四十三話目 今世一驚愕した日
お祖父さんから、伝統工芸品の様に細かな細工の、くそ高そうな【ガラガラ】を頂きました。
んー、ちゃっかり持たされてはしまったものの、これどうしよう…。
『赤ちゃんらしく振ってみる?』
いや、ブリーズさん、そんな簡単に言うけどさ?
壊したらどうしようとか思うとさぁ…。
「ムッ?気に入らんかったか?最高の職人に作らせたはずじゃったがのう?あいつの作る物は駄目だったか?」
反射的にお祖父さんの方を見る。
ヤバい、こんな素晴らしい細工を作れる職人さんが消される!
この顔は確実に存在を抹消する、いや、出来る顔だ!?
まずい、国の宝とも言うべき職人が消されてしまう!!
壊したらどうしようとか言ってる場合じゃない!?
えー、お祖父様、この度はこんなにも素晴らしいオモチャをありがとうございます。
僕は引きつる頬に喝を入れ、出来うる限りの笑顔でガラガラを振った。
《コロ、カラン、カラ、コロロン~♪》
うわ~、スッゴイ良い音~。
流石一級の職人さんの品なだけあるな~。
雑音が一切なく、滑らかで丸く優しい音がする。
近くでじっくり見ると、細工の細かさがより分かる…。
あっ、ドラゴンだけかと思ったら、小さく色々なものが彫られてるんだ…。
これは妖精かな?
あっ、兎もいる!
「うむ、気に入ってもらえたようで、良かったわい」
細工の緻密さに、思わず見とれてしまった僕を見て、お祖父さんは何度も満足げに頷いていた。
よっ、良かった。
国の宝が1つ救われた…。
「あんなにむちゅうになってるシエロは、はじめてみました。おじいさま?あのおもちゃには何が書いてあるんですか?」
おっ?
ナイスお兄さん!
それ、僕も気になってたんだよね?
お祖父さん、教えてプリーズ!
「ん?あれの図柄か?シエロが生まれた頃、お前達を預かっていた事があったじゃろう?その時にプロクスが読んでいた本を参考にして作らせたのだよ」
えっ?
おじいさんからガラガラに視線を戻す。
ドラゴン、対峙する小さな兎…。
うわぁ、嫌な予感しかしないんだけど…。
「あぁ!しんりゅうぞくのゆうしゃさまのお話しですね?わるいうさぎぞくのまおうをたおしにいくお話し。このあいだ、シエロにもよんであげたところなんですよ?」
やっぱりそれかーー!!
一流工芸師に何てもんを作らせるんだよ!!!
せめて、妖精と、年老いたドラゴンが森の奥で静かに暮らしている、ほのぼのスペクタクルな絵本なら良かったのに…。
よりによって、極悪兎の方をチョイスするとか…orz
勘弁してくれよぉ~。
《コツコツ》
ん?誰かがこの部屋の扉をノックしているようだ。
いつもなら、ノック何て無しに入ってくるのに…。
あぁ、お祖父さんがいるからかな?
「誰じゃ?」
「リーベですわ?お義父様。入っても宜しいですか?」
「勿論じゃ。ここは君達の家なんじゃからのう?」
扉をノックしていたのはお母さんだったのか。
お祖父さんの返事を聞いて、【失礼致します】と答えながら部屋の中に入ってきた。
あれ?お母さんの後ろに見慣れないお姉さんがいるな…?
誰だろ?
緑色の髪の毛だし、お父さんのお姉さんとかかな?
お母さんの後ろにいた女性は、サファイアの如く深い青色の瞳をしていて、腰くらいまで伸ばした緑色の髪の毛を1本の三つ編みに結い、背中に垂らしていた。
穏やかでにこやかな表情を浮かべている。
「おぉ、エリザベートも一緒じゃったか?ほれ、シエロはこの玩具を気に入ったようじゃぞ?」
あっ、お姉さんが此方を向いた。
僕の事が視界に入った途端に、元々にこやかだった表情が数段上の笑顔に変わった気がする。
笑顔が眩しいって比喩じゃなかったんだ…。
「貴方がシエロちゃんね?初めまして♪私が貴方のお祖母ちゃんでちゅよ~?」
すっと、僕の寝転がるベッドサイドまで来たお姉さんは、僕を愛おしげに抱き上げ、とびきりの爆弾を落とした。
えっ!?
今何て言った?
何か聞き間違えた?
「お祖母ちゃんは貴方に会いたかったんでしゅよ~?やっと会えまちたね~♪」
聞き間違えじゃなかった!
えぇ~!?
お姉さんの間違いじゃないの?
お母さんと並んでも、遜色ないよ?
もしかして、これが世に言う異世界マジックってやつですか?
僕は、混乱しきった頭で、ニコニコと笑う、自称お祖母ちゃんの顔を見つめるしか出来なかった。