表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半人は滅びつつある  作者: ほろび
第1章 百鬼夜行
4/14

第4話 近づいただけなのに、花が散る

 ぴとが穴から地上へ出ると、外は夜になっていた。

 暗い森だった。


 「花だ」


 白い花があった。

 ぴとが花に近づいて、そばで見つめると、花ははじけるように散った。

 絹の巻かれていない目の部分から、瘴気(しょうき)がもれ出しているのだった。

 あとには(くき)だけが残って、それも枯れた。


 やがて足もとの草が()れはじめた。

 体には絹を巻いていたが、動くたびに(しば)りがゆるみ、わずかな隙間(すきま)から瘴気が垂れていた。

 ぴとを中心に、しずかに枯れがひろがっていった。


 「やっと出れた」


 と、うしろから少女が出てきた。

 軽やかな腰で、草の上へ座って、着物を脱ぎはじめた。

 闇のなかでかぐわしい甘い花のにおいがした。


 「花だ」


 と少女が言った。

 ぴとの頭上には、大量の紫藤(むらさきふじ)が、闇夜に(あや)しくゆれていた。

 ゆらゆらと死体のぶらさがるように、長い(ふさ)が垂れている。

 はかりしれない静寂のなかで風にうねっていた。

 

 そのとき、藤が急速に散りはじめた。

 花びらがばらばらちぎれて、満開の房が()せていった。

 あとからあとから花かごを返したように舞い落ちていく。


 ぴとにふりそそいだ花びらは、つぎつぎにしおれて、全て枯れた。

 やがてこなごなに朽ちて、風のなかへ消えていった。

 あれだけ舞っていた藤は一片も残っていない。


 「もういやだ」


 とぴとは思った。


 「この体がだめなんだ」


 藤の(つた)が落ちてきた。

 土にあたって、ばねのようにはねた。

 少女は口もとを動かした。

 しばらくのあいだ、なにか言おうと試みていたが、なにも言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ