2019年11月6日 お見合い記念日でお見合いに行く少女たち
2019年11月6日
カコン、という鹿威しの小気味の良い乾いた音が、自然石を敷き詰めた日本庭園に響いている。
少女たちは何故か紹介されたお見合いの席についていた。ちなみに特に乗り気ではない。
~~留音の場合~~
「それで、ご趣味は?」
留音「え?趣味?んープラモ……、あ、筋トレかなぁ?」
男は留音の引き締まった体を見て、ニヤケ面で楽しそうに言う。
「はぁ~、そうですかぁっ。僕もそれなりに鍛えているんですよ。どうですか、腕相撲でもしてみませんか?」
留音「え~……まぁいいけどさぁ……」
男には下心があるのかなんなのか。留音は気乗りせずも、一応相手を立てるために、男の差し出した腕を握った。
「いきますよぉ~……レディー、ゴーッ」
留音「……」
だが男が「ふんー!!!!!」と気合の声を出しても腕は全く動かず留音はキョトンとしている。
留音「まじでか。ちょれぃ」
留音はちょっと腕をひねると、男の腕はテーブルにめり込んで破壊し、その身を浅いバウンドの中で超回転させながら壁に激突していった。壁を破壊し、ホコリまみれになった男がなんとか立ち上がると、留音から距離を取り。
「……このゴリラ女ーっ!」
捨て台詞を吐いてどこかへ逃亡した。
留音「あひっで」
留音、お見合い失敗。
~~真凛の場合~~
「それで、ご趣味は」
真凛「うーん、お料理とぉ、お掃除かなぁ」
「へぁ~、それは素敵ですね。とても家庭的で。僕も好きですよ、掃除。料理はからっきしなんですけど、もう気がつくと掃除してますよ、コードとかもほら、ちょっとでも絡まってると気になっちゃって」
タキシードをきっちり整え、着こなした清潔感のある男は優しく笑いながらそう言った。
真凛「えぇっ!そうなんですかぁっ?あ~おんなじかも~……」
「わかりますっ?でもこれがあんまり理解されなくてね。ほら、布団とか掃除した時ね、うちの母親とかは毛布についたタグの位置とか気にしないで……」
真凛「あぁっ!それわかりますよぉー!お布団のタグは」
二人『左下っ!』
真凛「ね~!」
「あはは、気が合いますね」
真凛「わたしのお友達はそういう細かい気遣いみたいなのにあんまり気がついてくれる人とかいなくてぇ」
「なかなかねぇ。でも僕は気付いちゃうかもなぁー。みんなからは細かすぎるって言われるし、きっと真凛さんよりもずっと掃除にうるさいかも、なんて」
真凛「そんな事ないですよぉ!わたしの方が絶対細かいです!だってわたし、邪魔者とかいらない惑星とかのお掃除もしちゃうくらいお掃除好きなんですもん~っ」
「え、えっ?うぇっ??」
真凛「地球上の醜い人類とかもすぐお掃除したくなっちゃいますからね~☆」
「あはははは……え、どういう意味で……?」
真凛「あっ!こんな時に何故か隕石が落ちてきました!見て下さい!」
「うわ!?本当だ!?ってここに落ちる?!」
真凛「ああいうのが邪魔やつです!あんなものこうですよ!えーい!」
ちゅどごーん!真凛に二本の指を向けられただけで巨大隕石は粉々になり大気圏の摩擦で燃え尽きたためチリ一つ地球に到達出来なかった。
真凛「あ、見て下さいっ隕石のチリがいっぱい流れ星みたいになってますよぉ。汚い花火みたいです~」
「ひ、ひえええー!ベジータだァー!!」
真凛「えっ?なんか初めて言われましたけど……?」
真凛、お見合い失敗。
~~衣玖の場合~~
「それで、ご趣味は?」
衣玖の前には極めて普通の見た目、極めて普通の頭脳を持ったアベレージ男子が座っていた。
衣玖「今はα超誘導縮退元素(仮)と木星に送ってた高重力作業探査船が持って帰ってきた陽電気濃縮加速装置のノイジートライブちゃんで作ったデリクウェントビヘイバーコアを搭載したアーリーハドロントポロジカルディフェクティブクオンタムドライブのお世話をすることね」
「……えっ?」
衣玖「ん?どこかわからなかった?」
「……全て?」
衣玖「あぁそうなの?じゃあ一から説明するわね。まず超誘導縮退元素から行きましょうか。これはその名の通り磁束が変動する環境下において電位差が生じた際にある一部分に置いて対称性を持ちながらも全く別の性質を持つエネルギーがある起電力の時にのみ生まれて磁束の変化率を特定の方法で自在に変動可能な全く新しい元素なの。胎児の頃に思いついてたんだけど最近思い出して生成に時間がかかったのよね。これがあれば縮退作用を単調な電磁誘導で作用させることで今までとは全く違うエネルギー変換効率を持ったエネルギー元素としての運用が期待できるものなの。これまで作ってきた無限エネルギー装置はなんだかんだでエネルギー変換効率に満足が行っていなかったのよ。で、それを木星に送った高重力作業探査船に搭載した装置で高重力下において更なる圧縮と加速を繰り返すことで……」
「……えっ?」
衣玖「ん?どこかわからなかった?」
「……全て?」
衣玖「あっ、そういう事?えっと……数字のいち、ってわかるかなぁ?一般的に、あっ、一般的にって言ったら難しいわよね……とにかく最初の数字でね、ほら、ここにあるみかんは一個って言って……」
「う、うわぁぁぁーん!僕は日本語不自由だぁ~!」
衣玖「え~……ちゃんと教えてあげるのに……」
衣玖、お見合い失敗。
~~西香の場合~~
「それで、ご趣味は?」
西香の前には高級スーツと超高額なアクセサリーをいやらしくならないような範囲で身につける、礼儀正しい好青年が座っている。
西香「えぇ、茶道、弓道と薙刀、華道などを少々……」
「はぁ、素晴らしい。まさに日本の大和撫子……でもなんとなくわかっていました。あなたの一挙手一投足を見ていればそれが伝わってきます」
西香「そんな……恥ずかしいですわ」
「いえ、僕はあなたがこの場所に現れたときから、それを感じていた。戸を閉める動作、足運び、そして流麗な礼の動作に僕は見惚れていました。あなたの行動の一つ一つが、まるで吸い込まれてしまうほどに美しく、洗練された無駄のないものだった」
西香「そんな……やめてください、先生からはどれもまだまだだって毎日のように怒られているんですのよ?わたくしなんてそんな……」
「あぁ、なんて奥ゆかしい方だ。慎ましく、そして美しく、あなたの人間性には底が見えません。……今日は奇跡の日だ。あなたのような方に出会えて……でも……この出会いだけで終わらせたくありません。僕はもう、心の底からあなたの虜です。どうでしょう西香さん、僕はこれでもIT企業で社長をしています。あなたを絶対に不幸にはしません、この世で一番幸せにします。今日という日を……僕の新しい人生の始まりの日にしてはいただけないでしょうか。僕はあなたと共に歩みたい。どうでしょう、結婚を前提にして、僕と……」
西香「まぁ、ITの社長さんなんですのね……会社の規模はどれくらいなんですの?」
「あ、はい、純資産30億で、先日上場企業に認定されて……」
西香「(ちっ、大外れのクソザコじゃありませんの……あーぁ。なんでわたくしに石油王以下の方がお見合いを申し込んでくるのでしょうか……少しはわきまえてほしいものですわね……)」
西香、お見合い失敗。
~~あの子の場合~~
留音「おうおうおうおう!!どこのどいつだぁこの子にお見合い申し込んだってのはよぉー!あたしに話を通せってんだよぉー!!」
衣玖「おうおうおうおうー!木星帰りの男にしてやろうじゃないのよぉー!高重力下で圧縮してぺしゃんこにしてやるわよぉー!」
真凛「おーおーおー!その存在をアカシックレコードからすらも消してあげましょうかぁ?!」
西香「おーおー野蛮ですわね。わざわざ自分の手を汚す必要なんてありませんのに……それで、西香親衛隊の皆さん、ターゲットは敷地内にいるタキシード、または袴姿の男性全員。ターゲットを見つけたら即射殺OKですわ。かならず一人も生かして還すこと無く仕留めてくださいね」
あの子「(p>_<q)」
あの子、超絶お見合い失敗。