○○地獄
※汚い噺なので、お食事中には見ないで下さい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ようこそのお運び様で。
毎回、くだらないおしゃべりでおヒマを頂戴しております。
いや〜。最近の夏は暑いですな。
こんなに夏が暑いと……。12月には50度を越える……。
……今のが本日のお笑いハイライトでございます。
こちらで笑って頂けないと、後が続かない。
昔の人は、知恵がありましたなァ。
暑い時には暑いものを食べて汗をかいてすずむ……。
なんてことをやりました。
しかし、正直暑いときに暑いものなんて食べたり飲んだりしてられない。
あれを思いついた方は相当なキ○ガイですな。
……いえ、あたしが考えたんじゃない。
台本にそう書いてあるのでね。不適切なところはお詫び申し上げます。
昔は、肩に天秤棒をかつぎまして氷り売りなんてものもありました。
「こぉり〜、こぉり」
……いや、別にやっていたわけじゃない。
職業柄、万止むを得ず覚えたんです。
この口上ってのは伸ばし方がコツがございます。
涼しげに言わないとお客さんがよってこない。
「こおり! こおり! こおり!」
「オイオイ、溶けそうだね」
なんて言われちまいます。
魚売る時なんかは、飛び跳ねるように
「ヨォ! イワシこーい! ヨォ! イワシこーい!」
こんな感じでね、飛び跳ねるように言わないと新鮮だと思われない。
氷の売り方でやっちゃぁいけない。
「……いわしぃ〜。いわし……」
「オイ! そのイワシ、腐ってねぇか?」
「なにをおっしゃいます……。こちら今、息を引き取ったばかりです……」
……なんてことは言わなかったでしょうが……。
納涼と言いますと、我々噺家の方では「怪談」。
こちらをかけさせていただいております。
名人ともなると、大ネタをかけられますが、本日は少し汚いですが「糞尿地獄」……。
という演目をやりたいと思います。
ですが、そのまま言いますと汚いので「○○地獄」と言います。
これで幾分ボカされて、何がなんだか分からなくなる。
え〜、ある悪い男。
憎まれっ子世にはばかるとは申しますが散々悪いことをしたあげくにポックリと道ばたで亡くなりまして。
ふと目を覚ましますと、地面に自分が転がっている。
「おぅ! なんでぃ! オレぁ死んじまったのか? まぁ、苦しまないで死ねたんなら文句はねぇわなぁ」
と一人言をいっておりますと、隣りに薄青白い顔の男が立っております。
「わぁ! なんでぇ……。こえぇなぁ。幽霊かってんだ? こちとら江戸っ子だい。だけどもお化けはちょっと怖い……」
「私は死神ですよ……。三途の川の水先案内人……。さぁ、参りましょう……」
「なんでぇ、なんでぇ、辛気臭ぇ声出しやがって! 腹から声出せってんだ! 朝飯食って来たか? どうでぇ、その辺でおメェのおごりで一杯ぇ……」
「あたしのおごり……。いえいえ、道草を食ってる場合じゃありません。冥府で閻魔様がお待ちです。さぁ、どうぞ、こちらへ……」
と言って、男の手をとります。
冷たい手でさすがの男もゾッとしてしまいます。
「なんでぇ……。どこ連れて行きやがるってんでぇ……。あ! 忘れ物があったんだ!」
と、逃げようとしますが手を掴まれて放さない。
借金を返すだの、お隣にお皿を返すだの言いますが、気付くと閻魔様の前でお裁きを待つ行列に加えられます。
やって来た死者に今で言うスロットのようなものを回させますと、
「善人」だとか「普通」とかで止まっております。
「ではオマエは天国である!」
と、閻魔様のお裁きの大声をかけられたのは、男の前の人……。
「へぇ! ありがとうございます!」
「そう? あいつが善人? 悪いことをしてそうな顔をしてるけどなぁ……」
とケチなんか付けております。
さんざん、悪人面が天国に行くのを見て、お裁きは軽いもんだなと思い、
男もスロットに手をかけます。
目の前の文字がグルグル回って止まった文字が
「大悪人」
とたんに、スロットマシンのランプがピカピカと輝きます。
「これはなんです? 天国ですかい?」
「バカも休み休み言え。見事な地獄だ。さっさとこの男をしょっぴけい!」
と言って、一匹の青鬼に連れて行かれてしまう。
むあん と熱気が立ちこめられ、辺りでは叫び声が聞こえます。
責め苦に耐えられず、大きく叫ばれる声……。
男女の別なく切り刻まれたり黒こげにされたりしております。
さすがに怖くなった男。
青鬼を褒めちぎって持ち上げて、軽い刑場に連れて行ってもらおうという腹。
しかも、その言葉に青鬼もいい気持ちになって
「ふむぅ。今日は機嫌がいい。選ばせてやろう」
と言って、地獄を案内します。
まるでテーマパークのように青鬼が説明致します。
「これが灼熱地獄。黒こげになってバラバラになる」
「ブルブルブル。こんなところは結構でございます」
「これは針山地獄。足の裏に針がささって血だらけで山を登る」
「あ、あっしは足の裏が一番ダメなんで……」
と散々断って、鬼も
「じゃぁ、どれがいい?」
と聞くと、プゥンと毎朝嗅ぐような臭い……。
「あ、あそこはなんです?」
「ああ、あれは○○地獄。○○が入った風呂につかる地獄だ」
男は今まで巡って来た地獄よりは幾分マシだと思いました。
たかだが、○○に浸かるだけ……。
臭いさえガマンすれば、なんてことはない。
「では、○○地獄で」
「よし、○○地獄に一名様ごあんなーい!」
係の鬼に「入れ!」と命じられて素っ裸で○○の風呂の中に入ります。
「うぇ! くせぇ、くせぇ! ……くせぇけど……。これぐらいだったらなんだなぁ……。ガマン出来なくもないなぁ……」
と思っていますと、係の鬼が「ピッ」とホイッスルを吹きました。
「よし。休憩終わり。全員もぐれ」
「え?」
……お時間でございます……。