三十一話目 集まった日
いつの間にか部屋に上がり込んでいた土の妖精に、僕の泥だんごは食べられてしまいました。
『んめな~。んめな~。』
今、僕の目の前では、嬉しそうな顔をしたブリーズさんの友達が、自分の体くらいある泥だんごに挑んでいる。
時々、うにゃうにゃと、声が漏れてくる他は、泥だんごにすっぽり隠れてしまって、様子を伺い知ることはできない。
それを、アクア達が興味深げに見つめていた。
泥だんごを、じゃりじゃりかじりながら食べる妖精…。
中々見られるものじゃないけどさ…、ブリーズさん、そろそろこの方を紹介してもらえない?
『はっ。あぁ、そうよね…。つい見つめちゃってたわ。この子はクレイ、土の妖精よ?いつもは此処よりもう少し、北に行った森の中にいるんだけど、誰かにここまで運ばれてちゃったみたいね』
確かに惚れ惚れする様な食べっぷりだね…?見とれるのも分かる気がするよ。
だって、ソフトボールくらい大きかった泥だんごがだよ?
3分の1を残して、クレイさんの胃袋に収まっているんだよ?
いや~、凄いな…。
正に、あっという間って感じだったよ…。
あっ、食べ終わった。
『あ~。うめかった~。お腹ポンポンだぁ。シエロさん、ご馳走様でした~』
あぁ、いえいえ、お粗末様でした。
お口に合ったようで良かったです。 しかし、よくあんなに大きな団子を食べられましたね?
『いんやぁ~、お恥ずかしいなぃ?私達、土の妖精はみんなから大食らいだってよく言われてっから~』
『クレイ達が沢山食べて、大地に栄養を送っているの。土の妖精が笑顔でいられる土地は、それだけ豊かな土地だ、とも言われているわね』
だから、自然と他の妖精もその土地に集まってくるのよ。
とブリーズさんは説明してくれた。
なるほどな~。
クレイさんの方を見ると、クレイさんは変わらずニコニコと笑っていた。
心なしか、来た時よりも嬉しそうに見える気もする…。
他の土地のクレイさんに会った事がないから、まだ比較は出来ないけれど、クレイさんが笑顔でいられてるって事は、この土地は豊かだって事だよね?
僕って良いところに住んでたんだね?
おかげでこんなに沢山の妖精達に出会うことが出来たし…。
あれ?
もしかしてさ、僕って今日1日で4大元素を司ってる全ての妖精さんに出逢った事になるんじゃない?
『えっと、ブリーズさんに、アクア君達、クレイさんに、僕。うん、見事に揃ってるね』
スパーク君が、それぞれを指差しながら確認してくれる。
んー、妖精ってさ、こんなに簡単に集まるもんなんだね?
僕さぁ、険しい森の奥深くとか、マグマがボコボコいってる火山の中心とか、永久凍土のある凍てついた土地とか…。
そんな普通の人間では到底辿り着けない様な場所でしか、妖精には会えないもんだと思ってたよ。
『はぁ…。貴方妖精を何だと思ってるのよ。でもまぁ、あながち間違ってもいないんだけど…』
『僕達みたいな火の妖精だったら、大体そんな感じの所に住んでいる子が多いからね。アクア君達や、クレイさんみたいな子達は結構人の近くにいるんだよ?』
『ぼくたちあめにいる~』
『かわにもいる~』
『シエロのうちのふんすいにもいる~』
『私達も、森だけでねく、よく畑にもいるからなぃ』
へぇ~、人には見えないだけで、結構身近なところに、皆居たんだね?
でもさぁ、そんなに近くに居るのに、誰にも気づいて貰えないのって寂しくなかったの?
すると皆は、少し考えた後で、揃って首を横に振った。
意外と、人の暮らしを観察しているだけでも楽しいのだそうだ。
そりゃそうか…、妖精の姿が【見える】人の方が珍しいんだもんな。
アクア達も、僕に会ったのが初めてって言ってたくらいだし。
『まぁ、案外そんなものよ?私達は基本的に気紛れな存在だから。人里にもよく降りてくるしね?さぁ、もうすぐ夜が明けてしまうわ。少しでも、寝て起きなさい』
うん、ブリーズさん、ありがとう。
皆から色々な話しを聞くことが出来て、有意義な時間だったな…。
土の妖精さんにも会うことが出来たし、僕の魔力を美味しいっても言ってもらえた…。
嬉しかったし、賑やかでとても楽しかった。
あっ、今夜は気を失わないで最後までいけたなぁ…。
明日もこうならいいのに…。