閑話 眼鏡
11月11日の更新です。
ポッキー食べなくちゃですね?(笑)
今日は閑話と言う事で、あの方の悩みが解決致します。
本日も宜しくお願い致します。
こんにちは、どうもご無沙汰しております。
プロクス・コルトと申します。
今年の7の月で、10歳になりました。
僕は今、主都はモーネにあります、聖ホルド学園という学校に通っています。
全寮制の為、中々シュトアネールに住んでいる家族には会えませんが、学園で出来た友人達と、互いに励まし合いながら勉学に勤しんでおります。
でも、もうすぐ家族に会えるんです。
今学園は、年に一度の長期休暇期間で、12の月の20日から2の月の20日までの2ヶ月間、お休みになるんです。
しかも、帰宅時と登校時の時だけは、学園の転移装置を使っても良い事になっているんです。 遠方から通ってくる生徒の為の措置ではあるのですが、殆どの生徒が転移装置のお世話になっています。
かく言う僕も、お世話になる生徒の1人なのですが…。
「プロクス、何か嬉しそうだなぁ?家に帰ると、何か良いことでもあるのか?」
転移装置の列に並んでいた僕に、ガラ悪く話しかけてくるこいつは、同じクラスのエルドレッドです。
この通り、髪の毛をツンツンに立たせれば格好いいと思っているおつむの弱い奴ですが、一年生の時からの大事な友人です。
「エルドレッドは家に帰るの楽しみじゃないのか?恋人に会うとか?」
「家に帰りゃ~、こき使われるんだ。学校のが楽なくらいだぜ。恋人何かいねぇしよ…。あっ!お前、まさか…」
何を勘違いしたのか、エルドレッドは裏切り者~!と叫びながら崩れ落ちてしまいました。
えーっと…。
「あ~、エルの事はほっといていいよ?それより早く転移装置で帰らないとね?弟に会うの楽しみにしてたでしょ?」
どうしたものかと思っていると、もう1人の友人のマルクルが助け舟を出してくれました。
柔和な性格の彼は、いつも僕達のまとめ役をしてくれます。
「助かるよ。もうすぐ僕の番だったんだ。お礼は帰ってからと言う事で。ごめんね?ありがとう」
「お土産、期待してるから~」
何ともちゃっかりしている友人に助けられた僕は、一路、転移装置のゲート迄向かいました。
――――――
あぁ、久しぶりに嗅ぐ故郷の空気は最高ですね?
学園の転移装置のゲートは、このシュトアネールの町の、役場前に繋がっています。
ここからは徒歩となりますが、僕の家は歩いてもさほど掛からない距離にあります。
何て考えている間に到着するほどの距離しかありませんっと。
「ただいま戻りました~」
屋敷の扉を開けると、中から温かな風が流れ出てきました。
まだ雪は積もっていなかったとは言え、身を刺すような冷たい風が吹いている事には代わりありません。
部屋の温かさについ、ホッと息が洩れてしまいます。
「お帰りなさい、プロクス。また背が伸びたんじゃない?」
「お母様、ただいま戻りました。身長は、4の月に測ったきりですので、分かりませんね?」
屋敷の扉を潜り、お母様の顔を見た途端に安心してしまうのだから、僕はまだまだですね?
「あれ?ルーメンはまだですか?向こうでは会わなかったのですが…」
いつもなら、僕よりも少し早く帰宅するルーメンが、シエロの手を引きながら現れるはずなのですが、今日はルーメンの気配を感じません。
「ルーメンねえさまは、じーじの所ですよ?」
お母様の声とも違う、鈴を転がした様な可愛らしい声のした方に顔を動かすと、前回会った時よりも髪の毛も身長も伸びた、可愛い僕の弟が立っていました。
肩口まで伸びた髪の毛が、キラキラと光を反射して綺麗だなぁ。
「シエロ、ただいま。ルーメンはお祖父様の家に行ってるって?」
「そう。じーじとばーばをつれてくるって言ってました」
そうか、もうすぐシエロの誕生日。
シエロも今度の誕生日で5歳、洗礼式の日を迎えます。
うちは、洗礼式の日は家族皆で、と決まっているので、ルーメンはお祖父様達と一緒に戻ってくる気なのかもしれません。
「兄さま、にもつをおいたらぼくのへやに来てくださいませんか?」
おや?シエロがこんな事を言うなんて珍しい。
そんなお誘いを受けずとも、いつもシエロの部屋に入り浸っているのに…。
「何かあるのかい?」
「ナイショ~」
「あらあら、内緒のお誘いね?」
内緒、とだけ言い残して、シエロは走り去ってしまいました。
ふむ、内緒か…。
何か企んでいるのは間違い無い様ですね。
あの顔を見れば、誰でも分かる事でしょう。
しかし、悪巧みをしているシエロも可愛いなぁ…。
早速荷物を置いて、シエロの部屋に向かう事にしました。
――――――
「シエロ、それで何を見せてくれるんだい?」
僕は今、シエロの前に靴を脱いで座っています。
土足厳禁のシエロの部屋に敷いてある、緑色で毛足が長い絨毯は、相変わらず気持ちの良い肌触りをしていました。
これを知ってしまっているからか、僕も家に帰ると靴を脱いで、此処に入り浸ってしまうのかもしれません。
「動かないでね?」
「勿論」
シエロが動かないでと言うなら、隕石が落ちてきても動かない自信があります。
おや?シエロは何か魔法を使う気なのでしょうか?
シエロの身体から、練り込まれた魔力を感じます。
一体どんな魔法を――。
「《情報解析:視力検査》」
聞いたこともない様な呪文がシエロの口から発せられ、僕の目の辺りで白い光が弾けました。
余りに急な出来事に、目がチカチカして見えない目が更に見えなくなりました。
シエロの事は信じていますが、僕の目に何をしたのでしょうか…。
「ふむ、右が0.3で、左が0.4か…。これくらいならだいじょうぶだね。」
いつもの口調とは違う、大人の様な口調でそう言ったシエロは、金属で出来ているらしき変な形の物を袋から取り出しました。
次に、透明な石を取り出して…、あれはガラス?
「《土変形:近視用眼鏡レンズ1.0》」
また奇妙な呪文を唱えるシエロ、すると、分厚いガラス板が薄いガラス板に整形されました。
「これをはめてっと…、出来た!はい、兄さま、あげる!!」
やっと目のチカチカが治った、と思っているとシエロが先程の不思議な物体を僕に渡してきました。
「このまま顔にかけてみて?ちょうせつするから」
ガラスが嵌まった不思議な物体を顔にかける?
どうして良いのか分からず、困惑していると、シエロが顔に付けてくれました。
これで一体何が変わるのか…。
「えっ!?シエロの顔がハッキリと見える…?」
余りにハッキリとシエロの顔が見えるので、慌てて自分の周囲を見渡してみる。
シエロのお気に入りの絵本が沢山詰まった本棚の、本の題名までハッキリと読み取る事が出来ました。
「シエロ…?これは、一体…?」
「ちょっと待ってね?《情報解析:視力検査》」
狼狽えているところに、またさっき掛けられたら魔法が炸裂しました。
あっ、マズイ。
これは暫く目が見えないぞ…。
「うん、だいじょうぶそうだね…。あっ、兄さまごめんなさい《治癒》」
チカチカを通り越して、真っ白になった視界が、一瞬にし元に戻りました。
元に戻ったと言っても、いつもの様に、目を凝らさなければ見えないと言うこともなく…。
「シエロ、いつの間に魔法が使えるようになったんだい?そして、この不思議な物は何?」
そこまでまくし立ててしまってから、気がつきました。
6歳も年下の弟に詰め寄ってしまった…と言う事に。
「シエロ、ごめん」
「何が?うんとね?魔法はようせいさんに教えてもらったの。後ね?それは【めがね】って言うの」
そうか、シエロは妖精の姿を見、声を聞く事が出来るのでした。
妖精に教えてもらった、と言うのなら聞いたこともない呪文を知っていても不思議ではありません。
「妖精さんに…、なるほど、分かった。それで、この【めがね】って言うのは?」
「兄さまの目を見える様に、ほじょをしてくれるどうぐだよ?あっ、最初は見えすぎてつかれちゃうから、なれるまで休み休みつかってね?」
目の補助をしてくれる道具?
ベアード医師ですら、匙を投げてしまった僕の目を…、道具を使っているとはいえ、あっさりと治してしまったシエロ。
嬉しさと、驚きと、感謝の気持ちがないまぜになって、津波の様に押し寄せて来ました。
せっかくハッキリとシエロの顔が見える様になったのに、ぼやけてしまいました。
「シエロ、シエロ…。あっ、ありがとう…。」
「兄さまなかないで?」
いつかの様に、優しく慰めてくれるシエロに、僕は涙が止まりませんでした。
――――――
「あれ?プロクス、顔に何つけてんだ?」
「仮面か何かかい?」
学園に戻った僕に、友人達は挨拶もなく問うてきます。
不思議な物を見る様な目で僕を見る友人達に、僕は説明してあげるのでした。
「やぁ、エルドレッド、マルクル、これわね?―――」