2019年11月4日 少しだけしっとりする"いいよ"の日
2019年11月4日
西香「ふふふ……ほほほほ……あーっはっは!ついに来ましたわよ!いいよの日!くふふふ……」
わたくしの名前は西香。とっても聡明で世界で最も美しい美少女の西香ですわ。わたくしが何故このような高笑いをしているか。それは今日という記念日にあります。
本日11月4日は"いい"と"よ"、の語呂合わせで「いいよの日」とされていますわ。一人ひとりの思いを否定されることなく"いいよ"と受け止め、なんだって"いいよ"と褒める社会、許す社会を目指して制定された、とても素敵な記念日です。
そして……わたくしの手元には衣玖さんの開発した「日めくり完遂スイッチ」なる発明品があるのです。これは衣玖さんが最終手段として作り出した品で、これを押すと全人類の思考を日めくりネタを完遂することに補正されるのです。
これは日めくり開始当初に開発されたものでしたが、わたくしには何故か秘密だったんですの。でもわたくし、みなさんのお部屋に隠しカメラを設置していますから、無駄無駄ですわ。あ、もちろんあの子の部屋は別ですわよ?信頼関係もありますし、そんなことをしたらプライバシーの侵害にあたりますからね。
そしてわたくしはしれっとこの装置をお借りして……そして今日この日を密かに待ち続けていました。
いいよの日。今日という日に、この日めくり完遂スイッチを押すことで、世界中の皆さんがわたくしの言葉を否定しなくなるのです。はぁなんて素晴らしいのでしょうか!
というわけで早速……ポチ!……と、これで何かが変わったのでしょうか。ちょっと出てみましょうか。衣玖さんが部屋にいらっしゃるようですわね。トントンと。
衣玖「なにー?」
あら、パソコンゲームで遊んでらっしゃるようですわね。
西香「衣玖さん、わたくしとお友達になっていただけますか?」
衣玖「もちろんいいわよ。突然何言ってるの?」
……おぉ!さすが衣玖さん!これで効いてなかったらとんだ無能ですものね!まずはサンプル一つ。続いて留音さんの方にも実験してみましょう!留音さんの部屋へ行って……扉トントンと。
留音「ん?西香か。なんだよ、今忙しいんだけど」
筋トレでしょうか。丸いリングを持って遊んでますわ。
西香「留音さん、とりあえず100万円ほどくださいませんか?」
留音「あー?なんだよ突然……しょうがねぇなぁ。今手持ち2万円しか無いから、ちょっと銀行行って借りてきてからでもいいか?」
西香「もちろん。今から行ってきてくださいます?」
留音「はいはい」
……おぉー!サンプルその2も無事ですわね!これはもう完璧でしょう!真凛さんはリビングかしら!お料理でも作ってるのではないでしょうか?……あぁやっぱり!
西香「晩ごはんですの?あら、今日はパスタですか?」
真凛「そうですよぉ~、美味しそうなアラビアータのレシピを見たので、試してみてるんで~す☆」
うーん。パスタ。悪くはありませんけど、今日はわたくしおめでたいものを食べたいですわね。
西香「あのう真凛さん、今日はわたくしお寿司が食べたいんですの。出前にしませんか?」
真凛「え~……せっかく作ってるのに……まぁ明日にすればいっかぁ……じゃあお寿司の出前とりましょ~」
はい!これでサンプル3つ目ですわ!素晴らしい!やはり世界はもう「いいよ」で溢れかえっています!わたくしの思うがままの世界!!
……あとはそうですわね。ふふふ……実はとてもいいプランを練っていたのです。まずはテレビ局へ行って……警備?通りたいんです、と言えば簡単に通してもらえますわ。そして放送も簡単にジャック出来ます。こうしてわたくしは簡単に全国生放送、全世界生中継の映像の主演として、テレビ映ることが出来ましたわ。ネット最大手のグルグルさんにも協力していただいて、およそ世界の9割以上の方がこの放送を見てくださっています。
そしてわたくしは、カメラを前に、こう言うのです。
西香「皆さん、わたくしの名前は西香です。わたくしはお友達が欲しいのです。ですからどうか、皆さん、わたくしとお友達になって下さい。わたくしのために生きて、わたくしの言葉には絶対服従、わたくしを一番に考えて頂きたいのです。よろしいですか?よろしいですね?さぁ、おわかりいただけた方はせーので『いいよ』と大きな声でおっしゃって下さいな。せーのっ」
すると全世界から「いいよ」という言葉が響き渡りました。そしてもう、テレビ局の方も、帰り道ですれ違った方も、みんなわたくしのお友達になっていたのです。お友達ですか?と聞けばもちろんとうなずいてくれる方しかいません。
大満足ですわ。世界がお友達……わたくしのこれからの人生は薔薇色です。
次の日も、どこへ行っても友達ばかり。皆さんがわたくしのお友達で、全力で関心を持ってくださって、でもその熱意は皆さん、一様に同じものでした。
皆さんが同じお友達なのです。皆さんが同じような受け答えをして、ただわたくしの言葉を聞いて。
それを望んでいたはずです。わたくしはお友達が欲しかった。その結果、世界中がお友達になったのは、満足以上の結果が出たはずですわ。……でも、どうしてこんなに虚しいのでしょうか。
イエスでしか答えない人々。十人いても一色しかない世界。皆さんがお友達だと言うのならそれはひょっとして……誰も本当のお友達ではないのでしょうか。
わたくしは……何かを間違えてしまったのでしょうか。夕日の落ちていく様子を、公園のブランコに座りながら眺めていました。皆さんがわたくしのお友達になって、わたくしを同じくらい気にかけてくださるから、誰も声をかけてくださいませんでした。
そんな時に。
「西香ちゃん」
西香「……あなたは……」
わたくしの目の前に現れたのはこの世界で唯一お友達じゃない方。そして一番わたくしをわかってくださる方でした。この方にだけは言えなかったのです、「お友達になってください」と。それは何故だったのでしょう……今でもよくわかりませんが。
「一緒に帰ろ。冷えてきたよ」
わたくしは差し出された彼女の手を取って、ブランコから立ち上がりました。
西香「あの……わたくし……」
「うん。ちょっと間違えちゃったね」
西香「っ……」
「少し寂しかったんだよね。……大丈夫、私は西香ちゃんと一緒にいるから。ごめんね、一人だけで。たくさんお友達、欲しいよね」
西香「……いらない。わたくし……あなたがいてくださったら……」
そうでした。わたくしはただ……理解者が欲しかっただけなのです。お友達っていう理解者が。それをたくさん求めて……いつの間にか何かを見失って。
目が覚めました。お友達は……こんな風に作るものじゃないはずですわ。わたくしとしたことが何をしていたのでしょう。家に帰ったわたくしは、真凛さんを頼ることにしました。
西香「すみません、真凛さん、一つだけお願いがあるのです」
真凛「はい☆なんですかぁ?なんでもしますよぉ♪」
絶対服従という言葉が、この家中でも作用しています。だから真凛さんもまたわたくしのお友達なのです。
西香「ごめんなさい真凛さん……。最後のお願いですわ。11月4日から出来たこの世界を……破壊してください。11月4日の日めくりを、わたくしが担当しない世界にしてください……あなたや、留音さんや衣玖さんが、わたくしとお友達じゃない世界からやり直したいのです」
真凛「はーい☆」
真凛さんにそう伝えたわたくしは、最初で最後のお友達ではない方に微笑んで、この身を真凛さんの破壊の力に委ねました。
さようなら、愚かなわたくし。
次のときには、あなたの事をお友達だって、ちゃんと言えるように。
――――新たなる11月4日――――
真凛「はーい☆今日はかき揚げの日なので、おうどんですよぉー♪」
衣玖「あっ、美味しそう。こんなに大きなかき揚げよく作れたわね」
真凛「はい~っ、今日の日めくりのために頑張っちゃいましたよぉ~!」
留音「うまそー!でもなんでかき揚げの日?」
衣玖「来週が1111で麺類の日なのよね。その上に11月4日があるでしょ?麺類の上って言ったら天ぷら→かき揚げってな具合よ」
留音「へー、なるほどな。ってかこれ、早い者順か?」
真凛「そうですよぉー☆」
西香「あっ……」
衣玖「ん、どうしたの西香?」
西香「いえ。なんだか白昼夢を見ていたような……全然覚えてないのですが……」
留音「よっしゃー!このでっけーのはあたしのなー!」
西香「あ!ずるいですわよ!!わたくしにくださいな!」
留音「やだし!……んー!揚げたてうめーっ!!」
真凛「んふふぅ^^」
衣玖「かき揚げ以外にも揚げてるのね。じゃあこの海老天もらうわ」
真凛「えびえび~わたしも~」
西香「あー!ちょっとぉー!わたくし海老天が一番好きなのにー!五つしか無いじゃありませんか!!わたくし三つは食べたいのに―!!」
衣玖「バカ言ってんじゃないわよ」
留音「おい!あたしのエビとんじゃねぇ!」
あの子「(⁎˃ᴗ˂⁎)」