2019年11月2日 ペア活の日だからペアで行動している五人少女たち
2019年11月2日
~留音とあの子~
留音「よっし、じゃあ行こうか」
留音はあの子と二人、家を出た。目的はなんのことはない、近所のデパートまでちょっとした買い出しだ。家から出ると乾いた空気が運ぶ冷気を感じ取れる。
留音「最近ちょっと冷えてきたよな。寒くない?」
あの子はニコリと頷く。留音は「そか」と微笑んだ。道路脇では車道側にスマートに回ったり、人が通る時にはそっと肩を寄せたりして男性的なエスコートをこなしているうちにデパートに到着した。
それからデパート内を回って、あれやこれやを見て、ちょっとした買い物を済ませて。
そのデパートにはフードコートも併設されていて、留音は少し休憩していこうと提案した。
留音「待っててな」
留音は席で待たせたあの子を見える位置のクレープ屋に寄って、オーソドックスなホットチョコが使われたカスタードクレープと、あの子が好きなキャラメルバナナの入ったカスタードクレープを注文した。円形の生地がそれぞれのトッピングで彩られると、すっかり扇形に成形されて手渡された。クレープから漂ういい香りを堪能しながら留音はあの子の元へ戻る。
留音「みんなには内緒だけど……食べてっちゃお」
あの子はホットクレープを両手で受け取るとありがとうと伝え、留音は嬉しそうに向かいの席に座ってクレープにかじりついた。ホットチョコがとろりと舌に絡んで、濃厚なカスタードが広がる。それを包むもちもちのクレープも素朴な味わいで、久しぶりに食べたものだがとても美味しいクレープだ。
あの子も大事そうにはむ、とひとかじりする。チョコは入っていないが、キャラメルソースの輝くようなオレンジ色がクレープの口からテラテラと光って、あの子はそれが垂れないように小さな舌で拭い取りながらもうひとかじり。
それを留音が「可愛いなぁ」という感想でじっと見つめていたが、あの子はその食べ方が少し恥ずかしかったようだ。うつむいてもそもそとクレープを食べている。その様子の意味するところを察した留音がニコニコしながら「ごめんごめん」と茶化す。
留音「美味しい?」
あの子「(。・・。)(。. .。)」
可愛くうなずいたあの子に、留音はもう一言。
留音「……一口いい?」
内心ドキドキして止まらなかったが、留音の提案にあの子は「もちろん」というようにクレープを差し出した。「やった……っ」留音はパクっ、と一口。クレープ本来の甘味に加えて、あの子からの信頼感も味に深みを出しているのか。極上の一口だった。するとあの子は自分も欲しいと言って顔を留音の方に少し出した。
留音「あっ、も、もちろん……ほ、ほいよ」
留音は手を震わせながらもあの子の口元にクレープを運ぶと、あの子は小さな口ではむ、と留音の食べていたクレープを一口。それから笑顔で美味しいねと伝えた。
留音は平静を保ちながらなんとかクレープを食べ終わり、荷物を忘れずに持って家路についた。帰りの荷物は半々に。大好きだけど、対等だから。
~真凛と衣玖~
真凛「衣玖さん、多分そっち行くとキラーに見つかります」
衣玖「え、ま?……うわ本当にいた、あっぶな……」
二人は非対称対戦のテレビゲームに興じていた。非対称対戦とは、通常の対戦ゲームのように1対1や3対3などと、両チームが同レギュレーションで行われるようなものではなく、1体多でバランス調整された対戦ゲームである。二人が遊んでいるのは殺人鬼が1人、逃走者が5人の作品で、殺人鬼は逃走者の殺害、逃走者は殺人鬼を振り切ってフィールドから脱出する事が勝利条件となっている。
真凛「衣玖さんトラップ持っていましたよね?キラーそっちに連れて行くので扉の壊れた家の奥の通路に一つセットしておけますか?」
衣玖「おっけ……キラーどこにいるのかわかるの?」
真凛「多分さっき音がした装置の警戒に行ってると思うので、大体はわかりますよー」
すると真凛は宣言通りにキラーを見つけ、巧みに回避機能を使って攻撃を交わしながら衣玖に指示したポイントに誘導した。トラップに引っかかったキラーの裏で、衣玖は既に勝利条件である脱出装置の修理に取り掛かっており、それは完成を間近にしていた。
キラーはトラップをすぐに解除し、真凛の方に迫っていく。衣玖はその間にも装置を修理し、ついに脱出の準備が整った。
衣玖「脱出出来るけどどうする?」
真凛「キラーが撒けそうにないので、ちょっとスタンさせてきますね。先に行ってていいですよぉー」
真凛はそう言うと進路を脱出装置から複雑な構造をした建物に変えた。一人の殺人鬼が一人の逃走者を追うチェイス状態では、殺人鬼が圧倒的に有利であるのだが……。
真凛「はーいおいでおいで~」
真凛は余裕な態度で殺人鬼をひきつけ、その逃げがてらに打撃武器アイテムを入手した。武器アイテムは殺人鬼を攻撃することで一度だけ気絶状態にすることが出来る。しかし当てるのが非常に難しい上、殺人鬼がガード行動を取っていたら武器だけが失われて完全に不利な状態になってしまう。しかし真凛はチェイスのさなか、ゲームのエフェクトの影が少し濃くなった地点でスッと方向転換をし、扉の脇の死角に佇んだ。
その間にも衣玖は脱出を完了し、真凛のプレイの観戦モードに移っていた。
真凛の後ろから迫ってくる殺人鬼は真凛のキャラが隠れた影の中に入り込み捜索を始める。この場で真凛の足音が途切れたことを認識し、防御姿勢を繰り返すことで攻撃に警戒している殺人鬼。防御姿勢は移動速度が低下するため、その低下する移動速度と防御を両立するためのこの動きは手練プレイヤーのものであった。
だが真凛は敵の視界の外で、敢えて一度武器を落とした。ゲーム内にカランカランという音が響き、その瞬間に即座に落とした武器を装備しなおす、恐らく殺人鬼のプレイヤーが音のした方向にカメラを向かせるために指をジョイスティックにかけた瞬間=ガードボタンから手が離れるその瞬間を狙い、真凛は暗闇から飛び出して打撃武器による強打の一撃を仕掛けたのだ。そしてそれは見事に殺人鬼に決まり、長時間の気絶を与えた。
真凛「やったー☆逃げましょー♪」
衣玖「……」
そうして二人は見事に勝利した。見れば殺人鬼を担当していたプレイヤーはレベルカンスト少し手前の超上級プレイヤーである。
衣玖「……なんていうか……真凛……このゲーム本当に向いてるわよ。プレイが怖すぎるのよね……今のプレイはキラー側のほうが恐怖感じたと思うわ……」
真凛「そうですか?でも人間って意識をなにかに向けた瞬間に油断があるんですよぉ~」
ちなみに真凛、キラー使用時の勝率は9割超えである。
真凛「やっぱりこのゲームは楽しいですね~。もっと遊びましょぉ~っ♪」
~西香とイマジナリーフレンド~
西香「わ~!西香さんったらなーんて面白いお話ができるんでしょう!」
西香「そんなことありませんわよ!西香さんの方が楽しくて素敵で……」
西香「もう西香さんったらお上手ね。褒めてもお金くらいしか出ませんわよっ」
西香「まっ、100万円!こんなに頂いてしまったらわたくしも……はい、1000万円ですわ」
西香「さすが西香さんですわね~っ、わたくしの尊敬できる唯一の方ですわっ」
西香「いえいえ。これくらいいいのです。いつもわたくしの役に立ってくださっていますからね。西香さんほどの美しさであればお友達料金としてこれくらいお支払するのは当たり前ですわ」
西香「……うーん……想定上ではお友達との会話は完璧なのですが……どうしてわたくしにはお友達が出来ないのでしょう……本当に世の中の人達の考えって解せませんわねぇ……」
11月2日は1と1と2。一人と一人が二人になればそれはペア。今日はペア活の日。