後本さんの蚊帳
晶太のスマホの画面を見て、俺は暫く硬直した。
「へ?何これ」
「お前やっぱ昨日告ってたんじゃーん!」
「いや、俺は知らない」
「えー娚ちゃん勝手に言っちゃったの?」
どういうこと。
「おはよう」
この声は――――。
「娚ちゃんおはようっ」
後ろから肩を掴まれる。
「おはよう蒼真君」
「こ、後本さん」
後本さんが登校してきた。
どういうことか問いたださないと。そう思って振り返ったが、必要なかった。
後本さんはぐいっと顔を近づけると俺に耳打ちした。
「友達が失恋するのが嫌なんだろ?あれ?失恋しちゃったなあ。もう男ってバラす必要ないよなあ」
そう言ってニヤリと笑った。
そういうことか。
「娚ちゃんおはよー!ね、ね、詳しく聞かして!」
「まだ入学して一週間だよ~早いね~」
「ヒューヒューお熱いですな」
女子達が後本さんを取り囲んでいく。
俺は弾かれるように自分の席についた。
「凄いな。まさかあの娚ちゃんとお前が付き合うなんてさ」
晶太が俺の机に顎を乗せて言った。
「どういう巡り合わせか全然分からん」
「ごめん晶太」
「え?なに?」
「後本さんのこと好きなのに」
「いやいやいや寧ろ鼻が高いね!友達があんな美人と付き合うんだぜ?言いふらすぜ俺」
晶太は嬉々として言った。
「そう?よかった」
「だからさ、詳しく聞かせろよ。どうやって娚ちゃんと付き合えたんだよ」
「うーん......いろいろ複雑なんだけど。うーん、前にボール片付けるの手伝ったからかなー」
「え?そんなんでいいの?じゃあ今度から片付け手伝いまくろっ」
晶太は傷付かなかったし、俺も約束守れる。
よかった。
後本さんと付き合う、ってのはきっと形だけだから大丈夫。
俺も前に進める。
取り合えず部活何にしようか考えよう。
後本さんが足を組み変える。
空き教室の隅で俺は机に座った後本さんに睨まれていた。
「私の彼氏か......。ま、お前なら及第点だろ」
「あの」
「言っとくが俺に釣り合うやつなんてそうそういないんだから誉め言葉って受け取っていいんだぜ」
「そうなんだ。ありがとう。それで」
「最初はマジクソって思ったけど付き合ってるやつがいるってのはいいハエ避けになっていいなあ。男に興味ねーし」
「だから」
「デートするぞ」
「へ?」
後本さんは俺の言葉を聞かない。
俺は、俺に好きな人ができたら後本さんとの恋人のフリをやめさせてもらう、と、ついに言えなかった。
「何で?」
「女子ってすげえ疑り深いんだよな。ホントに付き合ってるの?何で付き合ったの?どこまでいったの?どっちからなの?......てウゼエ。手っ取り早くデートでもして写真渡してやろうってこと」
「そっか。わかった。いいよ」
後本さんの眉が吊った。
「は?なんでんな上から目線なんだよ。俺とデート出来るんだから喜べよ」
「うん。嬉しい」
「は?なんだそれ。ホントに思ってんのか?」
本当に思ってる。けど同じくらい嫌だ。
失恋した相手とデートなんて。しかも相手はまったく俺のことを見ていないなんて。一緒にいても辛いだけだから。
複雑だなあ。
「じゃ!今週の日曜日な。十一時に三角駅前集合!」
でも、少し楽しそうに話す後本さんを見ていたら、俺も純粋に楽しもうって思った。




