2019年11月3日 解放者ルネ ー文化の日の悲劇― 前編
2019年11月3日
解放者ルネ。彼女は記念日を解放する者。
それは例えば一日に付けられた記念日が多すぎて、その日が過労死してしまうかもしれないから。
それは例えば一日あまりにも水分に関わる記念日が多すぎて、その日に記念日になってる液体を全部飲んだらお腹たぽたぽになってしまうかもしれないから。
そして今日は文化の日。この日、泣いている少女がいた。記念日を原因として。
衣玖「うぅっっ……ぐすっ、くすん、ど、どぅすればいいのぉ……ひっぐ」
真凛「どうしたんですかぁ衣玖さぁん……そんなに乙女みたいに涙を流して……」
衣玖「だって……だっでぇ……今日はね、文化の日なの。文化って私達にはとっても重要な言葉で……今日の日めくりの題材にしたかったのぉ……でもっ、ぐすっ、でもぉ……」
西香「わたくしサンドウィッチの日がいいですわ~。真凛さーん、なんか作ってくださいなー」
真凛「西香さん、空気読んで下さいっ。それで衣玖さん、どうして泣いているんですか?」
衣玖「あのね。今日はレコードの日と、ビデオの日と、マンガの日と、文化放送の日と、コスプレの日と、いいレザーの日と……それに巨大怪獣映画の傑作、ゴヂラの公開日で……うわああああん!日めくり的に面白い題材ばっかりだったのにぃ!!こんなにいっぱいあったらもう意味がわからないのよぉおー!」
そう。衣玖はそれで泣いていた。文化放送の日だからラジオ回にもしたかった。そこで好きなレコード、音楽やマンガに映画の話だってできただろう。みんなでコスプレをしたり、何が着たいかなんて話してもよかったかもしれない。それにレザーの日があるのだから、衣玖がヘヴィメタゴシックパンクダークライブに来ていく際のイカしたコスチュームについて話しても良かった。
それに極めつけはゴヂラの日……こんなに大きな題材はない。なにかしらかこつけて大怪獣登場との日めくりにもなったかもしれないというのに、今日一日でこんなに重なっていたのだ。さすが文化の日。
そんな衣玖の涙を見て立ち上がったのが彼女……名は解放者、留音。
留音「話はわかった……ならばまた、あたしの出番というわけだ。……任せろ衣玖。あたしがなんとかしてやる。文化の日を解放する……!」
留音は外套をはためかせ、再び荒廃した記念日の荒野へと向かう。
衣玖「ルー!待ってルー!……」
こうして文化の日を楽しみたかった少女の願いは、悲しいすれ違いを生むことになるのだ。
やがて旅路の先にたどり着いた荒野の先で、留音は巨大な影を前に言った。
留音「覚悟しろ……ゴヂラ!!あたしのこの力で……お前を一瞬で倒す!!登場後2分でだ!!そして日本の特撮映画のイメージを地に落とし、お前の持つ核へのアンチテーゼも全て否定してやる……!そうすればお前の人気はなくなり、誕生から60年以上もシリーズは続くまい……まずはゴジラの日を破壊だ!!」
留音はなんやかんやでタイムスリップし、映画の初代ゴヂラと対峙していたのだ。
ゴヂラは留音を睨みつけると、口から放射能のビームを留音に向かって放射する!だが。
留音「……そんなもの効くか!超最強波ーーー!!」
超最強の超最強波は何者も勝てないのだ。ゴヂラの放射能ビームは数秒ほど拮抗するが、留音の超最強波がそのままゴヂラの顔面に向かって押し込んでいく!もうすんでのところだった。留音も勝利を確信した。……ゴヂラは終わりだ。これで文化の日から一つ、ゴヂラの日は消滅する。すまないゴヂラ。一人の美少女のためにお前の命を消す。そう思いながら留音は渾身の力を込める……が。
その波動はゴヂラに届くというところで、何者かに打ち消された。そこには顔がわからないようにマフラーマントを着用しフードを目深に被った人物が浮遊していたのだ。留音の超最強波を打ち消せる者などそう簡単にいないはずなのに。
留音「な、何者だっ……?!」
謎の人物は何も答えず、ゴヂラを海に還すと留音の前に降り立った。だが何も言うことはなく、ただ静かに留音の前に佇んでいる。
留音「お前が誰かは知らないが……あたしはこのゴヂラという映画を駄作にしなきゃならないんだ……!」
そんな留音の言葉を聞いた謎の人物は手を振り上げ、そして留音に向かって振り下ろす。なにかの攻撃か?反応した留音は即座にその場から距離を取った。そしてその判断は正しかった。留音のいたポイントめがけて、何かチェーンのようなものが地を抉るかのような速度で降り注いだのだ。続いて謎の人物は亜光速にも迫ろうかというスピードで留音に追撃を加えんと猛突進をくり出す。しかし留音、近接戦闘のスキルは極めている。
神影技・瞬翻身……超最強流奥義の一つ。通常なら対応出来ない攻撃を神速を持って回避する、絶影の短距離移動技である。留音はそれを使い、その謎の人物の背後に回り込んだ。あまりにも早い移動速度に留音を見失い、息を呑んだ謎の人物の油断を見逃すこと無く、留音は手加減した手刀による当て身で気絶を奪った。そして静かになったその人物を抱きかかえ、フードに手をかける。
留音「……ゴヂラを映画として成立させるために守りたい気持ちはわかる……だけどこっちにも事情があるんだ。お前が何者か確認させてもらうぞ……!」
留音はゆっくりと、そのフードをめくった。
留音「……そんな、お前はっ……」
果たしてその人物とは一体誰だったのか。後編は本日お昼頃公開予定。