八十五話目 先生の部屋に招かれた日
僕、ブロンデ、ルドルフ、デイビッド君、スミスさんの5人は今、ランスロット先生の部屋の前に来ています。
《ガチャ、カチッ、キィー…》
「さぁ、どうぞ?少し散らかっていますが、気になさらないで下さいね?」
先生は部屋の鍵を開けながら、僕らを部屋の中へ招き入れてくれた。
「「「「「失礼致しま~す」」」」」
「フフフ、どうぞ~♪」
子供特有のシンクロ率に、何故か嬉しそうな先生を横目に見ながら、僕達は部屋の中へ足を1歩踏み入れる。
うわっ…。
僕がこの部屋の有り様に、最初に抱いた感想はそれだった。
いや、あのね?別に足の踏み場が無いほど散らかってるとか、部屋が恐ろしく汚れてるとかじゃないんだよ?
ただ、ここは何のミュージアム何だ?ってくらい多種多様の品物が、部屋中の棚や、隙間という隙間に所狭しと詰め込まれてるだけだよ?
先生の部屋は2部屋あって、1室は寝室。
もう1室はリビング兼研究施設みたいになっていた。
寝室の中までは流石に見てないから分からないけど、このリビングだけでも軽く20畳はありそうなくらい広いのに、僕らが居られるのはソファーセットが置かれている、6畳くらいの空間だけだった。
チラリと壁際を見る。
うわぁ~!?
デッカいトカゲの生首が緑色の液体の中に浮いてる~~(泣)
どうにかして欲しくて、隣に座っているルドルフの方を見る。
強気なルドルフがちょっと顔を青くして、泣きそうな顔をしていた…。
おう、お前もか…。
あれ?ブロンデは意外と平気そうだな…。
デイビッド君もケロッとしていて、スミスさんに至っては自分から部屋の中をウロウロしながら興味津々で見て回っていた。
うん、やっぱり女の子が1番強いな…(笑)
「散らかっていてすいません。さぁ、お茶くらいでしかお構いも出来ませんが、どうぞ~?」
先生が手ずからテーブルの上にお茶を並べてくれる。
マグカップから立つ湯気に、少し浮ついた気持ちが落ち着いた気がした。
「あっ、いえ。此方こそ突然大人数で押し掛けまして…」
「フフフ、私からお誘いしたんですから、シエロ君が畏まる事はありませんよ?さぁ、良かったら飲んで下さい。私の一族の中でしか飲まれていない、珍しいお茶なんですよ?」
エルフの一族しか飲まないお茶…。
うわぁ、どんなお茶なんだろう、めっちゃ興味ある!
「では、遠慮なく…」
出された白磁のマグカップを手に取り、中身を見る。
お茶は薄い緑色をしていて、香りはとても爽やかだ。
あれ?何か凄い懐かしい匂いがするんですけど…。
《コクッ》
一口すすり、口の中に含み、飲む。
仄かな苦味と、すっきりとした甘味が口の中に広がり、爽やかさと奥深さを感じる…。
っていうか、これ…。
先生が出してくれたのは、緑茶だった。
エルフしか飲まないお茶が緑茶だった、という真実に少し驚愕したけど、それ以上に懐かしさと嬉しさが勝った。
うわ~、僕前世では緑茶ばっかり飲んでたから、凄い嬉しい~♪
同僚には、お前爺さんみたいだな?何て言われるくらいの茶飲みだったのに、こっちには緑茶らしき飲み物が無かったからマジで嬉しい~。
実家で飲まれていたのも紅茶ばっかりだったし、学校の中で買えるのも、水か、紅茶か果実水かって感じみたいだったから、まさかこんな所で再開出来るなんて思ってもいなかったよ!
あ~、落ち着くわ~♪
ホッと一息つきながら周りを見てみると、初めて見る緑色の液体に戸惑っているみたいだった。
あっ!?ルドルフ!僕の後ろは見ない方が良い!!
これとは絶対、別物だからな!?
――――――
さて、美味しい緑茶をご馳走になって、まったりさせて貰ったし、そろそろ本題に入りますか…。
「じゃあ、眼鏡作りを始めたいと思います。デイビッド君、君は大丈夫…「うん、勿論だよ!宜しくお願いします!!」
改めてデイビッド君に問うてみたけれど、やっぱり素早い返事が返ってきた。
これだけ期待をされると、逃げ出したくなってしまうのは僕だけだろうか…?
『シエロ~。はぁ、後ろ向きもここまでくると大したものだわ…』
やだな~ブリーズ、そんなに褒めないでよ。
『褒めてないわよ!?あなたワザと言ってるでしょ!?』
やだ、バレた?
『はぁ、も~良いから、デイビッド君の眼鏡を早く作ってあげなさいよ…』
はぁ~い、ブリーズ母さん(笑)
「じゃあ、始めたいと思いますが、途中何度か少し特殊な魔法を使うので、注意して下さいね?」
デイビッド君と、この部屋にいる他の人達に幾つかの注意事項を告げる。
注意事項何て、仰々しく言ったけど、要は眩しいから気をつけてって事と、呪文が僕のオリジナルだからビックリすんなよ?って話しだよね?
勿論皆からはサクッと了承を貰えたし、そいじゃあ一丁やってみますか。
デイビッド君の場合は気になる事もあるしね?
「じゃあ、行きます…《情報解析:視力検査》」
一瞬、部屋の中でフラッシュを焚いた様な光が迸る。
さっき注意した事もあって、皆大丈夫そうだね?
スミスさん以外は…。
あ~あ…、いわんこっちゃない…、こりゃ完璧にチカチカしてるわ。
あ~、まっ、いっか(笑)
スミスさんの件は後回しにさせてもらうとして、先ずはデイビッド君の方を何とかしないとね?
「デイビッド君の視力は右が0.1、左が0.06か…。やっぱり、少し乱視も入ってるね…。」
んー乱視かぁ…、まだこの世界で作った事が無いタイプの眼鏡レンズだけど、確か非球面の円柱タイプのレンズが有効だったと思うんだよね…。
駄目なら調節していけば良いんだし、とりあえず一度やってみようかな?
「シエロ君、僕の目は見える様になる…?」
おっと、急に黙り込んじゃったから、デイビッド君に不安感を与えてしまったみたいだ。
しまったな…、相手に不安感を与えるとか、1番やったら駄目なやつじゃんか…orz
あっ、取りあえず反省は後回しだよね?
先ずはにっこり笑って状況を説明しなくちゃ。
「ゴメンね?僕すぐ考え込んじゃう悪癖があってさ…。デイビッド君の目は、ちゃんと見える様になるから安心してね?」
「本当!?」
うわぁ~、スッゴい可愛い笑顔が返ってきた…。
なっ、和むな~♪
これは小父さん頑張っちゃうよ!!
「うん、じゃあ次はこれを使って…」
僕は異空間からレンズの元になるガラスの板を取り出した。
今はまだタダのガラスの板だけど、これをこうすると…。
「《土変形:近視・乱視用眼鏡レンズ1.0》」
「おぉ…」
「スゴイッス…」
周りから何かどよめきが聞こえるけど、気にしないぞ~…。
うん、いい感じかも♪
さて、上手く行ってると良いんだけど…。
僕は、さっき食堂で作ったフレームを取り出し、そこにレンズを嵌めた。
指紋がべったり付いちゃったから、綺麗な目の細かい布で優しく拭いてっと…、良し、出来た!
「はい、デイビッド君出来たよ?ちょっと掛けてみて?あっ、掛け方は…」
プロクス兄さんの時もそうだったけど、何故逆さまにするんだ!?
正しい向きで付け直し、ずり落ちないかとか、目とレンズの向きは合っているか等を確認し、微調整を行う。
これで見えてるハズなんだけどな…。
「どうかな?見える?」
あれ?デイビッド君?
目の前で手のひらを左右に振ってみる。
反応は無し…。
あれ?何で?
周りはデイビッド君の反応を固唾を飲みながら伺っていて、僕のキョドり具合を誰も見ていない。
デイビッド君、何か反応プリーズ!!
ランスロットのお部屋訪問+デイビットの眼鏡作りの回でした。
本日もお読み頂きありがとうございました。




