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五分

作者: そう。
掲載日:2019/05/06

「なんか飲む?」


 今朝、起きたら君から携帯にメッセージが届いており、授業が終わったら大学の入り口に一番近いベンチに来てほしい、と書かれていた。いつも僕から連絡を取り、飲みの誘いや君に対する質問に一言ずつ時間を置いて返信されるので、君から連絡が来ることは珍しかった。君に彼氏がいることは知っていたし、それでも少しでも一緒にいる時間を増やしたいと僕は思っていたので喜びの感情が湧いたが、すぐに消えた。いよいよ迷惑だと言われるのかもしれない。


『んー。いらないかな。そんなに時間かからないと思うし。』


 君と出会ったのは半年前、テニスサークルの打ち上げの時だった。僕はサークルに属していないが、昔テニスをやっていたので人数合わせで呼ばれることが度々あった。軽くスポーツを嗜み汗をかき、飲んで馬鹿話をして笑いあう程度のサークルだ。僕としては行く必要がまったく無かったが、一人でいると無駄なことばかり考えてしまうので時間つぶしがてら毎回参加していた。酔っ払いながら映画の感想をつらつら話していた時に、同じ映画を見ていた君から声を掛けられて連絡先を交換した。


「で、話って何?」


 携帯の電波を経由して話す君は、失礼ながら見た目より随分と賢い人だった。物事を見る角度が鋭く、注意深く人を観察し鋭く考察していた。人が話す言葉と表情、前後の事実からそれが嘘かどうかを的確に見抜いていた。後に君の考察を確かめるために情報収集したらほぼ正解で、人の気持ちが分からない僕にとっては衝撃的だった。そんなこともあって君に興味を持ち、何かと理由をつけて話す機会を作っていた僕だったが、気付いたら君が好きになっていた。


『あのね、、、。』


 感覚は初恋に似ていた。小学校の頃に前の席の娘に恋をしていた、その感覚に似ている。僕の両親は仲が悪く、何となく家であっても居心地が悪かった。近所の公園に一人でブランコに乗りに行っていたのだが、毎回僕より先にブランコに座っていたのがその娘だった。その娘が言うには、自分は連れ子なので親が相手をしてくれない、寂しいから公園で友達を探している、とのことだった。ブランコに乗りながら学校の授業のことや先生のこと、親のこと、好きな食べ物など他愛もない話をしているうちに僕にとって唯一安らぐ時間となり、君のことが頭から離れなくなるのは時間の問題だった。


「言いにくい感じのこと?」

 

 人生で初の告白をしようと決意したその日、母親が自殺した。悲しみしか生まれず何日も学校に行かず泣いていた。しばらくするとその娘に会いたくなり、公園に向かったが何故か会うことはなかった。父親の実家に行くことになり、転校が決まった。学校に行けばその娘に会うことはできるが、それは何となくしたくなかった。引越しをする日まで毎日一人で公園に向かい、最後の日にやっと君と会うことができたが、僕は何も話せなかった。その娘も困った顔で、僕に何も言わなかった。あっけない失恋だった。


『ちょっとね。たぶん、あなたも考えてることなんじゃないかなーって思ってる。』

 

 中学校に上がってしばらく経ったある日、なぜ母親が命を絶ったのか考え始めた。麻痺していた感覚が数年ぶりに蘇り、恐怖と裏切り、悲しみと哀れみ、様々な感情が生まれ、夜が怖くなった。今更理由を父親に問うこともできず、思春期の助けもあって何となく父親との会話も減っていった。眠れない夜は町をブラブラと徘徊していたので、しばらくすると悪友もできた。煙草を覚えて酒を飲み、髪を染めてピアスもあける、立派なワルソーなやつになった。


「そっか。」


 見た目が不良になっても勉強は割とよくできた方だった。冷え切った家庭だったので、家では勉強くらいしかやることがなく、父親が寝てから前へと繰り出して遊び、昼は学校で寝る。すると夕方には妙に集中できて学校の進む範囲よりも先へと進んでいた。不良なのに勉強ができる、所謂ギャップ萌えというヤツで、僕が学校の女子から人気が出てきた。不思議なものだ。彼女ができて、みんなよりだいぶ早くセックスを経験することができた。


『あなたとの関係をちゃんとしたいと思うの。』


 が、あっさりその彼女は浮気をして別れた。別れた後も普通に接してくる彼女の神経を理解できず悶々とする日々が続いた。たぶん、この時から女性に対する信用がなくなり、母親の件もあって女性へ何かを期待することが無くなった。


「ほう。」


 高校卒業間際に父親が再婚相手を家に連れてきた。元の母親より随分若く綺麗な人だった。周りにはいない大人の魅力があり、僕にも優しくしてくれた。僕にとっては初めての、不良的行為を咎め、諭し、話を聞いてくれる大人だった。この人のために、ちゃんとした人になろうと思い、身なりを整えて学校生活もきちんと送るようになった。酒もたばこもやめて、悪友とも縁を切った。朝ちゃんと起きて、残り少ない学校の授業をちゃんと聞き、夕方に勉強し、夜は布団に入った。けど、相変わらず眠れる日は少なかった。理由は簡単だった。また人を好きになったのだ。


『何か、今のままだと、あなたが辛そうに見えるから。』


 好意というものは、女性にとっては容易に感じ取れるもののようで、その好意が家族としてなのか、女性としてなのか、それすらも分かるようだった。大学に上がって1年経ったころ、父親が一人暮らしをしろと唐突に言ってきた。その理由は簡単に分かったし、それを通じて好きな人が僕を好いていないことは何となくわかった。いや、元から分かっていた。優しさと恋は違う、僕はただ勘違いしただけだ。それを自覚するのは、とてつもない恥だった。こんな感情を持ちながら人生を歩むのが辛いと感じた。


「・・・」


 しばらくして、君と出会った。そして、その結末も予感していた。


『うん。たぶん私の気持ち、わかってるよね?

 いいの。今じゃなくてもいい。明日にでも答え聞かせて。』


 思えば、今まで女性に愛されたことは一度もなかった。愛と恋が違うというのなら、恋されたことはなかった。誰かに好かれたことはなかった。抱きしめて、許してくれる人はいなかった。そして、今だから思う。淡々と生きているように見られるかもしれないが、ずっと苦痛だった。寝ても覚めても辛かった。たぶん、僕以上に辛い境遇の人はたくさんいるだろう。しかし、僕は弱い。おそらく、愛されたい気持ちがすごく強い。だからこそ、辛い。死ぬほどつらかった。毎日、眠れない夜に、今日は生きるか・死ぬかを選択してきた。止まない頭痛に負けないよう楽しそうに笑って、戦いながら生きてきたつもりだ。


「わかった。」


 僕は今日、また選択する。辛く苦しくても戦う道と、完全な自由への道。


 結末は、分かっている。


『あなたの気持ち、教えてね。

 じゃあ、またね。』


 ありがとう。サヨナラ。

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