五十三話目 洗礼式の日
良いところのお坊ちゃんスタイルに着替えて、バッチリおめかしをした僕です。
この間、庭へ行った時とは比べ物にならないほどの良い生地の白いシャツに、ストライプ柄の半ズボンと、同じ柄の蝶ネクタイ。
大分伸びてきた髪の毛をぴっちり撫でつけられたその様を、周りの大人達に笑われています。
そりゃあ、微笑ましいわ~♪っていう笑いならさ?まだ我慢出来るんだけど…。
皆爆笑じゃん!!
そりゃあ不機嫌にもなるよ!?
ほらっ!僕の事なんか良いんだよ!!
早く教会行くよ!
『うぷぷっ』
『駄目よ、笑ったら可哀想…ぷふっ』
『シエロ君はめんこいなや~?』
お前らもか!!
泣くぞ、ちくしょー!!!
――――――
今僕の目の前には、高さ20m、横15m、奥行き100m程の、白を基調とした石造りの建物が建っている。
建物は2階建てで、2階部分には丸い窓がいくつも填められていた。
あっ、いや、手前は1階部分しかないか…。
手前は礼拝堂みたいになっていて、奥に居住スペースがあるようだ。
何で高さとか、奥行きの数値が分かるんだ?って言われると困るんだけどさ、何でか頭の中に数値が浮かび上がってきたんだよね…。
【空間】属性の効果かね?
「さぁ、ルーメンちゃん、着きましたよ~?お母様、ドキドキしてきちゃった」
「うん、ドキドキするね~♪」
僕も、初めての馬車でドキドキしちゃった☆
驚くくらい、めっちゃ揺れたんだよ…。
よく皆平気な顔して乗ってられるなって、感心しちゃったよね?
「では、中に入りましょうか。教会の前にいつまでも立っていたんじゃ、ご迷惑ですからね?」
「はいっ、おばあさま!」
「えぇ、行きましょう。さっ、ルーメンも行くよ?」
「はい、おとうさま」
おっ!?いよいよ中に入るみたいだよ?
皆、心の準備は大丈夫?
『分かんないわよ~』
『何とかなんべ~』
『僕は2回目だから、大丈夫かな?』
…、あれ?アクア達は?
やけにさっきから静かだね?
『ルーメンちゃんが走り回ってるから、体の中で目を回しちゃったのかしら?』
『有り得るかもしんにーなぃ』
「シエロ~、きょうかいだよ~?あそこのおっきなまど、きれいだよね~?」
えっ?ルーメンお姉さん、窓って何処の窓?
あぁ、教会の扉の上部に取り付けられた丸い窓の事かな?
あれってさ?いわゆるステンドグラスってやつだよね?
丸い形のステンドグラスには、色とりどりの花に囲まれた2人の少女の姿が、色彩鮮やかに描かれていた。
「あのまどのところにいるのがめがみさまだよ?シエロ、見える~?」
うん、よく見えるよ?
プロクスお兄さんが良く読んでくれる絵本の挿し絵とそっくりだね?
「ごめんくださいませ」
そうこうしている内に、教会の中へ入っていた様で、お祖母さんが人を呼んでいた。
ねぇ、ブリーズさん、クレイさん。
今通ってきたところにあった、カーテンみたいなのって何かな?
何か、触った感じが全然しなかったんだけど…。
『カーテン?そんなのあったかしら?』
『私も気づかねかったけんじょ?』
あれ?可笑しいな?
見間違いかなぁ?
「ようこそおいで下さいました。礼拝ですか?洗礼ですか?」
あっ、生シスターだ!!
僕、初めて見た!
『カーテンはもう良いの?…、駄目だわ、聞こえてないわね…』
うわ~、本当に修道服着てる!
くすんだ灰色のワンピースに、同じ色のベールを被ってる!
本物だ~♪
僕さぁ、ハロウィンの時に街中で、シスターゾンビなら見た事あったけど、本物に会うのは初めてだから嬉しいかもしれない。
いや~、ウサ耳メイド以来の衝撃だな(笑)
「お早うございます。今日は娘の洗礼をお願いしに参りました」
「ルーメン・コルトお嬢様の洗礼の儀でございますね?お待ち申しておりました」
あっ!シスター増えた!!
今度のシスターは、始めに対応してくれた人よりも年配のシスターみたい。
貫禄が違うね☆
「シスターララ、後は私がご案内致します。貴方は孤児院の方をお願いね?」
「はい、シスターアメリア。では皆様、失礼致します」
ララさんは、お父さん達に深々とお辞儀をすると、教会の奥へと走り去って行った。
「あっ、シスターララ!礼拝堂の中を走るんじゃありません!!申し訳ありません、元気な子なのですが、礼儀が追いつかず…」
「若い子は、あれくらい元気な方が良い。此処にいる者は、誰も気にせんよ」
「ありがとうございます。では、先ずは待合室まで、ご案内させて頂きます。」
えっ?待合室?
洗礼式を行う場所じゃないの?




