三十二話目 イケメン再びな日
目を覚ますと、2人の兄姉が、僕の顔を覗き込んでいました。
おー、2人揃ってるのは久しぶりだな…。
いつもはお兄さんだけだし。
ベビーベッドの格子越しに見る兄姉は、2人共いつになく目をキラキラさせていた。
はて?今日って何かあるのかな?
「シエロおはよう」
「シエロ、おきた~?」
おはようございます。プロクスお兄さん、ルーメンお姉さん。
「お~あ、お~」
僕なりの挨拶を済ませたところで、兄姉はお母さんのところへ走っていってしまった
何なんだ?一体…。
『貴方のお父さんが今日休みを取ったと聞いて、一緒にお散歩に行くんだ!って朝から騒いでるのよ』
あっ、ブリーズさん、おはよう。
あ~、お父さんか…。
そういえば暫く会ってないな。
『一緒に住んでるのに何で会ってないのよ?変なの…。貴方のお父さん、この辺のりょうしゅさまっていうのなんでしょ?何をする人なんだか知らないけど、結構偉い人なの?』
えっ?お父さんって領主様なの?
『だから、何で私に聞くのよ!?町に住んでる人族が、確かにそう言ってるのを聞いたわよ?』
へぇ~、お父さんって領主様だったんだ…。
領主っていうのはそこの地方や街を治めている人の事だよ?
『ふーん。ねぇシエロ?そのりょうしゅさまっていうのはいくつもの呼び名があるの?』
ん?どういう事?
お父さん他にも別な呼ばれ方してた?
『うん、ここのお屋敷に居る人達からはだんなさまでしょ?後、はくしゃくさまっても呼ばれていたわ』
旦那様っていうのは、男の主人って事だね。
あっ、そうだ、お母さんが奥様って呼ばれてるのは聞いたことある?
『うん、あるある』
奥様はお父さんの伴侶、パートナーって意味だよ?
『ほー。じゃあじゃあ、はくしゃくさまの方は?』
伯爵様はね…。
ん?伯爵…?
聞き間違えたかと思ったけど、ブリーズさん、今伯爵様って言った?
『さっきからそう言ってるじゃない?』
おぉう、お父さんと、この家の謎が何の感慨もなくあっさり解明した~。
『何が謎だったのよ…。で?はくしゃくさまって何?』
う、うん。
伯爵っていうのは、この国の王様が、凄い功績を残した人や貴族に与える栄誉爵位、又は役職、って言って分かるかな~…。
んー…、簡単に言うと、国で一番偉い人が、ご褒美にくれたお仕事ってところかな。
『王様ってのは何となく分かるわ。じゃあさ、シエロのお父さんは何か凄い事したから、はくしゃくさまってのになれたの?』
たぶん?お祖父さんからその仕事を受け継いだだけかもしれないし…。
『ふーん。でもさ?はくしゃくさまって仕事の名前なんでしょ?何でわざわざ面倒臭い仕事を押し付けられるのがご褒美になるわけ?』
んー、何でって言われると困るんだけど~。
「シエロ~?起きたのかい?お父様だよ?あんまり久しぶりだから僕の顔を忘れられてしまったかな?」
うんうん、唸っていると、いつの間にか部屋に入ってきていたお父さんに抱き上げられていた。
「あぇっ?」
あまりに流れるように抱き上げられたもんだから、思わず声が漏れた。
お父さんの顔を見上げると、満面の笑みを湛えた顔が目に映る。
んー、相変わらずイケメンだな…。
しかし、この人何でいつも気配なく忍び寄って来るの?
僕ビビりなんだよ?
心臓に悪いじゃないか!
『凄い堂々と部屋の中に入って来てたわよ?』
あー、あー、何も聞こえませーん。
『はいはい…』
あー、こほん。
さてと、お父さん。
本当にお久しぶりですね…。
最後に会ったのって、熊爺が来た時以来ですよ?
伯爵様じゃあ、上位貴族の方か、下級貴族の方かによってもお仕事の内容が違うかもしれないけどさ、あんまり無理しちゃ駄目ですぜ?
「あー、あー」
取りあえず、笑いながらお父さんのほっぺをペチペチと叩いてみる。
これやるとプロクスお兄さんが凄い喜んでくれるんだぜ?
「あははは、シエロ、くすぐったいよ。」
おぉ、返ってくる反応まで同じとか、流石親子ですなぁ~。
『貴方も実の子供でしょー』
空中で胡座をかきながら、フヨフヨと僕の周りを漂っているブリーズさんに、ちょいちょい突っ込みをいれてくる。
うぅ、的確すぎてグゥの音も出ない…。
「ははは、さぁシエロ?着替えたら皆で庭へ遊びに行こうな?お兄様やお姉様が待ってるぞ?」
えっ?何だっけ…。
『も~、散歩に行くんでしょ?さっき言ったばかりじゃないの』
あっ、はい、スイマセン。
じゃあ、皆でお散歩に行きますか~。