二十九話目 賑やかに実験をした日
妖精には固有の名前が無い事を知りました。
アクア達にもう少し話しを聞こうと思ったんだけど…。
プロクスお兄さんが帰って来たらまた逃げていっちゃったよ。
でも、お兄さんが席を外す度に戻って来てくれるのだから、この家の事を気に入ってくれてるって思って良いのかな?
でなけりゃこんな、命の危険があるところにいつまでもいないよね?
僕なら嫌だ。
絶対嫌だ!
『あの子達、シエロとルーメンちゃんの事を気に入ってるのよ』
時折、読んでいる本から視線を此方に移してはニッコリ笑うお兄さんに、すっごく癒されるなぁ…。
なんて思いながら、さっき聞いた話しを思い返していると、ブリーズさんから返事が返ってきた。
えっ?ルーメンお姉さん?
『そうよ?ルーメンは水に愛された子供だからね~。あっ、もしかしてもう直ぐ洗礼だった?内緒にしとけば良かったかしら…。人間って何でも内緒にしておくのが好きなのよね?』
おいおい、大分偏った情報だなぁ…。
んー、気にする人間は確かにいるけど、僕は気にしない人間だから大丈夫だよ?
寧ろ、変に隠される方が傷付く…。
『へぇ~、そういうものなの?人族も奧が深いのね~?』
ブリーズさんは、納得した様に何度も頷いていた。
妙に人間臭い妖精さんだよなぁ(笑)
あっ、そう言えばさ…、ブリーズさんって結構うちの事に詳しいよね?
何だか、ずっと前からうちにいるみたいだ。
本当に何の気なしに聞いただけの、たわいないお喋りのつもりだったんだけど…。
『そっ、そんな事ないわよ?あっ!そうそう、私達って人の思考を読めるから、ずっと前から知り合いみたいに感じるのよ!うんうん』
何をそんなに慌ててらっしゃるんですか、ブリーズさん…。
何でか知らないけど、ヤバい程テンパっているブリーズさんを、ポカーンと見るしかない、僕でした。
――――――
夜になったよ。
いつもは、独りでベッドに横になりながら色々やっているけど、今夜はとても賑やかだった。
『いつも、こんな夜中に起きてやってたの?赤ちゃん何だからもっと寝てなさいよ!』
さっきの慌て様が、まるで嘘みたいなブリーズさんがそう指摘してくれる。
心配してくれてありがとう、ブリーズさん。
でもね?お昼にたっぷり寝たから大丈夫だよ?
もう無敵だね(笑)
『そっ、そう…?ならいいのよ…(フフッ、前と同じ事言ってる。記憶はない筈なのに)』
ん?最後聞き取れなかった。
ごめん、今何て言ったの?
『何でもないわよ?独り言!それよりさ、今までどうやって魔法の訓練していたの?ほらっ、やってやって』
何かはぐらかされた気がするけど…。
まぁいっか。
僕はいつもやってるみたいに身体中の力を抜いてリラックスすると、意識をお腹の辺りに集中させた。
んーと、今日は最後の色、茶色の番だよな?
よしっ、それじゃあいきまーす。
『はいはい』
『お願いしま~す』
『『『がんばれ~シエロ~』』』
うぃっす。
あ~、何か良いな~、こういうの…。
よぉし!頑張るぞぉ~!
改めて僕の中の【茶色】を探す。
おっ!?あった!
次は回転。
んー、何か今までで、一番回し、づらい…。
かっ、かたい~。
『シエロ?無理に回転させる必要はないのよ?少し動かすくらいの気持ちでいいの』
動かすだけ?ぐるんぐるん回さなくても大丈夫?
『えぇ、そうよ?今貴方が集めてるのはたぶん【土】属性だと思うの。基本的に土は止まりたい属性でね?動かしづらい性質を持っているのよ』
そうなんだ…。
ありがとうブリーズさん。
んー、分からないところをすぐ教えて貰えるって凄くありがたい。
サクサク進むもんな~。
『うん。それだけ動かせてれば大丈夫。体から出てきてくれるわ』
いつも回転させている速度より、ずっと遅い。
辛うじてやっと回ってるって感じだ。
でも、ブリーズさんがそう言ってくれたんだから、きっと大丈夫。
いよぅし!出て来い!
茶色!っていうか【土】!
『ボフン!』
うわっ、お母さんが起きる!?
ってくらい、際どい音をたてて飛び出してきたのは…。
艶々光る【玉】でした。