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彼の冒険の始まり

3部構成くらいで書くつもりです

 昔々あるところ、まだ王国と魔王が戦争をしていた時代に過去最強とも謳われた勇者と魔王がいたそうな。いや、正確に言うならその2人は同時には存在していなかったのだが──




「はぁ、何でオレが勇者なんかに……」


「お前の親父さんは偉大な勇者だったんだから、その息子がなるのは妥当だろうよ。それにしてもぷっ、おめぇは勇者ってナリじゃねぇなっ!」


 オレの親父が魔王に殺され、1年が経ったある日王様が藁にもすがる思いで偉大な勇者の息子を後継者へと任命し、オレの新しい勇者としての生が始まった。だが、周りの期待感が高まる一方でオレの実力が追いついておらず、いくら訓練をしても下級悪魔すらも1人では倒す事の出来ないのが現状だ。父の人脈で旅を共にする仲間や剣や体術を教えてくれる先生に恵まれた事が唯一不幸中の幸いであろう。


「このままで本当に大丈夫な訳ないよな……

 はぁー、オレにも親父ほどの才能があれば……」


「確かに勇者様は強くないですけど、確実に成長しています! もう少し自信を持って下さい!!」


「そっか、ははっ、ありがとう」


 この大きなトンガリ帽子を被った女の子は俺達のパーティーの魔法使いだ。小さい頃に偶然いじめから助けた事があるらしく、その時のお礼ということで旅を共にしてくれている。実力は街の大賢者が10人集まっても敵ではない程で、魔力の量で言えば歴代最高クラスだそうだ。


「魔法使いは勇者を甘やかし過ぎ

 はぁ、このままだと私が道中で何度回復させる事になるのやら……」


「全くだぜ。旅してから大分経つのにいつまでも戦闘でお荷物になるなら次の街で置いてくからな、相棒!」


「はい、頑張ります……」


 修道服姿で淡々と魔法使いを叱るキツめの彼女が僧侶で、暑苦しい部分もあるけど頼りになる声も体もデカイ男が戦士だ。どちらも親父のパーティーだった人達の1番弟子であり、実力は折り紙付きだ。


「あっ! あそこにいるのは上級悪魔の……うーん、なんつったっけ?

 ……エビフライ??」


「エビルフライだよっ!

 ほら皆さっさと終わらせて宿に帰るよ!

 私もう歩き疲れてくったくた」


 エビルフライがこちらに気が付く前に戦士がまず凄まじい速度で一太刀を浴びせる。ついで魔法使いが燃えさかる火球を絶え間なく放ち、相手に反撃の隙を与えない。上級悪魔にこうも一方的な闘いが出来るのは2人の体の周りにある光のオーラ、僧侶の唱えるサポート呪文のお陰であろう。こうしていつものようにあっという間に戦闘は終わる。戦闘中も勝利の喜びを分かち合う姿もオレは、ただただそれを見ている事しか出来なかった。


テレレテッテッテー

 どうやらオレのレベルが上がったようだ。

 いつも通り、代わり映えのないステータスに1人、落ち込んだ。




「はぁー、今日も一日頑張ったー

 誰かさんの介護と魔物退治の両立は僧侶さん、ちょっと大変だなー」


「ちょ、ちょっと!!

 酷い事言わないで下さい!!

 勇者様だって、誰より努力されているの皆さんも知ってるでしょ!!」


「……でも、それが実を結ばないようじゃなー

 魔王退治ってのはお遊びじゃないんだぞ

 強くない勇者なら正直必要ない」


 シャワー室越しに寝室の声を聞く。

 そうだよな……そんな情けない言葉しか口からは出なかった。


 全員が寝静まった後、静かに剣を取り外へと向かう。オレは大量の薬草を持ち、こうして毎晩街の外でレベル上げをしていた。その為周りよりもレベルは高いが、ステータスはどれも貧弱で実力差を思い知らされるばかりだ。

 どうしてオレはこんなに弱いんだ?

 こんな事して意味なんてあるのか?

 どんなに努力してもどうせ凡人は天才には勝てない、そうステータスが言ってるじゃないか。手に無数にできたマメが痛み、いつからか涙も目からこぼれ落ちた。


「オレだって強くなりたい……親父みたくみんなを守って、愛されたいんだぁぁあっーー!!!!」


「そうか」


 無我夢中でモンスターを倒していると一際オーラのある魔物がそこに立っていた。とっさに武器を構えても魔物は攻撃の意思すら示さなかった。


「力が欲しいか」


「……あぁ、欲しいさ!

 目の前のお前をズタズタに出来るくらいの強大な力がっ!!」


 オレではコイツに勝てないと思った。殺されると思った。それならそれでいいだろう、そうとも思った。

 しかし魔物は尚も話を続ける。


「人間よ、我の願いを叶えてくれるのならお前に我の力を与えよう。

 どうだ我と契約を結ばないか?」


 そんな話には信憑性もクソもなかった。悪魔の話に乗るなど愚かだと昔から言い伝えられている。

 だが、オレには後がなかった。

 その言葉に、悪魔にすがる以外に道はなかったのだ。


「契約成立だ、人間」


 そういうと目の前の魔物はすっかりと消え去り、後には弱々しいままのオレだけが残った。

 分かっていたさ、そう呟くと仲間のいる宿屋へゆっくりと戻った。




次の日のオレは目覚めが良かった、何より体が軽くいつもより何だか調子が良かった。調子に乗ってピョンピョンと跳ねているとその姿を戦士達が呆れ顔で見ていた。


「元気があるのは良いことだ

 それを戦闘でも見してくれるの期待してるぞ」


 魔王城へと旅路を急ぐ、こうしている間にも魔王は力をつけている可能性があるからだ。史上最強と言われている魔王はオレの父以外その姿を見たことがなく噂ではドラゴンだとか、実は天使の姿をしているとも言われている。

 オレ達も旅を始めてから4年が経つので今日はそろそろ魔王軍の四天王の1人が住む城へと進行を開始する事にした。おそらく今までの敵とは比較にならないほど強いだろうが、おそらく問題はないだろう……オレを除けば。

 それがパーティー全員の結論だった。


 四天王の城は遠くから見るよりずっと大きく、周りには大量の見張りの悪魔が飛んでいて禍々しい雰囲気を醸し出していた。


「これが魔王軍最高幹部の城……

 皆気を引き締めて行くわよ!」


 僧侶がそういって城の門をくぐると踏み入れた足元が光り出し、巨大な召喚陣が発動された。

 現れたのは今までに見たことのないほど巨大なゴーレムだった。


「くっ、罠か!!

 これまた手応えのありそうな門番ですこと……まぁぶっ殺すけどね!!」


 僧侶がそう言うと同時にオレは走り出した。自分でも体験したことのないような目にも止まらぬ速度でゴーレムに斬りかかる。すると、まるで豆腐でも切るかのように簡単に真っ二つになった。


「「「え?」」」


 3人は何が起きたか分からないと言わんばかりに口をポカンと開けていた。

 呆気にとられる皆を振り返り笑顔で言った。


「さ、先を急ごう」


 この時オレは人生で初めて心の底から笑った。



お読み下さりありがとうございますm(_ _)m

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