終わりの始まり
「相棒!! 凄ぇ!!
実力をオレ達に隠すなんて水臭ぇじゃんか!」
「…本当よ
あれだけの実力があるなら初めからそうしてよ、ねっ!」
戦士と僧侶にグーで殴られた。
口ではごめん、ごめんと謝るが正直悪い気はしなかった。
「…勇者様…本当に…本当に良かったですね!」
魔法使いは泣いてくれていた。
オレもつられて泣いてしまった。
オレが攻撃陣の1人として機能し始めた事により、戦士はタンクとしての役割を、僧侶と魔法使いは回復よりも攻撃のサポートに専念出来るようになった。パーティーとしてのバランスも完成度も格段に上がったオレ達は順調に魔王軍幹部の城を上り進めていったのであった。
「…この部屋ね」
「あぁ…だが今のオレ達なら…勝てないこともないだろう」
「勇者様…お願いします!」
オレはゴクリと唾を飲むとゆっくりと重い扉を開けた。
黒い体毛で覆われた手足、ギョロリと見開かれた3つの黄色い目、巨大な体を覆う赤いマントには魔王軍の紋章が刻まれている。目の前に座っているだけの魔物からはこれまで感じた事のないほど強い魔力と禍々しいオーラが放たれていた。ただ、その憔悴した顔からはとても戦闘の意志が感じられない気がした。
「人間か…
魔王様の亡き今、貴様らに用はない
帰れ」
「は?」
城の主がそう重い口調で話すのでオレは気の抜けた声を発してしまう。だが、横にいた戦士達は笑っていた。
「はっはっはっはっは!
そりゃ傑作だな、これで世界はめでたし、めでたしってか?」
「そうだ」
「……舐めるなよ、魔物如きがッ!」
そう言い放つと同時に戦士は魔物に斬りかかる。慌ててオレと他のメンバーも戦闘態勢へ移行した。
「やはり、人間は愚かなり」
魔物もそれに合わせて立ち上がり、咆哮した。
その衝撃で体がビリビリと震え上がる。震えを力で抑え、再び攻撃の態勢を整えた。直後から飛び交う火の玉や雷、更には巨大な体から想像もつかない速度で繰り出される攻撃はどれも下っ端の魔物達とは一線を画すものだった。
しかし、手に負えないレベルではない。
激しい闘いの中、確かにオレ達は手応えを感じていた。
──崩れ落ちた天井や、骨組みが剥き出しになった壁、所々に穴の空いた床、それら全てがこの戦いがいかに激しいものであったのか語っていた。
「……強いな
これが勇者というものか」
オレが持つ剣の切っ先は確かに邪悪な魔物達の幹部の喉元へと向けられていた。だが、魔物に怯える様子はなくただただオレの目を見つめていた。
「ふっ、貴様のその目、その力……久しいな……」
「黙れ」
こうして魔王軍四天王の巨大な城は勇者一行によって、一夜にして陥落した。
王国は待ちに待った英雄の復活と帰還を称えた。王様も母も涙を流して喜んでくれた。
王国はすっかりお祭りモードで、国民全員が祝杯を上げている。まったく戦争中だというのにこんなに平和でいいものなのか。
その晩魔法使いはオレの部屋へと訪れた。長年の思いを伝えられ、オレ達はとうとう結ばれたのだった。
何もかもが順調かに見えたこの日、この日から人生の終わりは始まったのだった。
魔物に見つめられ、未だ疼く2つの瞳は静かに閉じられた。
お読み頂き、ありがとうございます\(^o^)/
昨日は投稿出来ず、すいません(T_T)
次の話で完結予定なので良かったら読んでみて下さい