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六十八話目 明くる日



 双子だと伝えられていた女神様は、実は三つ子で…。


 中間子のブロナーは、自分に関する全ての事を、自分の愛する世界から消去し、【悪の波動】と呼ばれる邪心の影の残骸に接触する者を絶とうと、頑張っている事を知った。



 ゆっくりと目蓋を持ち上げる。


 辺りはまだ薄暗いが、自分の部屋だと言う事は確認出来た。


 開けた目蓋を再度閉じ、考える…。


 あれは、僕が作り出した都合の良い夢だったのだろうか…?


 いや、ブロナーに返してもらった前世の記憶もしっかり持っているし、夢オチ、と言う事はないと思いたい。




 前世の僕、【木戸宙太】は、交通事故で死んだ。


 相手は、僕を女性と間違えて、何度も何度もしつこく僕をナンパしてきた男。


 しかも、そいつは女神達の言うところの、邪心の影の残骸、【悪の波動】を取り込んでしまったが故に暴走し、僕をひき殺したのだと言う。



 【悪の波動に侵された男】と言う、特殊な人族に殺されてしまった僕の魂は、傷つき果ててボロボロになっていた。


 そんな状態では輪廻の輪に戻る事も叶わず、ただ、其処で朽ち果てる運命にあった僕を、救ってくれたのが彼女達、三つ子の女神達だった。



 ゆっくりとベッドから、体を起こす。


 まだ起床時間には早かったけれど、目が覚めてしまった。


 カーテンを開け、窓の外を見る。


 昨日は晴れていたけれど、今日は厚い雲に覆われていて、そこから絶えず雪が降りてきていた。


 こりゃあ積もるな…。



 カーテンを閉め直し、ベッドへ腰掛ける。


 赤ん坊の頃使っていた愛用のベッドは妹へと移り、その妹も先日卒業して、今は大事に倉庫へ仕舞われている。



「ふうっ」


 1つ溜め息をつく…。



 彼女達が、何故僕を助けてくれたのかは分からない。


 前にも聞いたけど、答えてはくれる事はなかった。



 あの日、事故に遭った僕は、直ぐには死ねなかった。



 痛さと熱さと寒さに襲われ、苦しんでいた僕に向けられたのは【好奇】の視線。


 側に寄って来てくれる人もおらず、周りから聞こえてくるのは、シャッター音や集まってきた人々の話し声だけ。


 誰1人、救急車を呼んでくれる様子もなかった…。


 漸く僕の耳にサイレンの音が届いた頃には、何も感じなくなっていて、救急車に乗れたのかすら覚えていない。



 あの時、僕は【絶望】を感じていたと思う。


 訳も分からないまま死んでしまっていたのなら、そんな事も感じなかっただろうけど、僕はその時間があったから…。


 今思えば、あれも【悪の波動】とやらの余波だったのかもしれない。


 だって、あんなに何度もひかれたのに、僕は生きていたんだから。


 きっとああやって【絶望】の種を増やしてバラまいて行くんだろうな…。



 ふと考える…。


 影は、本体を探しているのだろうか。


 一所(ひとところ)に留まらず、地球の、それも日本にまで出没していくらいだから、本体が何処にいるのかも分からないままなのかもしれない。


 それか、本体がいなくなっている事も気づかないまま、宛ての無い旅を続けているだけなのかもしれない。



 【影】が何の目的でさ迷っているのかなんて、僕には分からない。


 けれど、僕もブロナーの劣化版とは言え、見える目を持っているんだから、どうにかして僕の周りの人達だけでも守りたい…。


 せめて、手の届く範囲の者達だけでいいから…。



『あら?シエロおはよう。今日はまた、随分と早いのね?』


「おはよう、ブリーズ。皆とのおしゃべりは終わったの?」



 昨夜、ブリーズ達妖精は、久しぶりにあった仲間と一晩中話し倒してくる!!と意気込んで、家の外へ出て行っていた。


 たぶん、前にクレイが住んでいた森の辺りで集まっていたのだろう。


 なんせ、家の中には妖精達が苦手とする、お祖母様が居るんだからね。



 今この部屋に戻って来たのはブリーズだけだけど、顔に楽しかったって書いてあるから、皆と集まって話せたのが、よっぽど楽しかったみたいだね?



『うん、楽しかったわよ♪プロクス君やルーメンちゃんの学校での話しとか…。シエロ?何かあった?』



 やっぱり、いつも一緒に居るブリーズにはお見通しみたいだ…。


「うん、女神達に会ってきたんだ…。」



『!!?……うん』


 一瞬驚いた顔をしたブリーズだったけど、すぐに何事もない様な顔をして、先を促してくれる。


 何から伝えたら良いのか分からず、俯きながら話しを続ける…。



「今までの記憶も、全部返してもらって来たよ…」


『うん…』


「今まであった色んな事、忘れててごめんね?」


『うん…、うん…』



 ブリーズの声が震えている…。


 俯いていた顔を上げる。


 目の前には、顔をクシャクシャにしながら泣いているブリーズの顔があった…。


「ブリーズ、大切な君達との思い出を、忘れててごめん。それなのに、ずっと側に居てくれてありがとう」



 自然と感謝の言葉が洩れる。

 ブリーズ達に、どうやって謝ろうとか考えていた自分が馬鹿らしく思える。


『ジエロ゛~』


 とうとう声をあげて、泣き出してしまったブリーズを優しく抱き締める。



 こんな時、掛ける言葉が見つからなくて、自分が情けなくなる。



 僕は、胸の中で泣き続ける女の子の背中をさすりながら、ただただ無力感に苛まれていた…。





これにて洗礼式編はお終いです。


次話からいよいよ学園編となります。


キーワード詐欺になっていたのがやっと解消されます(笑)


これからも長々まったりと物語は続いて行きます。


生まれ変わっても~を宜しくお願い致します。



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