四十五話目 取扱い注意な日
その日、コルト辺境伯家のお屋敷から閃光が迸る光景を、彼の屋敷の御庭番達は後にこう証言している。
《天の遣いが光臨されたのかと思った》と…。
――――――
あれ?
さっき起きたばかりなのに、何故か僕はベビーベッドの中に寝かされていた。
んー、前にもこんな事があった様な…?
「あっ、しっ、シエロ!目がさめたの?よかった~」
えっ?
どうしたの?プロクスお兄さん?
何かあったの?
僕が起きたのがそんなに可笑しな事だったのか、プロクスお兄さんは、僕が起きたのを確認すると、部屋から飛び出して行ってしまった。
いつもならきっちり扉を閉めて行くのに、余程急いでいたのか、閉めた時の反動で完全に開いてしまっている。
そんなに慌てなくても?
えっ?
何?
『何も覚えてないの?』
あっ、ブリーズさん。
おはよ~。
『さっきもやったから、そのくだりはいいわよ。で?何も覚えてないの?』
んー、むしろ何を覚えてたら正解?
確か、僕の祖父母だって言う人達に会ったのは覚えてるんだけど…。
『はぁ、やっぱり無意識か…』
僕の答えを聞いたブリーズさんは、自分の頭を抱えてしまった。
あれ?もしかして僕、何かやらかした?
『やらかしたっちゃ~、やらかしたべなぁ?』
あっ、クレイさんもいたんだね?
おはよ~。
『はい、おはよ~さん。ブリーズちゃん、シエロ君は本当に何も覚えてねぇみたいだね?』
さっきから、何の話し?
《ダダダダダダダダダダ…。バタンッ》
「シエロちゃん!」
うわっ、びっくりしたぁ~。
お母さんまでどうしたんですか?そんなに慌てて?
「良かった…。無事で本当に良かった…」
先程のプロクスお兄さん同様、普段では考えられないくらい動揺している様だ。
いつもは艶々輝いている髪の毛も、どこかくすんでいる様に見えるし。
あっ、同様と動揺って何かシャレみたいになっちゃった(笑)
『笑ってる場合じゃない!!』
うぉっ!?
すっ、すいません。
笑っていたらブリーズさんに怒られてしまった。
んー、どうにも話しが掴めなくてもどかしいな、僕、本当に何やらかしたの?
『貴方、爆発したのよ…』
はい?
『爆・発したの!!』
ちょっと意味が…?
人って爆発する生き物だったっけ?
いや、こっちの人族なら有り得る事なのかも?
『いや、普通有り得ないから!!シエロ、本当に何も思い出せない?』
そんな事言われてもな…。
んー、確か、お祖父さんにめちゃくちゃ高そうなガラガラのオモチャを貰って…。
お母さんのお姉さんで通りそうなくらい若いお祖母さんに、赤ちゃん言葉で話されて、それから~…?
あっ!!そうだ祖父さん(・・・・)に、女の子だと間違われたんだ…。
あー…、でもここから先が思い出せない。
爆発って、僕何したの?
お母さんを、こんなに心配させて、泣かせる様な事をしちゃったんでしょ?
さっきから、お母さんは僕を抱きしめながら泣いている。
3ヶ月健診の時の様な温かい涙じゃなくて、本当に悲しい時の涙で、お母さんを泣かせてしまったようだ。
『言葉通りよ?女の子扱いされて怒り出したシエロは、急に眩しい光に包まれたと思ったらそのまま、爆発したの』
『とは言っても、誰も怪我をしてるとかではねくて、とにかく光が凄かっただけなんだけんじょね?』
うわ~、じゃあ僕、閃光弾みたいになっちゃったのか…。
それって、いつか見たお兄さん達みたいに魔力が漏れたって事なのかな?
『う~ん、この場合は漏れたって段階じゃなくて、純粋に暴走でしょうね?』
あ~、魔力暴走か…。
そりゃあ、お母さんだってこうなるか…。
自分の子供が暴走するとか、ショックが大き過ぎるよな…。
お母さん、ごめんなさい。
伝わらないかもしれないけど、精一杯謝罪と、感謝の気持ちを込めて、お母さんに抱きついた。
「シエロちゃん…、うぅ…本当に良かったわ~」
僕は、お母さんの気持ちがすむまで、胸の中で謝り続けた。