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半人は滅びつつある  作者: ほろび
第1章 百鬼夜行
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第2話 けた違いの力

 少女は我慢しきれずに走りはじめた。

 もう下も見ずに、板をガラガラと踏みちらして、いまにも火口のふちへ逃げ去ろうとしていた。


 「つかまえた」


 ぴとはかろうじて少女の(すそ)をつかんだ。


 「あっ」


 少女は足がもつれて、踏み板に体を打ちつけた。

 少女の腰には釣り糸の末端が幾重(いくえ)にも巻かれて、帯のようになっている。

 ぴとはその帯に爪を突きいれて、少女をとらえた。そのとき、

 

 「今!」


 と突然、少女の体がはげしく引かれた。

 呪術師たちだった。

 ぴとは逆らおうとしたが、一斉に白い杖をふり下ろされ、頭を打たれた。

 打ち伏せられ、少女ごと引き上げられる。

 (きぬ)()かれた地面に転がった。


 同時に次から次へと、絹が投げこまれた。

 絹が舞い、あたり一面が白になった。

 ぴとの全身が絹に埋まった。


 「調伏(ちょうふく)せい! 調伏(ちょうふく)!」


 呪術師たちは絹の上から、杖で叩きつけた。

 

 「調伏調伏調伏調伏調伏! 調伏!!」


 数人の呪術師が、絹の下で蠢動(しゅんどう)するとぴとの背中に、ねじこむように杖を押しつけた。

 ぴとはもう体を動かすことができなかった。

 そのまま背中や頭を何度も打たれた。

 切るように杖がふり下ろされる。

 一打ち一打ち、皮膚に食い込んだ。

 

 「たすけて」

 

 とぴとは絹のなかで声をあげた。

 外では怒声や呪文がつづいている。

 立ち上がろうにも、数人に押さえつけられて、なすすべがなかった。


 しかし、左手ではまだ少女の帯をつかんでいるのに気がついた。

 (ふところ)にぐっと引き寄せると、呪術師たちに気づかれた。

 呪術師たちは引きよせる左腕を押さえようと、背中に押しつけていた杖をわずかに動かした。


 その瞬間、ぴとは力のゆるんだ杖を背中で押し返した。

 手のひらを地面にめりこませて、ばねのように()ね起きる。

 呪術師とまともに対面した。


 「組み伏せろ!」


 すぐに呪術師の一人が大きな絹をひろげ、包みこむように迫った。

 ぴとはほとんどでたらめに右手をふった。

 ひろげた絹に爪が刺さる。

 そのため一瞬ではあるが、絹が下方へ強く引かれた。

 つんのめった呪術師が、頭からぴとに突っこんだ。


 「あっ!」


 ぴとの胸のなかに、呪術師が血しぶきをあげて飛び込んだ。

 頭が消え、胸が消え、下半身だけがぼとりと落ちた。


 「え」


 突然の出来事に呪術師たちは固まった。

 ぴとの胸にぶつかっただけなのに、触れた瞬間、あとかたもなく消滅したのだった。

 残された肉体だけが、絹の上へ転がっている。

 呪術師たちは愕然(がくぜん)とその場に立ち尽くしていた。


 ぴとはすぐに動いた。

 はじかれたように吊り橋へ身をひるがえして、少女を持ってかけ去った。

 吊り橋には絹が白一色にはりつめられている。

 踏みこむたびに大きくゆれて、日差しで光った。


 呪術師たちはつられて追ってくる。

 こちらに結集しようと火口のふちを回っていた者たちは、(ただ)ちに橋の向こう側へ引き返した。

 前にも、後ろにも、呪術師がいた。


 「来るな!」


 とぴとは力任せに、爪をふり下ろして、手綱(たづな)を切った。

 足もとが崩れ去る。

 轟然(ごうぜん)と音を立てて、吊り橋が無効となった。

 踏み板をつかみ、そのまま暗闇に落ちていく。


 呪術師たちは唖然(あぜん)として、火口のふちに立っていた。

 その顔もあっという間に遠ざかる。

 火口の壁が近づいてくる。


 「ぶつかる」


 背中から壁にぶつかると、ぬるっと入った。

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