九十話目 休み時間事件の日
クラスメイトの約三割を凹ませた【魔術】の授業が終わり、皆でゾロゾロと教室へ戻ってきました。
「何で1番凄い魔法をぶっ放したシエロが、1番落ち込んでんだよ?」
「シエロ君、何でか分からないけど元気出してよ?」
うん、ありがとうだけど、チョットホッテオイテクレマセンカ?
『アレだけ目立ちたくないって言ってた人が、1番目立ってた訳だしねぇ?』
『明日には学校中さ広まってんでねぇべか?』
ウグググググ、1番の味方が1番傷口に塩を塗り込んでくるよぉ…。
仕方ないじゃんか~!?
だってアレと、ウィンドカッターくらいしか知らないんだもん。
ドーマさんに教えてもらったウィンドカッターは、先にアレックス君が使っちゃってたしさ~?
2人とも、僕なら2つ覚えておけば大丈夫!!ってしか言ってくれないし、ブリーズ達は攻撃魔法教えてくれないしぃ~。
「なぁ、シエロ。何で落ち込んでんだか分かんないけどよ?今まであの魔法で壊した中で、1番デカい奴って何?」
何だよぉ~、人が真剣に落ち込んでるっていうのに…。
『真剣に落ち込むって、どういう状況なのよ…』
ん~、聞こえませ~ん。
で?ルドルフ何て言ってたっけ?
あ~、アレで壊した1番デカい奴だっけ?
「ん~。ランスロット先生くらい高さの岩…?」
そうだそうだ、自分で言ってから思い出してきた。
兄さんが去年帰ってきた時は珍しく雪が無くてさ?
眼鏡作ってもらったお礼だとか言って、裏庭のデッカい岩から1片斬りだしたんだよ。
岩がバターみたいにペロンって斬れてさ?
僕が驚いていたら、これが壊せなかったら学園の授業に困るよ~?
とか言って笑ってたんだよなぁ~。
あれ?何で皆ヒいてんの?
「うーん、私くらいの背丈の的を壊すのは3年生になってからですね?しかも習うのは騎士科と魔導科、冒険者学科だけです。恐らく、プロクス君は君に良いところを見せたくて、そんな事を言ったのではありませんか?」
「あっ、ランスロット先生…」
振り返るとランスロット先生が苦笑気味に立っていた。
あれ?もう次の授業?
突然の先生の登場に、周りの生徒達も慌てて自分の席に戻り始めた。
「あぁ、皆さん。まだ2時限目の授業までは少しありますから大丈夫ですよ?それよりも、さっきの授業の時に無理をして魔法が不発に終わった人や、威力が半減した人はいませんか?」
先生の言葉を聞いて、恐る恐る手を挙げた生徒は全部で7人。
手を挙げたのは、全員的を壊せなかった生徒ばっかりだった。
中には魔法が不発に終わったアリスさんも居る。
「やっぱり…。無理やり自分の力以上の魔法を使おうとすると、何倍もの魔力が必要になります。皆さんの中に魔力切れギリギリの人は居ませんか?今魔法薬を煎じてきたので、欲しい人は私の前に並んで下さい」
そう言われて、先生の前に並んだのは5人。
皆一様に顔が青白くなっていて、無理をしていたのが良く分かった。
うわぁ~、何かごめんよぉ…。
「少し苦いですが、我慢して飲んで下さいね?飲めば少しですが、魔力が回復しますから…。それとシエロ君」
「はっ、はい!」
うわぁ、やっぱり煽っちゃったから怒られるかな…。
僕は固く目を瞑りながら、意を決して立ち上がった。
………。
あれ?怒られない?
恐る恐る目を開けると、小さな木のコップを持ったまま、キョトンとした顔の先生が居た。
「あれ?僕、怒られないんですか?」
「寧ろ、何で私から叱られると思ったのでしょうか?違いますよ。シエロ君が、プロクス君に言われたとおりに岩を破壊したのかを聞きたかっただけです」
あっ、何だ…、そっちでしたか。
「兄さんに言われてから、直ぐにはできなかったのですが、半年くらい前から毎日…」
「えっ!?毎日?うわぁ~、シエロ君凄すぎるよ…」
えっ?これって凄いの?
だって、誰もそんな事言わなかったから、皆もやってるもんだと思ってたんだけど…。
僕がそうポツリともらすと、クラスメイト達が青い顔をしながら首を横に振った。
あれ?ルドルフは何を考えこんでるの?
「先生、俺、シエロ程デカい岩じゃねぇけどさ…。兄ちゃんに言われて似た様な訓練してたぜ?」
「あれ?ルドルフもやってたの?」
「おっ、おぅ。でも、俺がやってたのはシエロくらいの大きさの石だぜ?」
大きさが違ったって、仲間がいるというのはこんなにも力強いものなのか!
思わず笑みがこみ上げてくる。
「はぁ~~」
僕が予期せぬ仲間の登場に喜んでいると、大きな大きなため息が聞こえてきた。
ため息の正体は、勿論ランスロット先生。
呆れが止まらないって顔をしている。
何か今日は呆れ顔をよく見る日だな…。
「あの2人は学園を何だと思っているのでしょうか…。ところでシエロ君。私程大きな岩を何処から毎日調達していたんですか?」
え?あぁ、普通そんなに大きな岩がゴロゴロしてる訳ないもんね?
「兄様が斬りだして下さったのと同じ岩から、父様かお祖父様がお暇な時にまとめて斬りだして頂いていました」
あぁ、先生、そんなに遠い目をしないで!?
「だから入学式の時に、あんなに体が仕上がっていたのですか…。納得しました…。フフフ。あぁ、そうそう、ブロンデ君。」
「えっ?はっはい!?」
まさか自分に来ると思っていなかったブロンデは、ビックリし過ぎて10cmくらい浮いてた(笑)
「昨日君からお聞きした、プロクス君達が貴方の村を救った、と言う話し…。学園には何の報告も受けていないんです…。今日の放課後、あの3人も交えて少しお話ししたいんですが、来て頂けますよね?」
先生は何時も通りの優しい笑顔を顔に浮かべてはいるものの、後ろに真っ黒い靄が見えた。
思わず震え上がるA組のよい子達。
名指しされたブロンデは、直立不動のまま、壊れた人形の様に首を縦に振っていた。
「フフフ、ありがとうございます…」
《カララララーン、カララララーン》
「おや?次の授業の鐘が鳴りましたね?2時限目は私ではなく、別の先生にステータスカードの使い方を教えて頂きます。皆さん、良い子に授業を受けて下さいね?」
「「「「「はいっ!ランスロット先生」」」」」
「うん、良いお返事ですね?では、また後でお会いしましょう」
《ガチャ》
「おや?ランスロット先生。」
「あぁ、スクルド先生、出て行くのが遅れて申し訳ありません。皆には説明してありますので、宜しくお願い致します」
「あぁ、それはありがとうございます…。」
「いえ、それでは」
《キィ、バタン》
「それでは、授業を始め…。どうしたんだ?皆、真っ青な顔をして…?」
「「「「「何でもありません。スクルド先生、宜しくお願い致します」」」」」
「お?おぉ…」
僕達1年A組の生徒25名は、ランスロット先生に決して逆らわない事を心に刻み込んだ。
あの3人組の運命や如何に!?(笑)
ここまでお読み頂きありがとうございました。