2019年11月8日 おもてなしの心の日
2019年11月8日
真凛「パパが来るそうです」
真凛は突然、疲れたようにそう言った。
留音「え?どういうこと?」
衣玖「真凛のお父さんが来るってことでしょ」
留音「いや日本語を解説して欲しくてした質問じゃなくて」
真凛「なんかぁ……わたしがこっちで元気にやってるのか気になるみたいで……なんか、今日、もう来るんだそうです……パパからのメッセージ見てなくて今気づいて……」
衣玖「そうなの……え、この家に?」
真凛「はいぃ……」
留音「はー、そりゃあまた。たまに話しには聞いてたけど、真凛の事大好きなパパさんなんだろ?」
真凛「まぁ……でもこっちにまで来るなんて……はぁ、憂鬱ですよぉ……」
衣玖「それはおもてなししないといけないわね。っていうか、地球的に大丈夫なの?真凛のお父さんってなんか魔王的な人なんじゃないの?」
真凛「まぁわたしの能力が一部パパ譲りであることはそうなんですけど……はぁー……来なくていいのになぁ」
留音「マジか。あれかな、ちゃんとしてないと気に食わなくて地球破壊みたいなベタな展開もある感じか?」
真凛「割と俗っぽい文化が好きなのですぐにはならないと思いますけど、可能性はゼロではないですねぇ~……」
衣玖「ならば地球防衛最前線である私達は最高のおもてなしをしなければならないわね」
留音「今日がおもてなしの日だってことはわかったから」
そんな話の最中、真凛は風の揺れる音を聞いた。
真凛「あっ……この超新星爆発にも似た宇宙を震わせるビッグバンスキール音は……」
真凛は窓の外を見上げた。みんなも空を見て、そこに流星が一つ流れてきているのが確認出来た。その流星は地表に衝突する寸前に急停止すると、優雅にちょこんとみんなの住む家の裏庭に降り、中から人が現れた。その影は思ったよりも大きくなく、風に揺れる髪は"お父さん"のイメージを持たない。
真凛「あ!あれーっ!?ママだ~♪」
真凛ママ「あ~っ、まーちゃん~っ」
窓越しに挨拶をする二人。現れた女性は真凛をそのまま成長させたような雰囲気を持っており、長い赤髪と母性に溢れていながらも、どこか幼さも持っているおっとりとした女性で、母親というよりも少し年の離れた姉にすら見えるかもしれない。そんな人を見て留音がボソりと呟く。
留音「ママさんが来たのか。ママリンだ」
衣玖「ぶっ……ぷふっ……ママリン……」
こらえ笑いをする衣玖も連れ、みんなで外に出て来客を迎える。
真凛「どうしてママが来たんですかぁーっ?」
ママリン「パパ、張り切ってたんだけど、直前で風邪引いちゃったんです。それで代わりにママが来たんですよぉ~」
留音「何やらすごく一般的な理由でママリン来たようだぞ」
味をしめた留音が衣玖の耳元でそう囁いた。
衣玖「んふっ……ママリン来た……」
ママリン「それで……どうも皆さん、まーちゃんがお世話になってます~^^」
ママリンはペコ、と可愛らしくお辞儀をして、笑顔でそう言った。性格は真凛に似ているのかもしれない。
留音「あ、いえ、とんでもないです、こちらこそお世話になってて」
衣玖「ど、どうもです……」
あの子「(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾」
どうやらママリンは真凛とメッセージのやり取りをしていたことでみんなのことを知っていたらしく、一人ずつ名前を確認し、全員一致して満足そうにしていた。それからみんなの家を見上げたり、窓から見えるリビングの様子を見たりして興味津々でいる。
ママリン「それで、ここがみんなのお家なのね?へぇ~……」
真凛「いい場所ですよぉ~。あ、でも来ることに気付いたのさっきで、おもてなしの準備全然してなくて……」
ママリン「あぁうん、パパが既読がつかないって泣いてたから、そうかな~って思いました。いいのいいの、まーちゃんがどんな場所で過ごしてるのか見れたらそれでね」
留音「とりあえず入ろうぜ、結構広いからなんなら泊まってもらってもいいくらいじゃないか?」
衣玖「今ちょうど部屋余ってるしね」
真凛「ママ、お泊りセット持ってきてるの?」
ママリン「一応ね。でも往復でもそんなに時間かかりませんから、気を遣うことはありませんよ」
みんなでいつものリビングに入り、ママリンも交えて世間話などをしていると、そういえば、とママリンが持ちかける。
ママリン「えっと、そういえばこの家には五人で住んでるんですよね?一人見当たらないようですけど……」
留音「あっ……あいつは別にいいんじゃないかな……」
衣玖「今ちょっと……昨日から異空間にいるのよね……」
詳しくは昨日の日めくり参照の事であるが、まさかの続きである。
真凛「あー……戻すのあとでいっかって思ってたらつい……そういえば丸一日そのままに……」
ママリン「まっ。まーちゃん、もしかして誰かを異空間に閉じ込めてそのままにしてるの?!もぉ!そんな事に使うために異空次元断裂結合のやり方を教わったんじゃないでしょう?すぐ出してあげなきゃ……」
真凛「えぇ~……でも……ママが帰ったらやりますよぉ……」
ママリン「だめですよぉ!挨拶も出来ませんし、だいたいまーちゃん、お友達なんでしょう?異空間幽閉は流石にやりすぎですっ!もぉ~!」
するとママリン、空間にみょわみょわとしたワームホールを作り出し、その中に手を突っ込む。うーん、どこかなぁと手探りすると、誰かを捕まえたらしい、そのまま引っ張り出した。
西香「あ~れ~……はっ、皆さん……!と、誰ですのこのおばさまは」
衣玖「おばっ……ちょっと!あんた会って2秒で失礼ぶちかますのやめなさいよ!真凛のママさんよ!」
留音「そうだ!ママリンさんだぞ!」
ママリン「どうも~ママリンですよ~、はじめまして。西香ちゃんよね?」
すっかり愛称としてママリンが定着したようだ。
西香「あら、真凛さんのママリンさんでしたのね。どうもはじめまして。わたくし西香と申します」
ママリン「ごめんなさいね、まーちゃんが異空間に閉じ込めてしまったようで……辛くなかったですか?こっちの時間で丸一日ということは、だいたい八時間くらい一人でいたのでしょうか……?」
西香「あぁ、さっきのとってもお昼寝しやすい涼しくてジメッとしてて快適で薄暗い場所のことですの?(あれ?ちょっと待って下さい?この方いまわたくしに謝りましたわね……)」
ママリン「そうです、ごめんなさいね、心細かったでしょう?」
そんなママリンの気遣いに、西香は急に鼻を鳴らし、目を両手でこすり始めた。
西香「……ぐすっ……わたくし、なんにも悪いことしてないのに……っ、真凛さんったら……わたくしの事をね、あんなところにねっ……」
留音「まじかよこいつ……」
ママリン「あぁっ、ごめんなさいねっ、ほらっ、真凛ちゃんも謝って!西香ちゃん泣いちゃってますよ!」
真凛「やですよぉ……元はと言えば全部西香さんが悪いんですもん……ねぇ?皆さん……」
留音「まぁ全てにおいて……」
衣玖「うん何もかも……」
西香「違いますもの―!わたくし、素直で正直なだけですものー!それなのにみんなでそうやって……うぇっ……いっつもわたくしをのけものにするんですわぁ~!うえぇぇーん!」
ママリン「あらあら……まーちゃん!あなたこの家で一番強いんでしょう!まさか自分と違うことを言う子を除け者にしたり、他の子に口裏合わせるように強制したりしてないでしょうねっ!そんな事してたらママ、本気で怒りますよぉ!」
真凛「してないもん!これは西香さんがバカで守銭奴で空気読めなくて性根が腐ってて私達の天使ちゃんをも冒涜するような最低のクズ発言するのが悪いんですもん!」
ママリン「こらー!まーちゃん!人をそんな風に言っちゃいけません!そんな人いるわけないでしょう!もぉ―!喧嘩中だったの?!」
留音「い、衣玖……この場合どうしたらいいんだ……真凛は何一つ間違ってないけど援護射撃するとどんどん真凛が窮地に立たされて西香が有利になる気がするぞ……」
衣玖「……他人のお母さんにアプローチをかける……子供同士の中でも禁じ手のはずなのに……西香……やはり侮れない……」
ママリン「あっ!そうだ!真凛ちゃんにお土産に持ってきたモニャモニャティーとか恒星産ポワポワバナナとか、お土産たくさんあるんでした!これで美味しい異惑星スイーツを西香ちゃんに特別に作ってあげますから、それで機嫌を直してくれませんかぁ?」
真凛「えええええーーー!!!わたしの分はーー!?」
ママリン「もちろん、反省するまで抜きですよっ」
西香「ママリンさん、わたくし食べてみたいです……わたくしね、宇宙産のモノってなんでも好きですの。珍しいモノとか特に」
ママリン「そうなんだね~、じゃあもし西香ちゃんが気に入ってくれたら、今度うちの方からまた何か送ってあげるから……それで真凛ちゃんの事許して貰えないかなぁ?」
西香「もちろん!だって真凛さんとは一緒に暮らしているんですもの!」
ママリン「よかったぁ~。真凛ちゃん、許してくれるそうですよぉ。じゃあお料理しないといけませんね。キッチン借りますよぉ」
西香「は~い♪」
真凛「…………」
留音「……西香、もてなすはずの相手からもてなされてるんだけど……」
衣玖「……早い王手だったわ……」
真凛は後でママリンに説教をされ、真凛も必死に色々事情を話しあったものの、ママリンは結局「このくらいの子には色々あるんだろうな」と当人同士での解決に託すことにしたようだ。