2019年10月23日 不眠の日 手、繋いでていいか? 留音編
2019年10月23日
留音「ん?なんだ、こんな時間に……」
あなたは深夜の遅い時間、眠りにつけなかったため、キッチンに立ってホットミルクでも作ろうか、と思案していると、そこに留音が顔を出した。彼女のイメージよりは可愛いらしい、ピンク色のパジャマに身を包んだ彼女は、深夜に起きているあなたを物珍しいとでも思ったようだ。あなたは単に眠れないだけであることを話した。
留音「わかった、変な時間に昼寝でもしたんだろー?……ってそりゃあたしなんだけどね。案の定眠れなくなっちまったってなー」
留音は、「たはは」と自虐するようにそう言うと、留音はあなたの近くまで来て、冷蔵庫を覗き込んだ。留音のきれいな金髪があなたの目の前にふわりと舞って、そこから花のような香りがあなたの鼻孔をついた。
留音「腹を膨らませて寝るって手も無いことも無いんだけど、健康を考えると控えたいところだし……」
冷蔵庫の中には十分な食材が用意されていて、逆に使いみちが難しい。留音は結局何も取り出さずに冷蔵庫を閉めると、「じゃあ……」とあなたに切り出した
留音「ちょっとその辺、散歩でもするか?」
まだ夜は長い。あなたは頷き、留音に言われたように靴下と羽織るものを簡単に身につけると、彼女と一緒に、他のみんなを驚かせないように静かに二人で外に出る。ひんやりとした、でも寒いとまではいかない程度の温度だ。
留音「はー……。夜の晴れだ。月がほら、あんなにはっきり見える」
留音はポケットに手を入れて、遠くの空にある黄金の球体を見上げている。あなたも同じ場所を見て「確かに綺麗だ」と伝えた。
留音「最近ちょっと冷えてきたよな。あたしはこれくらいの気温も心地よくて好きなんだけどさ」
ここはほとんど車も通らないため、空気は澄んでいる、というほどではないにせよ、夜の適度な湿り気がひんやりとした大気の中に溶け合って、夜の味がする空気は吸っていて気持ちは良い。そよそよと吹く弱い風も冷気のかけらをまとわせて、留音と二人、横を並んで歩くあなたの頬を撫でる。その冷たさの御蔭であなたはこの瞬間に感じる熱を逃がすことが出来ていた。
そうして家の周りを半周ほどしたときだった。
留音「やっぱ夜はちょっと冷えるか。ジョギングとかだと10分くらい流すと芯から温まってくる感じがするんだよな。冬とかでも全然大丈夫になる感覚ってすげー面白いんだ。こう、ジワーって感じで。っと、寒くないか?」
あなたは身を縮こませながら、手をポケットの中で摩擦しながら平気である事を伝える。
留音「寒そうじゃんか。ん……」
留音は少し迷ったように一拍を置いて、それからあなたに半歩未満の距離にまで近づいた。
留音「ほら、こうしたら……温かいから」
そう言って、あなたの手を取った留音は自分のポケットに押し込ませた。留音のジャケットのポケットにあなたの手と留音の手が一緒に入った状態になっている。
留音はこの外気の冷たい風でも冷ませない熱を頬にためていたが、それはあなたも同じだ。お互いに視線を逸らしながら、留音のポケットの中で片手だけが同居している。
手は握手の繋ぎ方だったが、あなたは握りを弱めた留音の手から一瞬逃れ、再び繋ぎ直す。その手はお互いの指が交互に連なって、あなたの指の腹が優しく留音の片手の指間部の水かきのあたりを浅く撫でるように侵入した。それがくすぐったのか、留音は肩をぴくりと震わせて「ふぁっ……」と声にならないような小さな息遣いをしたのを、あなたは聞き逃さなかった。
留音「……あ、温かいな」
留音は照れをごまかすように少しぶっきらぼうに、若干裏返った声で早口に言って、あなたも同じように照れながら同意する。
それから静かに、お互い何も喋らず、外気の冷たさを取り込むように呼吸だけをしながら、再び家の玄関の前に到着した。出たときと同じように、静かに家の中に戻る。もうお互いの手は離れていた。
留音「……ありがとな。付き合ってくれて……」
ぎこちなく微笑んだ留音に、あなたも同じようなことを言う。だが留音は、そこからおやすみという言葉には繋がなかった。
留音「でもあたし、まだ眠れないかも……」
留音はもじ、と身を捩らせた。それから再び手を少しだけあなたの方に差し出す。
留音「眠れないときって、手を温めたりするのも良いんだって……それで……」
あなたは手汗をかいていないか少しだけ不安を覚えながら、でも繊細できれいな長い指を持つ彼女の手を取るあなた。
留音「まだ手、繋いでても、いいか……?」」
あなたは再び彼女と手を絡めるようにつなぐと、留音は顔を真赤にしながらもあなたの目を見て言う。
留音「……一緒のベッドにいたら、もっと繋いでられるけど……」