九十一話目 2時限目の授業を受けた日
優しいランスロット先生の暗黒面を見てしまった僕達だったけれど、何とか恐慌状態から抜け出す事に成功した。
良かった…。
マジョリンさんが状態異常を解除する魔法を知ってて本当に良かった。
「キシシシシ、皆だらしないわねぇ…」
いや、あれを回避出来る貴方が可笑しいんですよ…。
「何があったかは、分からん、が、そろそろ、授業を始めても、構わんかな?」
「キシシ、もう大丈夫ですよぉ?お願いしますわぁ?」
マジョリンさんの不気味な笑顔に、不思議と安心感を覚え始めた頃、やっと授業が再開されたのだった。
――――――
「では、気を取り直して、授業を始めるぞ…?俺とはステータスカードを更新した時にも会っているハズだから、完全に初対面と言う訳ではないが…。覚えていない奴もいると思うので、改めて自己紹介をしておく…」
あっ、本当だ。
さっきは気がつかなかったけれど、良く見ればあの時色々教えてくれた先生じゃないか…。
目の下にあった隈が無いから分かんなかったや(笑)
先生は赤茶色の髪の毛を短くざんばらに切り――あれ自分で切ったんじゃね?…――、濃い紫色の目をしていた。
「俺はスクルド・ヘリアン。本来なら魔法学と魔導学の教科を受け持っているのだが、ステータスカードの研究も理事長から任されている為、本日はその説明をしに、やってきた訳だ…」
聞けばスクルド先生は、日夜魔導に関する研究の他に、ステータスカードを更に効率良く使う事や、新しい機能の開発何かを研究しているそうだ。
「では、先ずはステータスカードの歴史、何かを少し、話した後で、カードの使用法を説明する」
そう言って先生はステータスカードの歴史を、時には黒板を使いながら話し始めた。
―――
ステータスカードの歴史は意外にも浅く、30年程前から…。
カードを作り出した人物は、冒険者を経験してから神父になると言う異色の経歴を持ち、若い冒険者達がこれ以上無知故の死、という過ちを犯さない為に作ったとされている。
最初のカードは、名前、レベル、スキル、魔力量の項目のみしかあらず、ここまで高性能化したのはここ10年程だそうだ。
そして、ステータスカードを作り出した人物の名前は――――
―――
「ブッ!?」
スクルド先生が黒板に書き出した言葉をみた瞬間、僕は吹き出した。
えっ?何故って?
見てみりゃ分かるよ、ほらっ。
《クラレンス・ド・リュミエール》
ほらね?
いや、僕の知ってるクラレンスさんとは違う人かもしれないけどさぁ…。
「ん?どうした?急に吹き出したりして…」
「あっ、申し訳ありません。僕の知り合いの方と同じ名前だったもので、ビックリして…」
不思議そうな顔をしているスクルド先生には申し訳ない事をしてしまったけどさ…?
うん、そうだよね?
僕はあのクラレンスさんのファミリーネームを知らないわけだし、リュミエールってのもどこかで聞いた事がある気がするけど、きっと気のせいで――。
「あぁ、そうだ。君の知っているクラレンス神父で間違いないぞ?」
神など居なかった…。
あっ、居るのか…3姉妹の女神が…くそぅ…。
「だから、あの時言っただろう?あの人は優秀な人だと…」
えぇ、確かにおっしゃいましたとも…。
でも、先生、その後確実にこうともおっしゃいましたよ?
《「やる気がないからなぁ…」》
って…。
あのやる気のないクラレンス神父が、そんな殊勝な心持ちでステータスカードを作り出したとは思えないんだけど。
案外女神達から地球の小説の話しでも聞いて、面白そうだって作ってみたんだったりして…。
いや、流石に考え過ぎかな?
30年前のクラレンス神父はやる気に満ちてただけかもしれないし…。
「その、優秀な神父様も、今年限りで勇退なさるらしい…。私としては、この学園に来て、一緒にカードの可能性について、研究して頂けたら、と思うよ…」
えっ?
勇退?
へぇ、まぁ家の祖父さんと同い年って設定だし、そろそろ引退しても可笑しくはないよね?
はぁ~。
しかし、僕の周りの偉い人はもう少しでいいから偉い人って感じを表に出してくれないかなぁ…。
こんなにポンポン知り合いの話しを出されたら、いくらなんでも心臓が保たないよ…。
「まぁ、神父様のお話しはこのくらいにしておくが、そんな凄い方がいらっしゃっると言う事だけ、覚えておいて欲しい。では続けて、ステータスカードの操作方法を、説明しようと思うが――」
その後、スクルド先生は丁寧にステータスカードの使い方を教えてくれた。
このカードは冒険者に登録する時も勿論使えるし、銀行のカードとしても使える事が分かった。
銀行でこのカードを照会してもらうと、犯罪歴がなければ誰でも口座を作る事が出来るんだそうだ。
その他にも、カードに残高があれば現金代わりにも使えるし、世界地図、魔物の討伐数等々、色々な機能が付いている万能カードらしい…。
うん、自分の機密情報がこの小さなカードに詰まってるって事が良く分かった。
もし紛失しても再発行は可能だし、紛失したカードが悪用されない様なガード機能も付いているそうだけど、絶対に無くさない様に気をつけよう…。
ガード機能があっても悪用する奴は絶対いるって、うちの死んだ祖父ちゃんが言ってた。
あっ、勿論前の世界での話しだよ?
家の鬼瓦はピンピンしてるから安心してね?
《カララララーン、カララララーン》
「おっ、それでは、これにて私の授業はお終いとなる。何か質問があれば、大抵特別教室棟の私の部屋に居るので、カードの地図を頼りに来て貰えば良い…。」
「「「「「ありがとうございましたー」」」」」
「ん。では、な…」
そのまま休み時間になり、僕がスクルド先生が教室を出て行く様子を目で追っていると、ブロンデとルドルフが声を掛けてきた。
「シエロ、ステータスカードを作った神父様ってどんな人だった?」
「僕は放課後の事の方が気になるよ…」
「神父様は…、一言で言うと、やる気のない人…。後、ブロンデ、ガンバッ!」
あれ?
それぞれにちゃんと答えたのに、何でそんなに不服そうなのさ…。
「さっきの先生の話しと繋がらねぇよ。もっと凄い人っぽかったじゃねぇか?」
「ガンバだけじゃなくて、一緒についてってやるよ?くらい言ってよ~?」
え~?
めんどい!!
『シエロ酷っ!?』
あ~、あ~。
何も聞こえませ~ん(笑)
さぁ、2時限目の授業が終わったんだから早くご飯食べに行こうぜ~☆