第6話 ヒルが落ちてくるから、服を脱ぐ
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今日は巨人の大脳のようなものを運んでいる集団の話まで書いて終わりますね。
「まって」
と少女は衣を脱ぎはじめた。
「かゆい」
少女の背中がむき出しになると、鱗のような皮膚があらわになった。
花びらの重なるように、あざやかな水色の一片がならんでいる。
わき腹にいくにつれてまだらに散らばって、腹におよぶころには人の皮膚になった。
「ヒルがおるんよ」
少女はそう言って、ぴとに背をむけて座った。
かたい岩にしりを押しつけた。
しりにはしっぽがあったが、切れていた。
かじった果実のように切れ目が光った。
「歩いたらすぐ落ちてくるんじゃもん」
たんたんとヒルをとっては投げていく。
鱗の上にはヒルがいなかった。
「ぴゅーんって、釣れたらよかったんじゃけど、なかなか上がってこんかったね」
「私が」
「うん。じゃけえ、来るな来るなって言ってみたら、来るんじゃもん」
と言ってわずかに笑った。
「あんね、こわいかなーって思っとったら、こわくなかった」
「そうか」
少女はヒルをとりおえると、衣を着はじめた。
衣を着ると、しっぽの根もとの部分はわずかにふくれた。
見かけは人の少女だった。
「色いろ聞きたいことがあるんだ」
とぴとは少女にむかって言った。
「おまえたちは、あそこでなにをしていたんだ」
「こわいやつがおるって、みんなで行って、それで釣ったんよ」
「いつもそういうことしてるのか」
「ずーっと前から、やっとるよ。ずーっと、ずーっと前。でも釣れたのは初めて」
少女ははるか前に遠くから来た者から文化が伝えられたのだと言った。
言葉もそうだった。
儀式の理由はうしなわれていた。
「おまえの名前は」
「かや」
土に投げ捨てられたヒルが、うようよはっている。
「うち、決めた。街までおりる」
とかやは言った。
「しっぽがこんなじゃし、ふつうの人みたい」
「火山に帰らなくてもいいのか」
「うん」
と転がった果実を見つめながら言った。
かやは自分が夜叉を釣るための、生贄にされたことを知っていた。
帰らなくても生きていけるのならそうしたかった。
「ついて来ていいよ」
としずかに呟いた。




