七十八話目 1日の終わりに…な日
まさか、僕の入学式の日に、精霊になる為の力を蓄え終えるだなんて思ってもみなかったけど、君が無事に戻って来る事を祈ってるからね?
「スパーク君は行ってしまったのかい?」
兄さんは空を見上げながら、寂しそうにそう呟いた。
「行っちゃいました。次会う時は、立派な精霊になってるからね?だそうです。でもきっと直ぐですよ!?」
親とはぐれた小さな子供みたいに、あまりにも不安そうな顔をしているから、なるだけその不安感を取り除きたくて、僕は笑いながらそう言った。
これから命を懸けて、精霊に生まれ変わろうとしているスパーク君に失礼な気がしたから…。
「シエロ~♪久し振り。変わり無い?これから一緒の学校だよ~♪宜しくね~?」
辺りがちょっとしんみりした気分に包まれた時、ルーメン姉さんが僕に凄い勢いで体当たりしてきた。
「ゴフッ」
あまりにも急な攻撃だった為、一瞬脳が揺れる。
「あら~?シエロ~?どうしたの?顔色が悪いわよ?」
「ルーがシエロに体当たりしたからだよ…。シエロ大丈夫?」
「うっ、うん。何とか…」
兄さんに返事をしながら、2、3度頭を左右に振る。
あ~、何とか揺れた脳が元に戻った気がする。
あっ、危なかった…。
また死ぬ所だった…。
『本当に大丈夫?まだ目が揺れてるわよ?』
『ちっとジッとしてっせ。急に体さ動かしたら駄目だがんなぃ?』
うん…。
ありがとう、ブリーズ、クレイ…。
『シエロあぶない~』
『ルーメンはかいりょくまんて~ん』
『さっすが~♪』
おぉ…。
何かアクア達を久し振りに見た気がするなぁ…。
いや、違う違う…そうじゃない。
――――――
その後、なんやかんやありまして(笑)
時間が無くなっちゃうからと、両親や祖父母達と少しだけ話しをした。
え?姉さん?その後暫く僕の背中に引っ付いてたよ?
最近、胸が膨らみ始めてちょっと背中に当たる感じが変わって…ゲフンゲフン。
んなこたぁどうでも良いんだよ!?
「シエロ?これから色々な事があると思うけれど、無理せず、しかし根気強く立ち向かって行きなさい。向かって行った分だけ、前に進めるものもあるからね?」
「うむ、スワードの言うとおりじゃ。それと、これは先程壇上でも言うたがの?仲間を大事にする事じゃ。仲間を大事に出来る奴は、何処へ行っても上手くやっていけるじゃろうて。」
なんて、父さんと祖父さんから励ましの言葉を貰ったんだけどさ?
また直ぐ会えるのに、ちょっとだけ悲しくなるのは、何故だろうか…。
前世分も数えたら31歳のおっさんが、こんなにセンチメンタルジャーニーな気持ちになってたら気持ち悪いよなぁ…(笑)
アホな事を考えながら涙をこらえ、その後の会話を思い出す。
「シエロ、そんなに悲しそうな顔しないで?母様達は、いつだって貴方達の事を思っているわ?」
いつも寝るときにしてくれるみたいに、母さんが僕のおでこに1つだけキスを落としてくれた。
そして、いつも首から提げているペンダントを外すと、そのまま僕の首にかけてくれたんだよな…。
首から提げたままになっていたペンダントを摘み、ペンダントトップの宝石?を見る。
そこには大きめの水晶が1つついていて、良く見ると透明な水晶の中に、金色の針みたいな棒状の線がいくつも入っている。
んっと…。
こういうの【ルチル】って言うんだったっけ?
「この石は、私のお母様から頂いた大切なお守りなの。シエロにも貸してあげるから、次にお家に戻って来る時に返して頂戴ね?」
母さんの温かな笑顔を思い出しながら、首から提げたペンダントを見つめてみる。
不思議と悲しい気持ちが薄れていった気がした…。
「シエロ君、その首飾りとっても綺麗だね?不思議な感じもするし…」
二段ベッドの上段から、ブロンデが顔を出した。
頭がひっくり返ってるけど、頭に血が上らないのかね?
「うん、母様からお借りした大事な首飾りなんだ…。お守りなんだって」
「へぇ~、お守りか…」
「うん…」
大事な首飾りを服の中へ忍ばせると、ちょうど心臓の辺りが不思議と暖かくなった。
うん、寂しい気持ちは吹き飛んだ。
明日からも元気に過ごせそうだ♪
「そういえばさ、ブロンデは家族に会えたの?凄い勢いで走ってっちゃったから、びっくりしたんだよ?」
「あ~、ごめんなさい。僕んちここから大分離れてるから、早くしないと馬車の時間になっちゃうから、急いでたんだ」
ブロンデの家は、此処から馬車で5日くらいかかる場所にあるらしい。
今は春だからそのくらいで行けるし、来れるけど、これが冬で雪道だったりすると、10日は軽くかかってしまうんだそうだ。
「僕の村は、山奥だから仕方ないんだけどねぇ~?」
ブロンデの村が山奥にあるって情報を教えてくれてる所悪いんだけどさ…。
「ブロンデ、頭に血が上っちゃうから、一度下りてきたら?」
「あっ、うん。そうする…」
話している間に、案の定顔色の悪くなってきたブロンデに、いつ話しを切り出そう切り出そうとか考えてたら、ちっとも話しが入って来なくなっちゃったんだよね。
上段から下りてきたブロンデを、ベッドの中に座っていた僕の隣に座らせる。
学園に在籍する生徒の中には、体格が良い子供達も多数居る為、細くてチビっちょろい僕らだったら3人くらい寝られそうな程ベッドの面積が広い。
畳で言ったら3~4畳くらいあるかもな…。
「このベッド、広くて快適だよね~?部屋も広いし、ご飯も美味しかったし、家に居る時より快適かもだよ」
「まぁね?でもその分授業は厳しいよ?この学校、留年は無いけど自主退学は認めてるから気を付けてね?」
声の方を向くと、意地悪そうな笑顔を浮かべたマルクル先輩。
先輩、あんまり驚かさないで下さいよ…。
貴方に憧れてる後輩が、僕の隣でチビりそうな顔して怯えてるじゃないッスか…。
って言うかブロンデ、本当に漏らすなよ?
此処、僕のベッド何だからな?
んでもってマルクル先輩も、いい加減その氷の微笑を解除して下さいって!!
こいつ、マジでチビりますよ!?
学園最初の夜は、こんな風にワイワイガタガタ(・・・・)と過ぎていった。
因みにブロンデの矜持は守られたよ?




