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もの食わぬ女房

ようこそのお運びさまで……。

まいどくだらない噺でお暇を頂戴しております。


人にはいろいろございますが


ケチ。


ケチの国からケチを広めに来た。

こういう人が出てきませんとお笑いが薄うございます。



ある、大店の店主。店の中を巡回しておりますと、柱に釘がでているのに気づきます。


「おーい。定。定吉はいるか?」


「へーい」


「こんなところに釘がでてやがる。店のモンが鉤裂きでもするとエライ損だ。オマエお隣に行ってカナヅチを借りて来ておくれ」


定吉、お隣にカナヅチを借りに行って戻ってまいります。


「貸してくれたか?」


「貸さないんです」


「どうして?」


「鉄の釘打つのか? 竹の釘打つのか? って言いますんでね? 鉄の釘ですって言いますと、ウチのカナヅチの頭が減るじゃないか。と言って貸してくれませんでした」


店主は呆れて


「鉄の釘を打ったぐらいでどれだけカナヅチの頭が減るんだよ。ケチん坊だな……。仕方ない。ウチのを出して使おう」


って、どっちがケチかわかりません。



さて、こちらもとんでもないケチん坊。

ケチですから一生懸命お金を貯めて、どんどんと店が大きくなります。


奉公人も五人も六人も請け負って、ますます繁盛しておりましたが、

この男、どうしてもヨメをとりません。

財産がありますから親類が心配して


「あなたどうしてヨメをとらないんです?」


「いえいりません」


「どうして?」


「だって、ヨメはご飯を食べるから」


ご飯を食べないヨメなんておりません……。


どうにか親類も食の細い方なんかを見つけて男に紹介しますが、男はかたくなにこれを断る。親類も呆れて家に近づかなくなってしまいます。


ある時、どこで噂を聞きつけたのか一人の女がやってまいりました。


「私、ご飯はいりませんのでお側においてください」


なんて魅力的なプロポーズ!

男はあっという間に女にメロメロになってしまいました。


さらに、女はよく働きました。

店の者の何倍も働いて男に


「ねぇ、あなた。奉公人なんていりませんよ。ご飯ばかり食べてさっぱり働かない。さっさと追い出してしまいましょう」


男もヒヒヒと笑って


「そうだな。明日、け人の方に帰そう」


と言って、さっさと追い出してしまいます。


家に残ったのは男とヨメの二人。


ヨメが食事を出すのは男の分が一膳だけ。

ヨメはよく働く。なんて理想的な女がヨメに来てくれたもんだ。


男は喜びました。


しかし、本当に米の一粒も食べないのか?

男は不思議に思い、一計を案じました。


ある日、男は早朝より商用で遠くに行くと言って家を出しました。


それは表向きで、こっそり家の裏口から入り込み、柱に上って梁をつたいヨメの頭上からその様子を伺っておりました。


ヨメはいつものように働いております。一生懸命いつものように働いております。


男は梁の上で、ははぁ……。ヨメはいつものように働いている……。

なんとも働き者だなぁ……。


と思っておりますと、一通り働いたところで竈に火を入れ始めました。

そして、米を鍋に一俵(60㎏)入れ、炊き上げます。


女はうれしそうに笑いました。


女が後頭部に手を回し、髪を分けますとそこには大きな口……。


男はアッと声を出しそうになりましたがこらえました。


女はそこに、ボーイ、ボイと大きな魚を頭ごと放り込み、

さらに炊き上げた米の飯を赤ん坊の頭ほどの握り飯にして

これまたボーイ、ボイと放り込む。


なんてことだ! ヨメは妖怪だったのか……!


タクアンも切らずに長いまま口の中に放り込み、ヴォリヴォリと音を立てて食べつくし


「ふぅ。ごちそうさん!」


と言って米も魚も、タクアンもすべて食べつくしてしまいました。


男はマズイ。このまま逃げようと思い方向を変えようとしますが、

恐ろしくてガタガタと震えてしまいます。


女は髪を戻して、また仕事に戻ろうとしましたが、

ぱらりぱらりと落ちる埃に気付いて天井を見上げると、

男と目があいました。


「あんた、見たね?」


と、恐ろしい形相をすると、男は驚いて梁から落ちてしまいました。


女はスゥと髪を分けて大きな口を出すと、

そこに男がドサリ! と落ちました。


女が丸呑みしようとすると口の中から


「やぁ! もったいない! せめて味わって食ってくれ」




お時間でございます。

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