊した化け物だと。
孤独に佇む彼女に、西香とは別の人間がアプローチを取ってきた。その人物は背が低く、あまり目立つようなタイプではない。だが放つオーラはあの西香とも同等かそれ以上であり、留音はその小さな少女に只者ではないという気配をしっかりと感じ取っていた。
衣玖「こんにちは、クラッシャー。私は衣玖……通称、デストロイヤー衣玖」
留音「なんだそれは……」
衣玖「さぁね。私の犯罪歴から他の人達が付けたあだ名よ」
留音「違う。なんであたしがクラッシャーなんだ」
衣玖「あら、知らないの?もうあなたはここでクラッシャーと呼ばれてる。町を一つ破壊した……破壊者。私と同類ってわけ」
留音「同類……?」
衣玖「お互い破壊者でしょ。私はデストロイヤーなんだから」
留音「なんで?っていうか死ぬほどトロいって悪口だぞ。あんまり人に言わないほうが良い」
衣玖「(あ、こいつバカだ)」
衣玖は少しだけ考えた後、あることを提案した。
衣玖「……提案があるのよ。私と同盟を組まない?倒したい相手が……」
留音「興味ない。あたしは静かに過ごしたいんだ」
衣玖「……そう。でも今のうちに頷いておいたほうがいいわよ」
衣玖の纏う空気が変わったことを、留音の持つ戦闘センスが察知した。留音はいつでも事態に対応出来るように体勢を整えている。
留音「……チビが。あたしに勝てると思ってんのか……?」
衣玖「悪いけど……私はあなたより強い。というか、あなたのような人を屈服させる方法を知ってるのよ。天才だからね」
留音「……面白ぇじゃねぇか。いいぜ、お前がもしあたしに勝ったら、話を聞いてやるよ」
留音は立ち上がると準備運動のつもりか、手のひらをコキコキと威圧的に鳴らして見せる。
衣玖「協力してもらうわよ」
留音「……来な、先手はやる。最強の使い手としては、お前の技を受けても全然効かないってところを見せなきゃならないからな」
施設内はにわかにその二人の緊張を感じ取り、自然と二人を囲むように目が向いていた。既に二人の舞台が出来上がっているのだ。
衣玖「じゃあ遠慮なく……しちいちがしち」
留音「……あっ?」
衣玖「しちに、じゅうし」
留音「お、おいっ……まっ……」
衣玖「さてしちさん!?」
戸惑う留音に対し、呪文を唱えるかのように迫った衣玖は突如そう、問題形式に切り替えたのだ。これによって留音は3億トンの質量による攻撃を受けたのと同じような衝撃を脳髄に直接食らったのである。
留音「待てっ!それは!!」
衣玖「にじゅうし?にじゅうしち?……にじゅうに!?答えは!?」
留音「う!!うわぁあ!!!!頭が……割れる!?」
衣玖「にじゅういちよ。……効くでしょう。あなたと話していたすぐにわかった。7の段がめちゃくちゃ不得意なタイプだってね……!」
留音「そんなっ……あの一瞬で……たった少しの会話であたしの弱点を見つけたってのか……」
衣玖「しちしちしじゅうくぅ!!!」
留音「えっ、しちしち……?あ"あ"あああ!!!やめろ!いきなり段数を飛ばすな!!余計にわからなくなる!!!」
留音は少しだけ考え、理解が追いついてから悶え苦しんだ。
衣玖「しちご、さんじゅうご」
留音「ぐぁあああ!!また段を戻すな!!飛んでからまた飛んで段を戻すな!!!わかった!!話を聞く!!!!」
屈服した留音の様子に館内はざわついた。衣玖には味方がいなかったのだ。強大な西香連合をかいくぐって孤独に過ごしていた衣玖が、最強の駒を手に入れた瞬間に館内の動揺は最高潮に達している。
衣玖「……いいでしょう。倒したい相手……この施設を裏で操る闇のドン。……真凛という収容者がいる。この収容所を静かにディストピアのように作り変えている元凶。そいつを倒す手伝いをして欲しい」
留音「……あたしの弱点が握られてんだ。協力しないわけには行かないな……しかしその一瞬で弱点を見抜く頭脳、お前も只者じゃないな。何をしてここに来たんだ?」
衣玖「ふん、IQ3億のちゃちな女よ。……既存の腐った世界構造を根本から破壊し、世界に新たな秩序をもたらそうとした、哀れな美少女……それが私よ。……今は、この小さな環境を変えたいと思っている」
衣玖の深い瞳の色に何かを悟ったのか、留音は肩の力を抜いて言った。
留音「……それであたしと同じ破壊者、か。……わかった、詳しい話を聞くよ」
それからなんやかんやで色々あった。そこに西香が加わり、真凛と対峙。4人はなんやかんやで新しく赴任してきた先生に直接指導をされることになる。最初は反発する4人だったが、その先生は愛を持って更正を促した。
真凛「先生ー!じゃあ先生はわたしたちのこと大好きってことですかぁー!?」
留音「あたしのこともですか!!」
西香「あーん!悪いことなんてもうしませんわ!!先生がいてくださるなら!これが愛!!」
衣玖「世界はこんなに……光に満ちていたのね……」
あの子「(๑°꒵°๑)・*♡」
稀代の悪達は最高の先生の元で愛を学び、超更正した。やはり人間、愛が無くてはだめなのだ。