2019年11月3日 解放者ルネ ー文化の日の悲劇ー 後編
2019年11月3日
前編より続く
留音はその謎の人物の隣で静かに座って、目覚めを待ち、何分かが経過して。
??「う……ここ、は……」
先程までフードを被っていた謎の人物は目を覚まし、上体を起こした。その脇から留音が声をかける。
留音「目覚めたか……衣玖」
そう、謎の人物の正体は……涙を流していたはずの、衣玖だったのだ。
衣玖「ルー……」
フード、マフラーマントは取り払われ、代わりに衣玖の体に毛布のようにして優しくかけられていた。衣玖はそれを確認してうつむいた。その様子に留音は少しだけ苛ついたような声音で尋ねる。
留音「わからない。どうしてお前がゴヂラを守る?文化の日に文化的な記念日がありすぎると泣いていたお前が……どうしてわざわざゴヂラを守ったんだ。あたしの超最強波が成立していればゴヂラの映画はまず間違いなく駄作になっていた。ゴヂラの持つ悲劇もメッセージ性も、いつか制定される記念日すらも、全てあたしが消し飛ばす予定だったのに……」
初代ゴヂラ……まだ娯楽作というよりもパニック映画的な側面が強く、人間の業が描かれた傑作。しかしそのゴヂラ登場の意味を無に帰し、巨大怪獣を一瞬で駆逐する美少女しか映っていなかったら、初作公開から60年にも渡って新作が作られることも無く、ゴヂラの日だって制定されていなかったはずだ。
衣玖「そうじゃない……そうじゃないのよ、ルー……私が求めていたのは……ゴホッ……」
衣玖は意図しない咳に少し驚き、しかし何かを悟ったような表情で、留音の反論を聞いている。
留音「じゃあ……だって、あたしはお前が泣いていたから……それでこうして戦いの世界に……でもお前に止められたんじゃ……!」
それに対する、衣玖の声音は優しかった。
衣玖「ごめん……でも違うの、違ったのよ……文化のない世界は最悪よ。今日は文化の日なんだから、本当はありったけ文化的で良いの……私は喜ぶべきだった、こんなにも文化的な日があったことを。……なのにあなたを戦場に駆り立ててしまった……ごめん、ルー。取り返しはつかない……でも……ゴホッ、ゴフッ……」
衣玖はこみ上げる咳と、朦朧とする意識をなんとか抑え込もうとぐらつく頭を必死で保っている。
留音「お、おい衣玖っ、どうした、具合が悪いのか……?そんなに咳き込んで……っ」
様子のおかしい衣玖を心配した留音は彼女に駆け寄ると、肩に手を添える。衣玖は力なく、フッと笑っていた。
衣玖「流石に……MP999にしてもHP3じゃ、あなたの相手は難しかったみたい……慣れないことはするもんじゃないわ……ふふ」
留音「そんな……じゃああたしのした、あの一発の手加減手刀でお前……」
衣玖は何かの限界を悟ったのだろう。最後に伝えたいことがあった。
自分のためにゴヂラを、いや、ゴヂラという世界で大人気のコンテンツを敵に回したことで、世界中から恨まれるかもしれないという業を、ただ一人で背負おうとした留音に、しっかりと残しておきたい気持ちがあったのだ。
衣玖「いい、ルー、聞いて……文化は人間の全て。文化に興じられるのは知能があるからよ。その文化を愛することこそ、人が真に知性ある証拠なの。忘れないで……文化を楽しむ気持ちを……恨むんじゃない、無くすんじゃない、文化を愛するという、純粋な気持ち……」
衣玖は薄れてきた体の感覚を認識し、留音に体を預ける。そして震える手を掲げ、留音はその手を取った。
衣玖「どうか……忘れ……ないで……ね」
その一言を最後に衣玖は体の力から力が失われた。留音の瞳には衣玖が死の間際、確かに少しだけ微笑んだのが見えていた。
留音「そんなっ、衣玖……衣玖!どうして……どうしてこんな結末に!」
留音「あたしは一体……なんのために、戦ってきたんだぁあああ!」
留音は衣玖の遺体を抱き、悲しい叫びを世界に響かせた。
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衣玖「……という脚本を書いてみたわ。文化の日らしく、エンターテイメントの要素もそれなりに意識してみたの。まず必殺技でしょ、次が気になる前後編仕様にしたクリフハンガー、戦いに対する皮肉、主人公の目的になる意味の死、涙の別れ……どう思う?」
西香「わたくしが冒頭の一言でしか出ていないクソ脚本じゃありませんの」
真凛「わたしもあんまり出てないです~」
留音「あたしはまぁ悪くないかなって思ったけど……でもこれじゃちょっと解放者ルネシリーズを最終回っぽく見えるし……もうちょっとどうにかならないか?」
衣玖「最終回っぽい~?大丈夫大丈夫、シリーズものでラストとかファイナルとかついても、次で真とかリターンズとか付けばあっさり復活するものよ。それも文化のありかたね。まさに自由こそ文化ってことよ。本当に素敵な言葉だわ、文化って。ふわっとしてて」
というわけで文化の日おめでとうということである。