第８話 奴隷狩りが来て、火を放つ
縛られた人たちが倒れていた。
数人で竹を肩にかつぐようにして、ひもで結ばれている。
「奴隷狩りにあった人たちだ」
とかやが言った。
奴隷たちは泥のなかに足がはまりこんでいる。
かやがひもをほどいてやると、急いで足を引っこ抜いた。
そしてなにやら話しかけてくるのだが、言葉が通じない。
奴隷たちの腕は、真っ白だった。
はじめ毛皮を巻いているのかとぴとは思ったが、よく見れば、狼の毛のようなものがびっしり生えている。
太ももにも、すねにも、黒い毛のかわりに生えていた。
「動物の毛が生えているようだ」
「うちと、おんなじじゃ」
とかやは竹のひもをほどきながら言った。
そして奴隷たちは森の奥へ走っていった。
ときおりふり返って、こちらを見る。
招くように手をふり上げ、声を上げ、また走っては立ち止まった。
森の奥へ促しているように見えた。
「ほかにも動物の人がおるって聞いたことがある」
とかやがその様子を見ながら呟いた。
「うちも、こんな体じゃけど、もっとひどいことになっとる人がおるって、もっとひどいことされとるって、聞いたことある」
奴隷たちはしきりに声を上げて促した。
ぴとはかやとともに暗闇のなかを追っていった。
分けても分けても暗い森だった。
上にも、下にも、虫の声がうねっている。
耳にねばりついてくる虫の声がやむと、急に視界がひらけた。
星あかりの湖があった。
森のなかにぽっかりあいた夜空から、星のひかりが燦然と水の面にそそがれている。
かやは足くびまで水に浸かりながら、呆然と眺めた。
湖のほとりに一点の火が見えた。
「かや、明かりが見える」
「うん」
「火だ」
「奴隷狩りが来て火を放ったんよ」
「そうか。そこまでするのか」
「うちらはどうせ人じゃないけ。物とおんなじなんじゃけ」
と言った。
「ふつうの人になりたいよ」
火のぱちぱちと燃える音が聞こえてきた。
虫の声がかきけされた。
なにか恐ろしい瞬間が近づいているようにぴとは感じた。
奴隷たちは勢いよく火のそばへ走り出して、もう戻ってこなかった。
かやも後を追って駆けていった。
ぴとは走ってついていこうとしたが、絹が燃えないようにその場で立ち止まって脱いでいた。
すると、かやが戻ってきて叫んだ。
「子どもが下におる！ たすけて、たのむけえ！」
火のほうへ近づくと、粗末な木組みの家が燃えていた。
その中には子どもが取り残されていた。
背中が柱に押し付けられるように挟まっている。
数人が柱をもちあげようとしたが、火がつよすぎてすぐに離れた。
ただ一人、家の残骸をほっている者がいた。
子どもの母親だった。
背中が火でただれているが、手をふりかぶって何度も手を突っこんでいる。
指には割れた木が刺さって、血まみれだった。
穴をほって助け出そうとしているのだった。
そのときぴとにはある考えが頭に浮かんだ。
目の前では、自分と同じように、その体の異常のために殺されそうになっている者がいる。
それは半人として物のように扱われている者だった。
このような抑圧された者のために自分は来たのかもしれないと思った。
ぴとは火のなかへ入った。
火の粉がまいあがって、波しぶきのように降りかかる。
半人たちは驚愕の声をあげたが、ぴとはそのまま歩いて、柱の一端をとりのぞいた。
母親は子どもを引きずり出して、火から逃れた。
叫び声をあげて、子どもを抱きしめて、離さなかった。
それから他にとり残された者を助けようと、ぴとは火のなかを歩きつづけた。
半人たちも精いっぱい駆けまわった。
そうしているうちに、いつのまにかかやの姿が見えなくなった。
「おーい！ かや！」
火に巻き込まれたのかもしれない。
何度も村中を走りまわって探した。
夜が明けるまで探したが結局見つからなかった。
