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八流伝機パワードランカー  作者: 桜崎あかり
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始まりのARゲーム

 西暦2016年12月、埼玉県草加市の某所、そこで開催されたあるイベントが注目される事になった。

天気は晴天であり、特に傘をさすような人物はいないようである。そして、時間としては午後4時辺りになるだろうか?

場所はホールを使う形だったが、数万人という大規模なホールを使った訳ではない。数百人規模の小さなイベントホールである。

会場の入口には既に観戦する為のチケットを持った客の行列が出来ていた。

イベントのスタッフと思われる男性達が乱れた列を整理整頓したり、偽物のチケットや転売されたチケットで入場出来ないとも説明している。

その為、何名かの客が会場を後にしているようだった。どうやら転売チケットで入場しようとした人物がいるらしい。

「やはり、容易に中を見せてくれるような場所ではないか――」

 行列を遠目から見ていた産業スパイと思わしき男性の一人は、偽物のチケットではなくステルス迷彩を準備していた。

それに加えて、若干物騒ではあるのだがスタンガンも常備している。おそらく、裏口から入ろうとも考えていたのかもしれない。

彼はネット炎上に興味が全くなく、海外の企業が欲しがっているというAR技術を手にしようと考えていた。

「あんた、産業スパイだな? その顔には見覚えがある」

 架空軍隊の陸軍と思わしき軍服を着用し、更には軍帽を深く被る人物は産業スパイを見つけ、ハンドガンを構えた。

銃を持つ右手は一切のぶれがなく、躊躇と言う感情もない。トリガーハッピーやバーサーカー、サイコパスと言う類ではないが――正気ではないと産業スパイは察している。

「貴様の目、正気ではない! 一体、何が目的だ? 所属は――」

 産業スパイが所属を聞く前に、将校と思わしき人物の銃口から光の様な物が放たれる。

彼が持っていたのは、ビーム系統の銃火器らしい。しかし、撃たれた人物は気絶したのみで命に別条はないようだ。

「こちらとしては、丁度いい玩具が見つかったばかりだ。それを海外に流出させる訳にはいかない。悪いけど――」

 将校は何かをつぶやきながら手元のスマホを操作し、何処かへと連絡をする。電話番号を見る限りでは、警察ではないようだ。

その番号は15ケタ――どう考えても、携帯電話の番号とは違うようなマークも確認出来るのだが――。

「産業スパイを確保した。場所はARフィールドの範囲内にあるイベント会場だ。地図は――逆探知できるだろう」

 彼が通報していた咲は、ガーディアン組織の本部だった。ここでいうガーディアンとは、コンテンツ流通を守る為に違法行為を取り締まる組織である。

テレビ番組の違法アップロードを取り締まるのにARウェポンを使用しての全力制圧、海賊版の製造工場を見つけた際にもARウェポンが使われたと言う。

「ARフィールドが展開されている場所であれば、ARウェポンは起動するが――」

 彼は自分が使用したビーム兵器の火力が、予想以上だった事に驚いていた。

ARウェポンがリミッター以上の威力を発揮する事は、まずありえない。

ガーディアンが使用している物は、リミッターが解除されているようだが――真相は定かではなく、不正確な情報がネット上で拡散しているのが現状だ。

「あの会場で何が行われているかは――後で公式で配信される動画で確認させてもらうよ」

 彼の名は扶桑飛鳥ふそう・あすか――ある事件をきっかけにトラウマを持ち、復讐する為に動く――復讐鬼と言える人種だ。

しかし、彼は『不殺』の復讐鬼という矛盾がありそうな物を抱える人物なのである。

彼の名前が浮上するような事件は、これ以降は目撃される事はネット上でもなかったと言う。



 会場内の中央に設置されたリングは、プロレスやキックボクシング、総合格闘技で使用されている物とは異なる形、広いエリアが取られている。

リングの広さは幅が50メートルあるのだが、四方の形状ではない。何と、直線幅は倍の100メートルが取られている。

まさか、このリングで100メートル走を行う訳ではないだろう。一体、何を考えているのか?

それを踏まえている関係か、入場者の規模も数千人のキャパが入るであろうホールなのだが、実際は数百人に減らしていた。

しかし、客足はガラガラと言う訳ではなかった。まさかの満員御礼である。これにはスポンサーも驚いていたという話だ。

何故に数千人入る会場で数百人程度の入場に制限したのか、それはリングの広さを確保する事と装置の設置で場所が取られるためらしい。

おそらく、今後のイベントなどで小型化や回線の強化を行い、観客が入るようにする事も視野に入っているのかもしれないが。

「まさか、ここまでの注目があるとは――それだけ、特定芸能事務所ばかりが注目されるバラエティー番組に飽きていたという事か」

 身長は170センチ位、髪型は黒髪のオーバーオール、右目に眼帯をした男性が、パイプ椅子にパイプ机といういかにもプロレス中継の様な席に座っている。

服装はグレーのコートであり――どう考えてもテレビ映りを重視したような服装ではない。体格はスマートなので、その辺りは大丈夫そうだが。

彼は今回のイベントに関して、ある確信を持っていた。今の若者は、特定芸能事務所無双と言えるテレビ番組に飽きているのだと。

「まもなく、パワードランカーのオープニングイベントを行います!」

 そのイベントの名前は『パワードランカー』、埼玉県草加市の地方活性化の一環で行われていたARゲームを利用したイベントである。

内容は1対1でバトルを行う――格闘技と言うよりは、対戦格闘ゲームをリアルで再現した物と言った方が早いだろうか。

ルールは簡単だ。対戦相手の体力ゲージを0にする――それを3セット先取で勝利となる。対戦格闘ゲームをリアルで再現したというのは、これに由来しているようだ。

格ゲーで言う体力ゲージや超必殺技ゲージも、会場に置かれたモニターで確認出来るようになっており、モニターで視聴すると本当に格闘ゲームにも見えるような感じである。

 参加するプレイヤーの数は12人、ロケテストで高得点を獲得して選ばれたメンバーが集まっている。

その外見は、魔法少女、忍者、中世の騎士、アマゾネス、大剣の剣士、戦国武将、SFのロボット、召喚術師、アマゾネス、格闘家、侍、スナイパーと、まるでコスプレイヤーのイベントにも見えるだろう。

「ここでひとつ、補足をいたします。彼らが着用している衣装、それに持っている武器は拡張現実で作られた――ARガジェットです。アマゾネスに関しては本物の肉体ですが――アスリートではないと参加出来ない訳ではありません」

 パイプ机の特設席にいる人物が補足の説明を行う。この説明を聞いた観客は、歓声を上げて唐突に盛り上がったのである。

「今回のイベントは、あくまでも前夜祭であり、本番ではありません。ARゲームであるパワードランカーのコンセプト説明のイベント――要するに、1ではない0空のスタートです」

 特設席にいた人物の名は山口飛龍やまぐち・ひりゅう、ゲームメーカーである武者道むしゃみちを立ち上げた人物でもあった。

彼はカードゲーム界でライバル会社に挑めるほどの作品を生み出し、更には様々なジャンルで客足も遠のいているようなコンテンツを再生してきたのである。

経済雑誌では『若き革命児』などと呼ばれているのだが、あまり革命児とは呼ばれたくないような気配を感じるだろうか。

彼はあくまでもコンテンツを再生させ、日本経済に新たな革命を起こそうとしていたのである。

それこそ、テレビ番組で特定事務所の芸能人やアイドルを起用すれば視聴率が取れる――そう考えている企業に対し、警鐘を鳴らそうとしていたのだ。

実際、山口は雑誌のインタビューで――。

「特定芸能事務所が日本を再生させたと誤認識させるような経済は、やがて破綻するでしょう。コンテンツ流通を根本から変えないと――」

 こう言った事を力説していた。他にも言及している可能性はあるが、そちらの発言は重要視されておらず、ここだけが切り抜かれた形である。

その口調は、まるで超有名アイドルに依存して赤字国債を減らそうとしている政治家をけん制する様でもあったという。

どちらにしても、コンテンツ市場で大きなシェアを持つであろう超有名アイドルを敵視しているのは間違いない。

コンテンツ市場でライバルが競い合う様な物であれば、彼もこうした発言はしなかったと思われる。

それだけに、今回の発言は――芸能事務所が行ってるとされる行為がグレーゾーンを飛び越え、レッドゾーンであるという事を再認識させた形だ。



 今回のイベントは文字通りの前夜祭として行われた。いわゆるひとつのコンセプト説明の為のイベントである。

しかし、前夜祭とは考えられないような物を山口は示した。コンテンツ流通を変える為に自分が起こそうとしている事の本気を――。

あくまでも説明会を兼ねたイベントの為、ナンバリングとしてはナンバー0に該当する。

【本当に格ゲーのようだった】

【ある意味でゲーム会社の本気を見た】

【ARゲームの開発は武者道ではない。しかし、彼らがやろうとしている事は――】

【優勝したのは戦国武将のようだが、甲冑もそれっぽく再現されていた】

【ARアーマーとARウェポンも、カスタマイズが可能らしい】

【今後は、パワードランカーもアンテナショップで扱うらしい。つまり――】

【自分達でも、あの12人のようにステージに立つ事が可能だと?】

【それは、ある意味でも凄いぞ。武者道の説明によると、テレビ中継も予定しているとか】

【テレビ? 格闘技中継のように――本当に中継されるのか?】

【そう言った可能性を示唆したのが、今回のコンセプト説明イベントの目的だろうな】

 しかし、それと似たようなコンセプトは既に別の格闘技イベントで行われた後である。

それでもつぶやきサイト上では、様々な意見や感想等が飛び交っていた。

【そう言えば、このARゲームは何処でプレイ出来るのか】

【プレイ可能な場所は埼玉県草加市に限定されるようだ。町おこしでARゲームを展開しやすい関係で選ばれたらしい】

【仕方ないか。ARゲームがプレイできる場所は全都道府県だが、ARゲームを理解しているのは町おこしにしている草加市と――】

【足立区や秋葉原、一部の関東圏のみだ。それ以外はARゲーム専用のゲーセンでしかプレイできない】

【他の都道府県からは遠征するしかプレイする手段がないのか】

 パワードランカーをプレイ出来る箇所は、埼玉県草加市に限定される事が発表されている。

それで一気に冷えるかと言うと、そうではない。ネットでは、何としても炎上させようと悪意あるまとめサイトなども動いているのだが――。

しかし、草加市では悪意ある情報を拡散するまとめサイトを禁止する条例が施行されており、最低でも草加市内ではまとめサイトの話は聞かない。

その一方で東京等の条例が影響を受けないエリアで炎上している。ガーディアンも、それを把握しているのだが――彼らには動けない事情があった。

それが東京へ進出できないという物である。実際、ガーディアンガーディアンの活動範囲が埼玉県内限定とされているのも理由の一つだ。

埼玉県内だけでも事件が発生している為――関東の他エリアへ進出すれば、埼玉県内が再びネット炎上すると考えているようだ。



 2017年となり、ARゲームも過去に運営が炎上していた時期が嘘のように、プレイヤーが増えている現状がある。

会社の一室ではなく自宅の居間で正月恒例の駅伝を視聴していた山口は、コーヒーを飲みながら考え事をしていた。

「過去に起こった偽ヒーロー事件、あれをロケテストと報道せずに炎上させるような記事にした事――あれがARゲームを狂わせる元凶となった」

 テレビは液晶大画面タイプだが、50辺りではなく、30弱と言ったところか。

そこに映し出されている選手達の走る姿――山口は、そこに一連のヒントがあると考えていたのである。

チートや不正と言ったようなテレビで言うやらせや過度な演出――そう言った物が0とは言えないが、スポーツ競技中継にはあった。

それと特撮番組やアニメを組み合わせれば――新たなコンテンツとしてARゲームのマイナス面を緩和でいるのでは、と。



 西暦2000年、地球が滅亡すると言う予言が流行していた。その1年前位には別の大予言で地球滅亡と言われていた中――である。

日本中でも地球滅亡の予言は鵜呑みにされており、このままでは日本でも海外同様に大混乱するのでは――と言われていた。

その状況をひっくり返すような現象が起きる事を祈る人物もいれば、開き直るような人物も存在する。

それを踏まえると、他の国と比べて大きな混乱が発生していない事がよく分かるだろうか。

 そんなある日、埼玉県内のある市に突如として異星人が出現、それらを撃退するヒーローの姿が目撃された。

『地球が狙われている!』

 異星人を撃退していくヒーローの発言が、その年の流行語大賞を獲得してしまうほど――地球滅亡の予言は想像以上に影響を受けていたのかもしれない。

この状況が落ち着くようになったのは、翌年の2001年からであるが――騒いでいたのは一部のネット炎上勢という皮肉が飛び出すほどに、地球滅亡の予言はネタであると言及する者もいた。

ヒーローに関する出来事は特に言及される事無く、一種の都市伝説としてネット上で伝わっていた――。

その数年後には複数のARゲームでロケテストが行われていたらしいという事が判明、今回の事件との関連性も疑われたのである。

ゲームのロケテと今回のヒーローが関係あるのか――という意見もあり、しばらくは関連性がないと判断された。

特撮や映画の撮影と言う可能性もあり、埼玉県内では映画撮影等を町おこしにしようと考える自治体も確認されている。

それを踏まえれば、一連のヒーローも撮影と言う事で解決する――はずだった。

そして、全ての事件の始まりは予言絡みの事件から10年後の西暦2010年に、大きく動き出す事になる。



 西暦2010年、晴天の有明、国際展示場で行われたコンテンツイベントにおいて様々な作品が発表されていた。

近年、日本の漫画やアニメが海外でも評判であり、そこからビジネスチャンスを――と考えていた、あるメーカーが展示していた物がある。

そのデザインを見た、ある記者が記事を拡散した事で事態が急変したのだ。

「これは、あの時に姿を見せたヒーローじゃないのか?」

 ある雑誌記者と思わしき人物が驚きの声を上げるのだが、これだけではサクラと思われても不思議じゃない。

しかし、メーカーの許可を得て写真をアップした際に――事件は起きた。

【西暦2000年に現れたヒーローは偽物だった!】

 これをゲームのロケテスト等と書けばよかったのだが、明らかに悪意のあるような説明にネット上は炎上した。

西暦2000年当時はインターネットが今以上に発展していなかったが、ここ10年では大きく成長している。

その為か、ネットが炎上する速度は一瞬だった。そして、その翌日にスタッフがホームページで謝罪をする展開となっている。

 その後、この記者の正体は超有名アイドルのファンだったという事で、超有名アイドル商法のマナーの悪さがピックアップされる事になった。

こうした商法が多くなった理由にもなっていただけに、芸能事務所も炎上すると思われたのだが――炎上する事はなかった。

【1ファンの暴走であり、この人物は超有名アイドルのファンではありません】

 まさかの切り捨てである。しかも、この人物がファンだったのは実在のアイドルではなく、アニメ作品のアイドルであるとも報道したのだ。

これにより、ネット炎上は加速し、超有名アイドルの芸能事務所による炎上マーケティングは、その年の流行語大賞にノミネートされるまでに至る。

しかし、ノミネートされただけで大賞にはならなかったのは、芸能事務所側の圧力があったとも言われている。

噂によると大物政治家が芸能事務所から裏金を受け取っているとも言われたが――真相を調べようと言うマスコミはいなかった。



 あの事件は、海外でも超有名アイドルを見る目が変化したと言われるまでに至っていた。

それを何とかする為に芸能事務所は、政治家を買収し――とも言われているのだが、その真相は不明のままである。

「何とも言葉に出来ないような事件だった――」

 山口は事件に関して直接目撃はしていないのだが、この時に自分の会社を更に大きくしていれば――と後悔していた。

その当時は、まだ会社の規模としては中規模の実力はあったのであるが――資金力としては、有名メーカーには及ばないだろう。

しかし、発言力という部分では弱い物であり――現在の様なARゲーム再生の為にイベントを立ち上げられるような資金力もなかった。

「しかし、もうあの時のように何も出来ないで見ているだけではない――」

 駅伝の中継をチェックしつつ、ネット上のタイムラインを山口はチェックし始めていた。

今回のイベントに関しては、大成功と言う風に書くメディアも存在するが――100%と言うのは、この世の中にはないと感じている。

中には、わずかな歪みやゆらぎとなるような発言もあるだろう。こうした発言が、ネット炎上を呼ぶ可能性も否定できない。

こうした発言を拾い集め、可能であれば修正していく――それが武者道の企業方針でもあり、ARゲームが目指すべき道でもあった。

「過去のソシャゲの様な運営を批判し、詫び石などを求めるようなネット炎上――それはARゲームではあってはならない」

 若干ため息をもらしつつも、ネットのタイムラインを山口はチェックする。そこにはARゲームに対する否定的な意見、今回のイベントの不満点を拡散するネット住民もいた。

しかし、本当にそうした風に見えていたのだろうか? この書き込み自体が炎上を煽るような釣り発言だったり、芸能事務所の雇ったアルバイトである可能性も否定できない。

駅伝の方もCMになった辺りで、山口はキッチンへと向かい、そこで湯沸かし器のお湯を用意したカップうどんに注ぐ。

蓋には『カレーコロッケうどん』と印刷されている。カレーコロッケの入ったうどんと言うよりは、カレーうどんにコロッケが載っているようなイメージだ。

「自分が目指すべき運営は、誰もが楽しめるようなARゲーム――理想論と言われようとも、それを実現させる事が目標か」

 容器の中に入ったコロッケを取り出し、カレースープの素を入れる。コロッケは後のせ形式でも問題ないという訳ではなく、お湯を注ぐタイミングで載せるらしい。

お湯を注ぎ、コロッケを載せる頃には駅伝のCMも終わり、中継の続きが流れていた。

「全ては、これから始まるのか――」

 山口は少し複雑な表情を見せつつもネット上のタイムラインをチェックする。そこに書かれた否定的な意見に目を通し、対策を考えていた。

否定的な意見をスルーするのは簡単だろう。しかし、本当にそれに目をそむけたままで良いゲームを作れるのか?

スマホゲームが多い一方で、似たようなシステムのゲームに飽きているユーザーが現れ、その果てにゲームの運営を炎上させて自分の意見をゴリ押ししようと言う人物もいるかもしれない。

草加市で、それをやると運営妨害罪として逮捕されるのだが――これが適用されるのはソシャゲ等に限定され、最初からパッケージされたゲームには適用されない。

ARゲームも、オンライン要素が存在する作品は運営妨害罪が適用されるだろうが――。



 西暦2017年2月、パワードランカーの第1回大会は行われ、大盛況だったという話もある。

イベントを重ねていくにつれて、細かい運営ミスなども解消されていき――山口が宣言したとおり、ARゲームは再生していった。

その一方で、アダルト要素を含んだARゲームも一部で存在し、それがネット上で問題視されていた。

アダルト系のARゲームは、本来であればARゲーム化禁止というカテゴリーであり、何故に審査漏れをしていたのかが不明な状況である。

「次の課題は、ここになるのか――」

 会社のデスクで大手サイトのニュースを見ていた山口は、次に炎上マーケティングのターゲットにされそうなニュースを調べていた。

草加市では超有名アイドルのビジネス活動が制限され、近年になって完全な締め出しを考えている気配さえある。

こうした原因に、アイドル投資家やファンの暴走、アイドルファンのマナーの欠如等が言及されているが――それだけではない可能性が高い。

「締め出すという事は単純だろうが、今度は東京などで炎上マーケティングを展開するのは目に見えている。歴史は繰り返すのか――」

 超有名アイドル商法に関しては、過去の歴史でも何度か炎上マーケティングと言及され、規制すべきという案まで出たほどである。

しかし、それでも規制をしなかったのは線引きが難しいという事を理由にしていた。

炎上マーケティングが海外で問題視されている事も同時に議論され、その結果を踏まえての規制見送りだったのである。

「しかし、過去の超有名アイドル商法に関するまとめサイトは――その大半が削除されている」

 理由は不明だが、超有名アイドル商法を批判するまとめサイト等は、ここ数年で相次ぎ削除されている。

その理由は特定芸能事務所に対する風評被害を考慮――との事だが、圧力である事は明白だろう。

「次の一手か――」

 山口はネット炎上の懸念があるような部分を修正して行く事で炎上勢力の煽り等をかわしてきた。

しかし、今度ばかりは今までのようにはいかないと――そう考えている。

こちらから反撃に出なければ、ネット炎上勢力の脅威を世界中に知らせる必要性があった。

その勢力こそ、地球上の事件等を影で操る勢力であると確信しているからである。



 それからしばらくした辺りでは大きなネット炎上が発生する事はなかった。

ARゲームで炎上した作品はあったのだが、それらは運営の対応や詫び石、別作品のパクリ等というアプリゲームやソーシャルゲームと同じような案件である。

山口が懸念するような案件で炎上した訳ではなく、それらは運営の不備や準備不足、調査不十分等が原因だった。

「ネットでARゲームが原因で炎上する傾向は――大体分かった。後は、不確定な炎上要素を探るべきなのだが――」

 山口は会社のデスクでパソコンを前にして炎上要素のピックアップを行っていた。

スタッフからも情報提供があるのだが、決め手となるような要素は見当たらない。細かい要素はあるのだが、それはパワードランカーでは該当しない事例である。

該当する事例であれば、参考になるのかもしれないが――。

「この件に関しては、しばらく継続調査をしていく必要性があるのか」

 山口は色々と悩み抜いた結果、継続調査として引き続きデータ収集を行うようにと指示した。

他のARゲームもプロデュースや再生を予定しており、そちらへのノウハウ等で行かせる可能性も残すような形とも言えるだろう。



 それから2年近くが経過した。

インターネットではネット炎上に対し、新たな法案が検討され、ネット炎上を行った人間を摘発できるシステムも完成されつつある。

ARゲームでも、様々なジャンルがしのぎを削りあって良作とも言えるゲームはいくつか誕生していた。

その中で、未だに大きな支持を受けているのはパワードランカーである。

遂には民放でもパワードランカーの中継番組が組まれるようになり、かつての格闘技番組ブームを思わせるような展開を感じる事が出来た。

唯一、格闘技中継などと違うのは番組前にアニメのオープニングを思わせるようなパワードランカーに関する説明と――。

『パワードランカーズを見るときはアニメ的演出等の都合上、部屋を明るくして、画面から離れてからご覧ください』

『パワードランカーズはルールを守って、正しくプレイしましょう。違法プレイなどの不正行為はランカーにあこがれる子供達も見ています』

 2つのテロップである。これは格闘技番組では見られない物で、アニメでも『部屋を明るくして~』は出ている作品はあっても、2つ目は扱っているジャンルによってはあるかもしれないが――。

稀に『テレビ番組の違法アップロードは~』と言うテロップが出る番組もあるが、パワードランカーでは原則として表示されない。

その理由として、一部勢力が犯人を超人的なパワーやARウェポンで圧倒すると言うニュースが報道された事で、報告件数が減った事が該当するだろう。



 パワードランカー、それは対戦格闘ゲームをイメージしたと言われているARゲームで、エリアによってはリアル格闘技よりも支持される――ARゲームの一つ。

ARゲームとは現実の映像にコンピュータの情報をリアルタイムで付加し、現実ではあり得ないような演出や大迫力の映像でプレイするゲームだ。

そこで繰り広げられるは、様々な目的を持った数多くのプレイヤー達が1対1で対決する――リアル対戦格闘ゲーム。

リアル格闘技には出来ないような派手な必殺技、ロボット同士の対決、武器格闘、セクシー美女同士のバトルもARゲームならではの演出。

これから君達が目撃するのは、そんなARゲームという枠を超えた対戦格闘ゲームであるパワードランカーで行われる、1対1の真剣勝負!

チートや不正は、即失格。正規ARガジェットを使用したガチ勝負だからこそ――パワードランカーは支持されているのです!

今、君は――常識破りの対戦格闘ゲームの目撃者となる!


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