2019年10月31日 ダークハロウィン
2019年10月31日
五人の少女たちはハロウィンというイベントについて、渋谷なんかに繰り出して楽しもうとは思わず、家でみんなで過ごしていた。
留音「なぁ、なんで家で仮装しなきゃならないんだよー」
真凛「だってみんなで可愛い格好したいじゃないですかぁ♪」
西香「わたくしのこんな格好、普通の方なら泣いて喜ぶんですのよ?」
あの子「ヾ(๑╹ヮ╹๑)ノ”」
みんなはそれぞれ思い思いのハロウィン仮装をしていた。留音は体全体に包帯を巻き付けている。キュキュット締められた包帯は留音の体には少しセクシーに作用している。
反面、真凛はダボッとした黒いローブを纏い、大きな帽子を目深に被って魔法使いスタイルだ。ここで最も重要なのは、常に箒を持っていられることらしい。ステッキではなくちゃんと竹箒を選ぶあたりお掃除狂の真凛らしいというものだろう。
そして西香は猫耳を付けて、少し不機嫌な獣少女になっていた。真凛ほどには気合は入っていないものの、ちゃんとしっぽも付けられている。衣玖の発明で脳波に連動して動作する高性能なしっぽアクセサリーはゆらゆらと動いていた。
あの子はみんなから用意された天使のコスチュームに身を包んでいる。頭にはしっかり光輪を掲げ、常に後光が差している。
それからみんなに遅れて、最後に衣玖が部屋に入ってきた。両手を肩の高さに挙げ、ひたりひたりと短い歩幅で呻きながらだ。
衣玖「ゔああああー……」
留音「うわ、ひとりだけ本気なのが来た」
留音はハハハと笑いながら衣玖のゾンビメイクをじっと見た。衣玖はライブに行くときはゾンビメイクをして行くこともあるので手慣れていることもあり、その完成度は折り紙付きといったところで、腐臭も含めて完全に歩く死体だ。西香は呆れている。
西香「あーいかわらず衣玖さんのゾンビメイクはキんモいですわねぇ……」
衣玖「ゔぁー……うー……」
衣玖はひたひたと歩きながら留音に迫り、残り一歩半というところで留音の方に倒れ込み「ぐああー!」と言いながら留音の首筋に噛み付いた!
あの子「∑(°口°๑)」
留音「うわぁ!?いってぇいってぇ!なにしてんだ衣玖!?」
真凛「そうですよぉ!そういう一歩踏み込んだ関係性の示唆が無い安心感もわたしたちの要素の一つじゃなかったんですかぁー!?」
衣玖「がうあうー!」
留音によって衣玖が引き剥がされ壁まで押し返された。だが衣玖は痛いとも言わずにゆっくりと立ち上がると、再びひたひたと留音の方に向かう。
留音「なんか……様子がおかしくないか……?」
留音は息を切らし噛まれたあたりを撫でながら衣玖のおかしな様子を距離を取りながら見守っている。
西香「まさか衣玖さん……本物のゾンビになってしまったのではありませんの……?!」
留音「そういやあいつ、ハロウィンは渋谷じゃなくて……暗黒界ダークランドで行われる、SAN値削りまくりの超絶怖いダークハロウィンに参加するって言ってた……本物のゾンビもいるって……」
西香「ということは、そこで衣玖さんはゾンビの病気をもらって……!」
真凛「自分もゾンビになってしまったんですかぁ!」
あの子「ฅ(º ロ º ฅ)」
留音「ハロウィンではしゃいで問題起こすバカと変わんねぇじゃねぇかー!」
すると衣玖ゾンビはうぅー、といううめき声を控えめにして……。
衣玖ゾンビ「失敬な……っていうか……ルーの体、かったい……もっと……柔らかい肉……西香……真凛……ひとかみさせて……」
普通に喋り始めた。
西香「なんか言ってますわよ!?」
衣玖は両手を前に掲げながら、流暢さこそ失ったもののしっかりと日本語を発していたのだ。
衣玖ゾンビ「あたりまえ……でしょ……IQ、3億が……ゾンビ化、で、IQ、99.9999%低くなっても……結局IQ300……天才……天才ゾンビ……」
留音「心強いんだかなんなんだか……でもさっきあたしのこと噛んだじゃん!」
衣玖ゾンビ(天才)「おにく……たべたい……じんにく……おいしそう……という閃き……あと、映画とかで……ゾンビ出たら、必須項目……だから……」
西香「まぁゾンビが出たらひと噛みは無いと始まりませんものね……」
真凛「じゃあ……えっと……みんなハロウィンコスプレで集まりましたし……ハロウィンパーティ、始めますかぁっ☆」
衣玖「……(満足そう)」
留音「コスプレっていうか本物いるけど……ってかあたし噛まれてるけど……」
衣玖「その……いつ隣人が、何かに変異するかも、って……緊張感……は、今のたるんだ……日本に……コミットする……」
西香「この発言の謎さ……ゾンビになっても衣玖さんは衣玖さんですわね」
真凛「とりあえず焼いといたパンプキンパイを食べましょ~!留音さんからパンデミックが起きたらその時はその時ということで!」
留音「えー……ワクチンないのかよー?あたしもゾンビ化すんのぉー?」
衣玖「っていうか……うごく、マミー……あぁ、おにく……たべたい……」
真凛「ミートローフも作ってますよぉ♪」
衣玖「……(満足そう)」
西香「っていうか衣玖さん、臭いですわよ。死体とは言え最低限のエチケットくらい守って頂きたいのですが」
衣玖「これが……ダークハロウィン、流……」
ちなみにその後、あの子が痛そうだと擦ったことで留音の内部に入り込んだゾンビウィルスは超善玉菌と成り代わって留音を最高の健康状態にした。衣玖もあの子に頭を撫でてもらったら天才の細胞が自動的に体内でゾンビ化の免疫を作り出して全てを修正したので何も起きなかった。
渋谷のハロウィンでも、人が多く集まればその中に1人くらいは本物がいるかもしれない。参加する際はご注意を。念の為、最低でも十字架くらいは用意しておくべきである。