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半人は滅びつつある  作者: ほろび
第1章 百鬼夜行
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第9話 巨人の大脳のようなものを運んでいる集団

 かやは奴隷船へ運ばれていた。

 村内を奔走(ほんそう)するうちに奴隷狩りに捕まり連行されたのだった。

 小船に乗せられたあと、川の中央に停泊する奴隷船へ向かった。

 船の側面の小窓から、いくつもの顔がこちらを見ている。

 数隻の奴隷船のなかでもっとも大きな船へ近づくと、甲板になにか大きなものが見えた。


 巨人の大脳のようなものがあった。

 川に落ちそうなほど甲板の端からせり出している。

 船員たちは大脳の落下を食い止めようと、船のへりと大脳のあいだに棒を突っこんで、つよく押し返している。


 「乗れ」


 かやは甲板に上げられると、船員につかみ上げられて体に異常がないかを点検された。

 下に降ろされ前甲板を見わたすと、巨大な大脳が動いているのが見えた。

 船員の背丈よりも大きかった。


 それはぶにょぶにょした柔らかい肉のかたまりで、新鮮な鳥肉のような色だった。

 表面は粘液(ねんえき)でびちょびちょにまみれている。

 コケやシダのようなものが張りついて、ところどころ緑になっていた。


 かやは下甲板へ連れて行かれそうになったが、とっさに大脳を指さして、「穴 呼吸 止まる」とアラル語で話した。

 船員は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに大脳のそばへ連れていった。


 大脳は川へ逃れようとしているのか、船のへりにぶつかっている。

 船員たちがそれを防ごうと棒で叩くたびに、ナイフを刺しこまれた魚のようにぶるぶると痙攣(けいれん)した。

 ときには(うみ)のようなものが裂けて、黄色い汁が甲板へ流れ出た。


 かやは甲板の粘液(ねんえき)に足をすべらせながら、船の端へ行った。

 そのまま飛び込んで逃げないように、船員が片腕をつかんだ。

 川へ体を乗り出すようにして、大脳の側面を確認して、言った。


 「穴 呼吸 草」


 何度も船員にそう伝えると、やがて一人の船員が大脳の側面を探りはじめた。

 ひだのようにかさなった肉を持ち上げると、そこにはこぶしほどの呼吸口があった。

 シダがいっぱいに詰まっている。

 川へ逃れようとしていたのではなく、船のへりに体をこすりつけることでシダを除去し、呼吸を確保しようとしていたのだった。

 船員が手を突っこんで取ってやると、動きは止まった。


 ぶたましめぬうんだ、とかやは思った。

 なめくじの半人だった。

 以前、かやは森のなかでそれと接する機会があったのだが、あまりいい思い出はなかった。

 かやのいた呪術集団の入門式では、この子宮の内部に()もることで、集団の一員として認められる慣例となっていた。

 ねばついた子宮の内部にはいらされて、竹筒を穴にさして呼吸をしながら、やっとのことで宮籠(みやご)もりを終えたのを苦々しく思い出した。

 全身が人ではない半人はたいへん珍しいと聞かされていた。

 知能の低さから種を継続できるものはほとんどいないからだ。


 「背中 乗る」


 とかやは船員に伝えると、持ち上げられてぶたましめぬうんの背中に乗せられた。

 背中の皮膚はなにかの汁でぐじゅぐじゅになっていて、()んだかさぶたの匂いがした。

 おかゆのような汁に足くびまで浸かりながら、一歩踏み出すと、シダのあいだから虫たちが逃げていった。


 頭には触覚(しょっかく)が伸びていた。

 触角の先には皮をむいたばかりの桃のような目が、にゅるっと出ていた。

 皮膚からむきだしに出したり、また引っ込めたりするたびに汁があふれ出た。

 かやはホタルの光を隠すように両手で、その目を覆いかくした。

 こうして外部の光を遮断したり与えたりを一定の規則で繰り返すことで、簡単な意思を伝達できるのだった。


 ぶたましめぬうんはゆっくりと甲板の中央へ戻りはじめた。

 体を曲げたときにガリガリと霜柱(しもばしら)を踏むような音がして、体の下の貝かなにかが押しつぶされた。

 甲板の中央では、マストの柱と柱のあいだに布が張られて、日よけがつくられている。

 かやは背中に乗ったままそこまで移動し終えると、甲板の上へ降りた。

 通ったあとが粘液で光っていた。


 「何 音」


 と船員が聞いてきた。

 ぶたましめぬうんの内部からは、先ほどからなにかが勢いよく破裂する音がしていた。

 ポップコーンがはじけるような音だった。


 「卵 壁」


 とかやは答えたが、はっきりと意味が通じなかった。

 ぶたましめぬうんは産卵期がくると、この音を立てた。

 子宮のなかにぶらさがった袋のようなものを爆発させて壁へはじけ飛ばすので、その音が外まで漏れてくるのだった。

 じっさいに穴に顔を突っ込んで、(のぞ)いてみるよう(すす)めたが、船員たちの誰もそうするものはいなかった。


 かやはこの貢献で船員たちの信頼を獲得したと見えて、まだ少女でもあったことから手かせをはめられず、そのまま食事の用意を手伝うよう言いつけられた。

 調理場に入ると、奴隷の女たちが働いていた。

 かやもそこに混じって米を洗い、芋を粉にし、鶏やヤギの世話をした。


 食事が出来上がったあと、それを下甲板の奴隷に配るよう言われた。

 昇降口の鉄格子(てつごうし)の鍵がはずされて、2人の船員が鍋をもって下甲板へ下りた。

 かやも食器をもってあとにつづいたが、急に暗闇に入ったために目がくらんだ。

 すると奥から、首のない人が歩いてきた。

しばらくは修正作業に従事したいと思っています(`・ω・´)ゞ!

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