六十二話目 誕生パーティーと…の日
何だかんだで洗礼式は終わり、家に帰ってきた。
今は夕方、僕の誕生パーティーをいつもの食堂で開いてもらっている。
貴族の家の食堂何て聞くと、日本人なら良くテレビで見るような端から端まで何メートルあるの?
って感じの、なっがいテーブルで豪華なコース料理でも食べてると思いがちだけど、家の場合は10人くらいなら余裕で座れるくらいの長方形のテーブルに座って、スープとお皿に盛られた料理をそれぞれが食べてる。
流石にパンは白パンだったけど、一般人もこれっていうのは分からない。
あっ、テーブルには向かい合わせに4人ずつで座ってるよ?
えっ?僕の向かい側?
閻魔大王だけど何か?
祖父さんね~、皆と乾杯してからず~っと、酒を煽ってる。
顔も酔っ払ってて真っ赤だし、本物の閻魔大王にしか見えない。
そんでさ…、その酒も凄い強そうな酒なんだけど、祖父さんはまるで水でも飲むかの様に、カンカン呑んでいってる。
うっ…、酒の匂いを嗅いでるだけで肝臓とかやりそうな気がする。
やっぱり顔が鬼っぽいと、酒に強くなるのか…?
あっ、お祖母さんに杯を取り上げられた。
「貴方!いくら目出度い席だと言っても、飲み過ぎです!!キチンとお食事もとって下さいまし!」
「堅いこと言うでない、エリザベート…。シエロの祝いの席なのじゃし、良いじゃろ~?」
うん、いつみても小柄で華奢なお祖母さんに、筋骨隆々で、背も高く、ガチムチッな祖父さんが怒られてる絵面は、違和感しかない(笑)
あっ、牛若丸と武蔵坊弁慶の戦いにも見えるかもしれないな。
まぁ、手ぶらの弁慶に対して、牛若丸はロケットランチャーを装備してるくらいの戦力差だけど…、心象的に。
………。
祖父さん、がっ、頑張れ~(汗)
「シエロ、ちゃんと食べてる?ほら、僕のも食べるかい?このお芋、美味しいよ?」
いや、お兄さん、祖父さんを放っておいていいんですかい?
芋が美味いって言ってる場合じゃないでしょ!?
いや、確かにこの芋の煮っ転がしみたいなのは美味しいけどさ…。
だったら、そっちのパリッと焼いてあるソーセージの方が…。
はっ!
違う違う、僕は祖父さんが心配なんだよ!!
あっ…。
いつの間にか祖父さんは、白目で床に倒れていた。
腰に手をあてて、仁王立ちしているお祖母さんの背後に、リングが見えた気がした…。
《カン、カン、カーン》
ゴングが3回鳴りました!!
アーサー祖父さん、K.O!
エリザベートお祖母さんの防衛成功ー!!
その後、祖父さんはジュリアさんとピーナに担がれて、食堂を後にしていった。
うん。
取りあえず、祖父さんのソーセージは僕が貰っておこう(笑)
――――――
クレイ、ブリーズの様子はどう?
『もう大丈夫だ。さすけねぇよ?酒に酔ったみてぇに、二日酔いにはなんねぇから、安心しっせ』
体の中から、返事が返ってくる。
誕生パーティーがお開きになり、今は就寝時間になったばかりの時間。
あれから起きてこないブリーズが心配になって、クレイに話しかけてみたところ。
ブリーズは僕が教会で洗礼式をやっている最中に、噴き出した魔力の余波を受けて、酷い魔力酔いを起こしてしまった。
彼女を体の中に寝かせたものの、ブリーズだけにしておくのは心配だったので、クレイに見ていてもらっていたんだ。
酒酔いと、魔力酔いは違うんだ…。
あっ、じゃあさ、目が覚めた時に、目眩がするとか、気分が優れないとかはないの?
『そんだなぁ、起きた時には後遺症も無く元通りだから、シエロは気にしねって大丈夫だよぉ?だから、ほら、安心して寝っせ?今日は色々あってくたびっちゃべ?』
うん、ありがとう。
確かに今日は色々あって疲れたよ…。
クレイも疲れてるのは同じなのに、君にばっかり面倒かけてごめんね?
『なんもなんも、気にしねぇでくろ。ほら、早くお休み?』
うん、お休みなさい。
クレイもゆっくり休んでね…?
『ありがとなし、良い夢見んだよ?』
――――――
気がつくと、真っ白い空間に立っていた。
足元には濃い靄がかかり、床や地面は見えない。
周囲には、太くて立派な柱が立ち、それがあたかも道であるかの様に続いていた。
柱の道の先には小さな丘があり、そこに神殿が建っているのが見える…。
いきなり真っ白な空間に放り出されて、行く宛もないので、取りあえず神殿に向かってみるか。
――――――
近くに見えていたはずの神殿が、やけに遠く感じる。
いやいや、可笑しいだろ!さっきと距離感変わってないじゃん!?
体感で一時間くらいは歩いたぞ?
「ん?そなたは木戸宙太か?いや、今の名はシエロ・コルトだったな…」
「うにゃあ!?」
背後から聞こえた声に驚き、変な声が出た。
さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに…。
あれ?
あんまり驚いたんで、一瞬流したけど、今懐かしい名前が聞こえた様な?
「急に大きな声を出すな!驚いてしまったではないか!!」
「あっ、すいません。あの~、此処は一体何処でしょうか?後、今僕の事を宙太って呼びました?」
改めて、目の前の人物に向き直る。
目の前の人物は、一見軍人さんかな?と見間違う様な格好をしていた。
所謂、軍服…。
いや、軍服に似てるけどちょっと違うか。
彼女は、カッチリした印象を与える黒いジャケットに、細身の黒いパンツを穿いていた。
黒地のジャケットには、金と銀の刺繍糸で、襟、袖刳り、ジャケットの裾を縁取りしてあり、シンプルながら、豪華なデザインになっている。
これで胸のところに勲章が付いてたら、間違いなく将校レベルの軍人に見えるかも…。
顔も、笑えば可愛いのに系の美人さんで、光の加減で緑色に見える銀髪を右の前髪だけを残して三つ編みにして、背中に垂らしていた。
瞳の色はガーネットの様に鮮やかな朱…。
あれ?この目の色って…。
「此処は女神の庭。君が此処へ来るのは二度目だな?いや、今は忘れてしまっているのだったな?私の名はシルビアーナ。そなたを歓迎しよう」
女神様の庭?
しかもシルビアーナってステータスカードに書いてあった女神様のお名前だよな?
えっ?ご本人登場?
うわ~ん、話しが急過ぎて追いつけないよぉ!?