表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/281

六十六話目 悪の波動と女神の関係を聞いた日



 僕は、無事に記憶を取り戻す事が出来ました。


 此処から戻ったら、ブリーズ達にも謝らないとなぁ…。


 っと、今は女神達からの話しを聞くとしよう。



「じゃあ…まずは、悪の波動、について…、話す…」



――――――



 邪神、と呼ばれるモノがいた…。


 【神】と名は付くものの、ソレには意識も無く、意志も無い。

 ただ、そこに漂うだけの存在。



 仮に、【彼】と呼ぶ事にする。


 その彼が、通った後に残るのは、雑草1本すら生えぬ、滅ぼし尽くされた町や、国だけ…。


 何も持たない彼は、何も持てぬ世界を生み出しながら世界中を漂い歩く…。


 その横業が目に余るようになり、幾つかの世界の神達の手によって、彼はその存在を封じられる事となった。



 彼の封印により、世界は平和を取り戻したかと思われたが、彼の影までは封じる事が叶わなかった…。


 元々意志も意志も持たない彼の影は、更に存在を希薄にさせたまま、世界を漂い続ける。


 影が通った後、其処に残された痕跡が、後に【悪の波動】と呼ばれる様になった。



 運悪く悪の波動に飲み込まれた者は、その人格を破壊され、自己の持つ闇の感情が膨れ上がる。


 例え、それが清く、正しき心の持ち主だったとしても…。



――――――



「じゃあ、兎の魔王も?」


「そうだ。影の残したモノに接触したのだろう。ある日を境に魔王として目覚め、勇者にその存在を滅ぼされるまで、世界を恐怖に陥れ続けたのだ」



 【絶望】のくだりは?


「接触する前日に、彼の愛する彼女が、落盤事故で亡くなってるの…。それで、少し放心状態だったところに…、ね?」



 そっか…。


 前日まで優しかった人が、ある日文字通りに、人が変わってしまう…。


 まして、放心状態の彼が次の日には別人になってしまったと知った時の、周囲の人達の心にも、【絶望】の二文字が浮かんでしまったのではないだろうか…。



 あれ?じゃあさ、良く前世のニュースとかで聞く、突発的な通り魔とか、猟奇殺人犯の中にとかって…。


「いないと、は断言出来な、い。前にシエロ君、の居た世界にも現れたと、報告が来た事、がある」



 マジか…。


 あれ?【悪の波動】が、僕にも関係がある話しだって言ってたよね?


 心当たりないんだけど…?


 もしかして、自分じゃ気付いてないけど、僕も悪の波動に侵されてるとか?


「ちが、う…。シエロ君の場合は、宙太君だっ、た頃の話し…」



「僕が宙太だった頃?んー、新手の宗教団体に、そんなの信仰してるのが居たとか?」


「ち、がう。シエロ君を殺した犯人、が波動に侵され、た人間だった」



 え?


 あのチャラいのが?


 え?じゃあ、ただの逆恨みじゃなかったって事?



「そう。あれは、ただの逆恨みじゃない。シエロ君にフられた後、一緒に居た、仲間と昼、間から酒を呑んだ帰り、に邪神の残骸とぶつかった…」



「ちょうど影の残骸は、彼の車をすっぽりと覆っていたの。彼は一応、代行業者も呼んでいたわ?呑んだ後、運転する気はなかったのよ」


 ただ、呑んでる途中で、忘れ物に気が付き、車に戻った所で、その悪の波動とやらに侵されて、ナンパした相手が男だった事に凹んでたあいつの心のモヤモヤを、増幅させたんだそうだ。


 そうか…。


 あの目は、やっぱり正気の目じゃなかったんだ…。


 ハネ飛ばされる瞬間に見たあいつの目は、血走っていてギラギラしていた。


 あの目だけが、脳裏に焼き付いて離れない――。



「後は、何が聞きたい?」


 ブロナーの言葉に、ハッと現実に引き戻される。


「一応、ここは君の夢の中だ。現実とは、少し違うな?」



 そういう事じゃないから!?


 シルビアーナのツッコミは、いつも何処かズレてるよな…。


 ってか此処、僕の夢の中だったのか…。


「正確に言うならば、君の見ている夢と、この場を繋げていると言った方が正しいだろう…。」


「今は、その話しはどう、でもいい…。シエロ君、他に質問は?」



 あぁ…。

 そうだな…。


 何か聞きたいこと…。



「あっ、そうだ!教会の神父の事なんだけど…」


「私がどうか致しましたか?シエロ様?」



 僕の心を呼んだようなあの態度、僕を見ていた時のあの目つき…。

 何か怪しいあの神父の正体を聞こうとした、その時。


 僕の背後から、質問の答えが声を掛けてきた…。



 ゆっくりと、振り返る。


「今晩は、シエロ・コルト様。昼間振りで御座いますねぇ?」


 肩口まで伸ばされた、灰色がかった薄い紫色の髪の毛。


 常に笑顔をたたえ、細められた緑色の瞳で此方を見ている五十代中~後半の男性…。



 僕の後ろに、クラレンス神父が立っていた。


 えっ?


 何で此処に、クラレンス神父が居るんだよ…。



「ん?おぉ、リュミエールではないか。今は何と名乗っていたのだったか?」


「今は、クラレンスと名乗っております。シルビアーナ様」



 えっ?シルビアーナ?


 クラレンス神父とお知り合いで?


 突然現れたクラレンス神父に、一瞬驚きはしたけれど、直ぐに親しげに話し始めたシルビアーナに驚きを隠せない。



「私は、シルビアーナ様の子供で御座います故」


 クラレンス神父は、シルビアーナに向けて、恭しく一礼をしながら凄い事を言った。


「まぁ、大きく言えば、この世界の全ての生物の母とも言えるが…?」


「うん、姉さん。ちょっとだけ黙ってて?」


「む?」



 スカーレット、ありがとう。


 君が言わなければ、僕がツッコンでたよ…。


「あのね?シエロ君。リュミエールちゃんは光の精霊ちゃんなのよ」



 はい?


 クラレンス神父が精霊?

 しかも光の?


「左様に御座います。私は光の精霊リュミエールと申します。人族の中に溶け込む為、この様な姿をしておりますが、こう見えまして、かれこれ500年程生きております」



 500年!?


 500年って500年?

 500年前って日本だと戦国時代だよ?


 江戸時代にすらなってないよ!?


「せんごく…と言うものが良く分かりませんが、貴方様の御爺様よりは長い事生きておりますねぇ」


 あっ、やっぱり神父様も心が読めるんですね?



「心と言いますよりは、その方の思考を読んでおります。その辺りは、妖精と同じで御座いますね。まぁ、長く生きておりますし、そこいらの妖精よりは術に長けてもおりますが…ね?」


 クラレンス神父の像が揺らぐ、その下から、髪の色は同じながら、少年に近い青年、と言った顔が覗いていた。


 ニヤリと笑った青年の顔は直ぐにボヤケ、また神父様の顔に戻る。


 はぁ~、本当にこの人精霊様なんだ…。


 教会で話し掛けられた時は、胡散臭いし、怪しさ百点満点だし、どうやって正体を見破ってやろうかと思ってたんだけど…。


 まさか、こんな所であっさりと分かる何てね?



「胡散臭い、ですか…。心優しい神父を演じているつもりだったのですが…」


「シエロ君に本質を見抜かれただけじゃないの?」



 スカーレットにバッサリ切られ、若干凹んでいる様子のクラレンス神父。


 容赦ねーなぁ…。



「あっ、そうだ。ブロナー?姿を隠してまで探してた魔王何だけどさ?見つかったの?」


「見つかったと、言うより、ずっと監視してた。あいつは、有望そうな者達を、わざと影の残した、残骸に入らせて、強力な仲間を、生み出していた。」



 えっ?


 そんな事したら、ヤバい魔王だらけになっちゃうんじゃないの?


「大丈、夫。2度目までは許したけど、それ、以降は先回り、して、影の残骸を消してた…。だから、平気」


 そっ、そっか。

 じゃあ最低限で抑えられてるのなら、ちょっとは安心かな?


「うん。1度目は小さなリスで試していたし、2度目も用心して自分の飼っていた猟犬で試してたから、其処まで危険は無かった」


「そんな事をしていたのか…。言えば私達も手伝ったものを。あの魔王が生まれたのは、お前のせいではないだろうに」



 いや、猟犬も充分危ない様な気がするんだけど…。


 何て考えていたら、シルビアーナがブロナーを問い質していた。


 魔王が生まれるのは、邪神の影が残した悪の波動と、深い絶望感が必要なんだったよな?


 確かに、ブロナーが自分を責める理由にはならない…。



「ある。彼は、私の元、妖精。生まれた時から、ダブル持ちの変異型で、悩んでは、いたけど、私の可愛い子、供には違いない」




「えっ…?今の魔王は元妖精だったの?」



 衝撃の事実を知ってしまった…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ