2019年11月12日 スタン・リーは言った「最強の能力は何か?それはね……」
2019年11月12日
格闘最強の留音。彼女に近接戦で勝てる生物は存在しない。遠距離戦においても、彼女の持つ「超最強波」はその名の通り超最強。本気の超最強波は如何なる科学をも打ち破り、宇宙魔王が相手でも吹き飛ばす。相手が自分を上回ろうと、その一歩先を行くのだ。
だから衣玖は留音に勝てない。科学の力で如何に強いバリアを作ったところで、超最強波には突破されてしまうのだ。相手が強いほどに燃え上がる戦闘力は何者にも負けることはない。本気の留音は"思考"よりも早く動くことが出来るのだ。
そして真凛も留音には勝てない。地球を破壊すれば酸素を奪って留音を倒せるかもしれない。だがそれも一瞬で奪うことが出来なければ、留音は一息で超最強波を真凛に向けて放つだろう。真凛にそれを打ち消すことは出来ない。もしも留音の視界内、つまり間合いの中であれば、本気の留音の早さに真凛は微動とする前に気絶の一つも簡単に奪われてしまうだろう。
だが科学は進化する。常に人間とともに歩んできた科学は、時代を重ねることで"威力"を高めてきた。
最強の頭脳を持つ衣玖はどうだろう。彼女によって科学は天文学的な早さで進歩する。その彼女の作り出す品が、留音の超最強波を防げないことがあるのだろうか。答えは否。次元歪曲、重力圧縮、高次へのアクセスすら可能にして、衣玖はどんな不可能をも可能にする。
だから衣玖には、あの真凛すら勝てない。真凛が"破壊"と"創造"が出来るなら、衣玖は科学によって"固定"させて対処する。彼女であれば"具現化"すら可能とするだろう。真凛の破壊の力を封じ、宇宙の端で起きる出来事まで計算可能な衣玖の頭脳であれば、例え宇宙の魔王たる存在が相手であろうともいとも容易く勝利を掴むのだ。
しかし本当にそうなのか。
真の最強は概念にアクセスし、根本すら変えることが出来る真凛である。世界を作り変えるその能力は、そもそも相手を作らないのだ。自身が負ける世界、という世界そのものを作り変えることで何もかもに対処するだろう。
真凛にしてみれば相手が最強の格闘少女であろうと、相手が至極の天才少女であろうと、相手の存在か、もしくは負ける可能性を消してしまえばいいだけのことである。
それほどまでに異次元の戦いを繰り広げる少女たちの中にいるのが、西香という美少女である。
可愛いは正義、という言葉はあるものの、それは対人関係の形によってはまるっきり役に立たないこともある中で、一体何故、西香が最強の少女達と渡り合ってきたのか。
答えの一つは、バナナの皮。
留音「だぁー!!西香!!!お前もういい加減にしろ!!!もうビンタする!絶対殴る!!」
西香「うわっ暴力ですの?ほんと野蛮人ですわね」
留音をこれまでにないほど(無意識で)怒らせていた西香は、留音の本気のビンタを食らうかもしれないところであった。
留音「オラァ―!」
衣玖「(あーバナナ美味しかった。ぽいっちょ。あっ、ゴミ箱外した)」
亜光速で迫る留音の進行ルートに、バナナの皮。
留音「あ゛~~~~~―っ!!!」
皮を踏み、滑っていく留音。彼女は家の壁をぶち抜いてそのままバナナの皮によってかっ飛んでいく。それはそうだろう、視界内の距離を一瞬で詰められる程の瞬歩の持ち主が本気でバナナの皮に乗ったのだ。バナナの皮は一瞬の摩擦で燃え尽きたが、留音の体は超高速回転をしてどこかに飛んでいってしまう。
西香「……あらっ?留音さんは?まだ会話の途中でしたけど」
真凛「星になっちゃいましたねぇ……この壁誰が直すんだろう……」
そしてまた別の答えの一つ、金ダライ。
衣玖「許さないわよ西香……一番苦しむ方法で……見てなさいよ……」
やっぱり西香がめちゃくちゃ怒らせていた衣玖が邪悪な表情でパソコンに向かい、何やら八大地獄を超える刑を与え続ける装置の設計に取り掛かり、そしてそれを完成させたのだ。あとはそれを西香に使うだけ。ヤツはどこだと骸骨面を付けて屋内を徘徊し、家の中にいないのでベランダから外に出て庭を確認……というところで衣玖の頭に降ってくる金ダライ。
衣玖「ィダッ!!!!」
衝撃に頭を抱える衣玖。その拍子に開発したスーパー八大地獄装置を落としてしまう。
衣玖「いったあー!ちょっと!!誰よこんなところで金ダライ使ってたのは!!」
留音「(やべっ……隠れっ……)」
衣玖は金ダライを起き、足元の装置を手に取る。
衣玖「……地獄の苦しみ装置が……あれ、動かない……?あー!もう!!調整大変だったのに!!!誰―!?」
留音「(退散退散……)」
衣玖「……もういいわ……なんか馬鹿みたいに思えてきた……そうよ、あいつにレベルをあわせる必要無いじゃないの……真の天才は怒らない……別の解決方法を見つけるものよ……」
こうして西香への悪感情は建設的な方法で解消されることになる。
衣玖「そうだ、この金ダライに水をいれてアヒルちゃん人形を浮かべよう……小さな波を発生させて……ぷかぷか浮くアヒルちゃんを見ていれば良い瞑想になるはず……」
また別の答えはそう、郵便とかそういうの。
真凛「西香さん。いい加減に反省してください。でないと……」
西香「えーーーだってわたくし悪くないじゃありませんかー!当然の権利を主張したまでで……」
真凛「あーーもう!!消し去ってやりますから!!あなたという存在を概念レベルでぇーー!!!」
その時家に響くピンポーンという音。
西香「郵便ですわよ。出ませんの?」
真凛「……」
真凛は振り上げた腕をゆっくりと下げ玄関に向かう。書留でーす、という声が西香の耳に聞こえた。それは衣玖宛で、真凛がせっせと衣玖の部屋に置いて戻ってきた。
真凛「それでですね!!西香さんは本当にしょうがない人でもう本当に怒ってるんですからね!!」
そしてまた響くピンポーンという音。
西香「郵便ですわよ。わたくし行きましょうか?」
真凛「……」
真凛は再び黙って席を立ち玄関へ。すいません、荷物もありました。と礼儀正しい配達員の対応をし終わると、真凛は不本意そうに留音宛のダンボールを運んでいる。だが重かったのかリビングの脇に置き、再び西香の前の席に座った。
真凛「で、なんでしたっけ……そうだ、西香さんは本当に性格がおかしいです!直さないと!……なんだっけ……」
西香「あの、お話はある程度まとまった段階でしていただけませんか?わたくしだって暇じゃありませんの」
真凛「もうー!そういうところが……」
今度は電話だった。真凛は「もーーー!!」と電話を取ると、すぐに声音を変え「ほんとですかぁ!?」とハズんでいる。
真凛「やりましたよ西香さん!なんだかわかりませんが何かが当選したんだそうです!」
その真凛の言葉に西香は胡散臭そうな表情を浮かべ、真凛の隣に立つ。
西香「はぁ、なんですのそれ?……ちょっと貸して下さいな真凛さん。あのもしもし。どちらさま?……はぁ。……はい、そうですの。結構ですわ」
西香はガチャと受話器を起き、電話線を抜いた。
真凛「え、えー!何してるんですかぁ!何かしら当選したから住所を教えてって……」
西香「詐欺ですわよ詐欺。全く真凛さんは単純ですわね。こんな使い古された手に引っかからないでくださいな。着拒着拒」
真凛「え、えー……詐欺なんですかぁ……?」
西香「だいぶ古い手口ですけどね」
真凛「そ、そうなんだ……良かったぁ、西香さんいて……で、なんだったっけ……」
というわけで、時には衣玖が捨て損ねたバナナの皮、時には留音が遊んでいた金ダライ、時にはこんな日常の出来事が西香を守護のベールに包んでいる。それも当人がほとんど関与しないだけ悪質な幸運だ。
アメコミの巨匠、スパイダーマンやアイアンマンを生んだ最強のアメリカンコミック原作者、今日を命日とするスタン・リーはこう言った。
「最強の能力が何かと言えば、それは幸運だ。幸運さえあれば全てがうまくいくのだよ」と。
しかしそれすら本当にそうなのだろうか。この家にはまだ上がいるのである。