最弱勇者と最強魔王のオシマイ
「いって!!」
目の激しい痛みによって目を覚ます。
隣で眠る魔法使いを起こさぬように、洗面所へと向かい鏡で確認しようと急いだ。
そこにはいつも通りのパッとしない自分の顔が映っていたが──その瞳は赤く染まっていた。心なしか髪も伸びており、それらが赤い視界を遮っていた。
「ほんじゃ、行ってくるわ!」
国民全員に盛大に見送られながら、再びオレ達は旅路へとつく。
「ほ、本当に大丈夫ですか??
凄く具合が悪そうですけど……」
「あぁ、問題ないよ……」
「大方酒の飲み過ぎだろ、相棒めちゃめちゃ飲んでたし」
「そうかもな、ははっ」
それは恐らく違う。確かに酒は飲んだがいつもあの量では酔わないし、頭が痛いだとか気持ちが悪いという事もない。むしろ、むしろ凄く
コ コ チ イ イ。
「次の街で休もうか?
ほ、ほらあんたにまた足引っ張られても困るし……」
僧侶がそんな似合わない事を言うので少しクスッとしてしまう。それを見ていた僧侶に殴られた。
「休憩なんていらない
それより一刻も早く……この世界を救おう!」
オレがそう言うと、皆は素直に頷いてくれた。
ミンナ ノタ メニモ ハ ヤクシ ナキ ャ
オレの意見通りすぐに別の四天王の城へと向かい、そこでも我らがパーティーは以前にも増して安定した戦いをした。
城の主は以前倒した四天王と同じく「魔王さま……魔王さま……どこへ……」などと戯れ言を言っていたのですぐに斬り殺した。
メチャメチャニ キリキザンデ ニテタベタ
四天王を始末した日は流石に皆疲れていたので近くの街の宿に宿泊する事にした。それぞれ別の部屋で休んでいるとふいに聞こえたノックの音で目を覚ました。魔法使いかと思い、扉を開けるとそこに立っていたのは僧侶だった。
「た、体調は大丈夫?
別に心配とかじゃないんだけど……」
「もうすっかり平気だよ、むしろ気分がいいかも
今日の戦いだって危なげなかったろ?」
「う、うん……その……すごく……格好よかった」
「え?」
「!?!?
べ、別にそういうんじゃなくてそ、その……今日も助けてもらったし……」
アア ソウイウ コト
「小っちゃい頃からアンタと遊んでたけどいっつもドジばっかして……
ぷっ、そういえばあの時なんてさ……!」
アッタネ ソン ナコト
「で、でも最近のアンタはとっても強くって、私守って貰ってばっかりで……」
ウ ウン マダ マダ ダヨ
「ねぇ、魔法使いとは付き合ってるの?
勇者は私みたいな娘……キライ?」
ウウン スキ ダヨ トッテ モ
僧侶はしおらしく部屋へと入り、そこでオレ達は一晩を共にした。まるで普通の乙女のように頬を染め隣で眠る僧侶はとても可愛らしかった。
──部屋の壁越しに全てを耳にしたトンガリ帽子の美しい爪は強く噛みすぎたせいか出血していて、開かれた口からは「ウソウソウソウソウソウソ」と一晩自分を慰めるように音が漏れ出すのであった。
次の日もまた次の日もオレは僧侶と寝た。時折、魔法使いに街の散策へと誘われたが全て断っていた。戦士はそんなオレ達を心配しつつも事情を汲み取ったらしく、口を出さないでいた。
魔法使いは日に日にやつれていった。
少女のリンゴのように赤かった頬はこけ、モチモチしていた手は包帯で覆われ、目の下には大きな隈が住み着いていた。
「ちょ、ちょっと、アンタ大丈夫?」
僧侶は心配そうに声を掛けるが魔法使いから返事はない。
ただただ僧侶の目を、光の入る余地のないような目で見返すだけだ。
「大丈夫だよ、僧侶
ようやく魔王の城へと近づいて来て、疲れてるんだろ
今日はここまでにしとこっか」
「そう? 勇者がそう言うなら……」
少女は包帯越しに爪を噛みつぶした。
その晩もオレは変わらず僧侶を可愛いがった。
その後休みを挟みつつ、オレ達は3匹目の四天王がいる城の門へと着いた。
そこで1人の青年がいるのに気が付く。どうやら、彼のパーティーは彼を残し全滅したらしく、自分達のパーティーに入れてくれないかと懇願してきた。もちろん、快くそれを引き受けた。
彼は決して強くはなかったが、正義感があり、気持ちの良い奴で仲間達と馴染むのも早かった。まるで昔のオレを見ているようで少しイライラした。
デモ オレハ ツ ヨク ナッ タ
トテモ トテ モ
今回も簡単に四天王を倒した。
次の週には最後の四天王も殺した。
だが、魔王の姿だけが見当たらなかった。
「一体どういう事だ……あとは魔王さえ、魔王さえ殺せれば終わりなのに!!」
「四天王達は口を揃えて魔王は死んだ、魔王は死んだと言っていたけれど……まさか、本当に……?」
「そんなはずねぇ!!
アイツはオレがこの手で必ず、親父の仇はオレが必ずぶっ殺すんだ!」
戦士だけじゃなく、皆が皆焦っていた。
だが、この中で青年だけは冷静だった。
「あの……ボクとしては
魔王がいないなら、この旅は終わりで良いんじゃないんでしょうか?
ここ最近、街や王国への被害もないらしいですし……」
「「ダメだ!!!」」
「アイツはオレの親父や、コイツらの家族を殺したんだぞ!!!
そんな奴がのうのうとどこかで隠れて暮らしてるなんて……クソッ!!」
オレは飽きてきていた。
ある朝、王国に突然魔王が現れた。
誰も魔王の姿は見たことがなかったが、皆が魔王というのでコイツは魔王なんだろう。
勇者のみが身につけられるはずの鎧や、伝説の剣を持っていたので皆驚いていたが、深く考えずに4人は魔王へと戦いを挑んだ。
魔王は他の魔物を圧倒する程強かった。王国はほとんど崩壊し、人間は大勢死に、戦士や僧侶、それに魔法使いもかなりの苦戦を強いられていた。
だが、最後にやはり正義は勝つのだ。
こうして邪悪な魔王を打ち破ったボク達は英雄として王国中から称えられた。
みんなの願い事は叶い、世界は平和になりました。
それはまるで人間達が自らの領土を広げようと魔界へと一方的な侵攻を始める前の、あの日のように。
どこかで勇者は失踪し、狂った魔法使いは僧侶を殺して自殺したらしいが
何はともあれ
──めでたしめでたし──
お読み頂きありがとうございました\(^o^)/
また新しい中編?小説書こうと思うのでそちらもよろしくお願いしますm(_ _)m