九十三話目 続・面倒事に巻き込まれた日
あんなに真っ青な顔をしたシエロ君を、僕は初めてみたんだ。
シエロ君はいつも明るくて、でもちょっと意地悪で、だけどいつもお母さんや他の家族の事を思い出して悲しくなっちゃう僕を慰めて、助けてくれるんだ。
そんな強いシエロ君が、泣きそうな顔で凄い早さで走って行ったんだ。
絶対、何かあったんだ。
あの胡散臭い先輩に何か言われたはずなんだ!
シエロ君、すぐに先生を呼んでくるから、絶対絶対無事で居てね?
僕は滲む目を擦りながら、ランスロット先生のお部屋の扉を叩いた。
「先生、ランスロット先生!!」
《カチャッ》
「誰です?ノックは優しくお願いしますよ~?おや、ブロンデ君、どうかしましたか?」
「先生、シエロ君が大変何ですぅ~~」
そこまで言って、僕の涙の栓は壊れた様に溢れた。
「えっ?シエロ君?ちょっと、ブロンデ君、おっ落ち着いて?一度落ち着きましょう!?」
◇◆◇◆◇◆
「おい、アレックス、本当に此処か?」
「んだよ、ルドルフ。俺の鼻を疑ってんのか?間違いなく此処だよ!」
俺達は、シエロの匂いを辿って、この場所まで辿り着いた訳何だけどよ…。
「だってよ…?此処、保健室の横の倉庫だぜ?」
「俺が知るかよ?で?どうすんだ?入るか?」
「たりめぇだろ?お前こそ、心の準備は大丈夫かよ?」
俺がニヤリと笑うと、アレックスもその面を歪ませて笑った。
「勿論だぜ。んじゃ、行くぜ?」
俺達は、倉庫の中へ飛び込んだ。
◇◆◇◆◇◆
時間は少し戻る。
一時は頭に血が上って走り出した僕だったけれど、保健室の前まで来た時には冷静さを取り戻していた。
改めて地図を見る。
やっぱり【処置室】何てものはどこにも書いてない…。
地図によればこの場所は【倉庫】となっていた。
何かの勘違いだったのかもしれないので、僕は素直に保健室の先生に聞いてみることにする。
「失礼します。プロクス・コルトが此方に来ていると伺ったんですが…」
「あら?プロクス君は今日は来てないわよ?」
保健室の中には、右側が白、左側が赤という派手派手しい髪の毛をポニーテールにしたナイスなボディの保健医さんが居た。
まっ眩しい!
正しくエロ格好いい女医さん!!
白衣の合わせ目から覗く、ナイスなおっぱ…ゲフンゲフン。
いやいや、そうじゃないよね?(照れ)
「スティンガー先輩から、此方へ運ばれて来たと伺ったものですから…」
「あら?何でクラスも学年も違うスティンガー君がそんな事を?可笑しいわねぇ?何て聞いてきたの?可愛い坊や」
かっ、可愛い…(照れ)
いやいや、惑わされるな僕!
「スティンガー先輩からは、酷い怪我だから、隣の処置室で治療を行うとお聞きしました」
「あら?此処の隣には私のペットしかいないわよ?」
「「ああ゛~~~!!!?」」
え?今の何の声?
隣の部屋から何か凄い声が聞こえてきたんだけど!?
「あら?ケロちゃんの部屋に誰か肝試しにでも来たのかしら?まったく、しょうがないわねぇ…」
ブツブツ言いながら、隣の部屋へ向かう先生。
あっ、待って下さい先生。
僕もご一緒したいです!!
《カチャ》
「ケロちゃ~ん?おイタは駄目よぉ~?」
そう言いながら、倉庫と書かれた隣の部屋へ入っていく保険医さん。
おっ、お邪魔しま…。
わぉ…。
一体何処ら辺が【ケロちゃん】何だか分からないけど、倉庫に居たのは、見ているだけでSAN値がゴリゴリ下がりそうな触手のお化けだった。
ヌルヌルヌメヌメした、ドゥルドゥルの蛸の足みたいなのが部屋一杯にジュルジュル蠢いて、うぅ、気持ち悪いぃ~。
んで、そこに絡まっているのは見知ったわんこさんと、ハーフのうさぎさん…。
「何やってんの?ルドルフ、アレックス君?」
「バカやろ~、お前のせいだろうが~~」
「シエロ~、無事かぁ~?」
触手にブンブン振り回されながら何か言ってるけど、うわんうわん言っててよく聞き取れないなぁ?
『無事か?って聞いてるみたいよ?』
あっ?本当?ありがとうブリーズ。
「僕は無事だよ~?ルドルフとアレックス君こそ大丈夫~?」
「助けろよぉ~!!」
「大丈夫じゃねぇ~!!」
うん、2人とも元気そうで何よりだ(笑)
「すいません、アテナ先生!うちのクラスの子達がいるはず何ですが!!あっ、シエロ君、良かった無事でした…あぁ~、ルドルフ君、アレックス君…」
走って此処まで来たらしいランスロット先生が息を切らせながらやってきた。
そして無事な僕を見て明らかにホッとした様な顔をしたと思ったら、ルドルフ達の惨状を見て頭を抱えている。
えっ?本当になにごと?
皆して僕が無事かどうか聞いてくるんだけど、僕何かしでかしたっけ?
「シエロ君!あっシエロ君、何処も怪我してない?嫌な事されてない?」
うわっ!?えっ?ブロンデまで…!?
本当にどうしたの?
そんで、ブロンデは何で泣いてんの?
「はぁ…。とりあえず、ルドルフ君達をどうにかしなくては…。アテナ先生、ちょっと失礼しますね?」
「私は、ケロちゃんに傷を付けられさえしなければ大丈夫ですわ?ウフ、宜しくお願いします♪」
「では。風よ、彼の者達を風に乗せて我が元へ…」
先生が魔力を練ると、あっという間に小さな旋風が起きて、触手に絡まったままの2人の体を包み込んだ。
そしてそのまま、2人は先生の前へ…。
《どしゃっ》
っと落ちた。
「たっ、助かったぁ~」
「うへぇ、ドロドロ…」
治まった風の中から出てきた2人は、触手のヌメヌメでドロドロになっていた。
おぉ…、こりゃ酷い…。
「2人ともちょっとじっとしててね?水よ、僕の風を纏いて、彼らの穢れを押し流せ」
ドロドロの2人に向けて魔法を放つ。
僕は水の属性を持っていないけど、前にルーメン姉さんから貰った【水の石】が役に立ったな♪
2~3秒後に軽い洗濯機みたいになった魔法は解け、中から綺麗になった2人が出て来た。
サービスで温風を当てて、濡れた床ごと乾かす。
うん、バッチリ綺麗になったね☆
「ゲホッゲホ、お前っ、息を止めとけとか何とか言っとけよ!?」
「あぁ~、でもスッキリした~」
あっ、忘れてたね?
ゴッメ~ンね☆
「可愛い子ぶんな!気色悪い…。でも、お前が無事で良かったぜ…」
「それなんだけどさ…。皆はどうして此処に?」
「あの胡散臭い奴がシエロに何か言ったんだろ?僕は何も知りませ~んなんて言って逃げやがるから、皆お前を心配して来たんだ」
あぁ~、あのやり取りの後でルドルフ達とかち合ったのか…。
なるほど、あん時僕もテンパってたからなぁ~。
皆に悪い事しちゃった…。
「そっか…。僕のせいでルドルフとアレックス君を酷い目に合わせちゃってごめんね?ランスロット先生、お騒がせして申し訳ありませんでした」
ご覧の通り、僕は無事です。
僕は感謝と謝罪の気持ちを込めて頭を下げた。
「急にブロンデ君が部屋に飛び込んで来るから、何事かと思いましたよ…。シエロ君、アテナ先生のご迷惑にもなりますから、場所を私の部屋に変えて、何があったか聞かせて貰えますか?」
「はい、分かりました。それとアテナ先生、ご迷惑をおかけしました」
「あら?私は何もされてないわ?また何時でもいらっしゃい♪お菓子くらいならあるわよ?」
怪しく笑うアテナ先生。
うわ~、危険な香りがする~(笑)
その後、倉庫を辞した僕達は、場所を変えて先生に事情を説明した。
僕らが先生の部屋を出た後で、スティンガー先輩にも事情を聞いたらしいけど、先輩はそんな事実は無いと、認めなかったそうだ…。
映像や音声が残ってる訳でもないし、嫌がらせされたのは間違いないけど、今回は諦めるしかなさそうだ…。
あぁ~あ。
お昼は食べ損なうし、踏んだり蹴ったりな1日だったよ…。
◇◆◇◆◇◆
遠足?から帰ると、人だかりが出来ている場所があった。
隣の2人に断りを入れ、人だかりの中心を覗いてみる。
するとそこには、4年C組のゾルフ・スティンガーを模したと思われる、等身大の石膏像が設置されていた。
立派な台座に乗せられた石膏像は、着衣を身に着けておらず、所謂裸像だった。
彼のイヤミな程キザったらしい笑みもソックリ精巧に仕上げてあったけれど、特に目を引くのは彼の下腹部辺り。
男の象徴ともいうべき物が恐ろしく小さく作られていた事だろう。
「止めろ!見ないでくれ!?僕のはこんなじゃない!!!」
そう喚きながらご本人が登場して何とか隠そうとしていたけれど、男は哀れそうな目を彼に向け、女子は恥ずかしそうにしながら何事か喋っているだけで、誰も彼の言葉を聞いているものはいなかった。
あれだけソックリに作られているんだ、当然皆ソコ(・・)もソックリだと思うだろう。
僕らがこの学園にいない間に何があったのかは知らないけれど、きっと彼は障ってはいけない何かに障ってしまったのだろうね…?
フフフ、ご愁傷様。
未だに何事かを喚き続けている彼を横目に見ながら、僕は寮に向けて歩き出した。
はぁ、今日も疲れた。
早くお風呂に入ってゆっくりしたい…。
転んでもタダでは起きない誰かさん、と言うことで(笑)
本日もお読み頂きありがとうございました。