二十五話目 逃げられた日
10月15日の更新です。
昨日に引き続き、遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
今日の更新分では、後半シエロ以外の視点になる場面があります。
見にくいなど、ご指摘、ご感想ございましたら、宜しくお願い致します。
プロクスお兄さんが部屋の中に入って来た途端に、水の妖精達が逃げ出しました。
僕の目の前には、笑顔弾けるプロクスお兄さん。
窓の外には、そのお兄さんから争う様にして逃げ出した水の妖精達。
いきなりの事に困惑している僕と、それを苦笑しながら見ている風の妖精ちゃん…。
ん~、カオスだ…。
で、ブリーズさん、これどういう事?
プロクスお兄さんにバレない様にしながらブリーズさんの方を見ると、『ちょっと待ってて、後で説明するから…』とだけ言い残して、アクア達を追いかけていってしまった。
えー?
「シエロー、雨がやまないから、おかあさまがえほんをよんでくださるんだって!今ね?ルーといっしょにくるって、シエロもいっしょにえほん見ようね?」
あっ、はい、お兄さん。
仕方ない…、ブリーズさんは『後で説明する』って言ってくれたし、帰ってくるのを待つとしますか…。
チラリと窓の外を見る。
雨はまだ止みそうもなかった。
◇◆◇◆◇◆
『ちょっと、あんた達、待ちなさいよ!』
アクア達を追って、シエロの家から雨が降っている外へ飛び出す。
さっきまでは窓の所に居たはずなのに、あの子達の姿は見えない。
水も、風と同じくらい早く移動できるヤツらだけど、いくら何でも早すぎない?
――――――
近所を散々探し回ったのに、結局アクア達はシエロの家の、庭の中央に設置してある小さな噴水付きの池の前に居た。
『あ~、ぶーさん』
『りーさんもにーにからにげてきたの~?』
『にげるがかつの~』
緩いテンションのアクア達に、力が抜けるのを感じながらも近づく。
ぶーでもりーでも、呼び名何て何でも良いわよ…。
けど、さっきの何かを誤魔化そうとしている事の方が気になった。
『あんた達、私にまだ何か隠してるでしょ?』
じゃなきゃ、あの態度は可笑しいじゃない。
だって、私達は昨日もシエロに会ってるのよ…?
私は、シエロが初めて魔力を練った日、その魔力に惹かれてやってきた。
アクア達は、ルーメンって子についてたけど、面白がって見学しに来てそのまま居着いた。
あの不思議な雲や、光る球体も一緒に見ていたし、アクアの1人は、あの変な袋に吸い込まれかけて、皆で笑いあったりもしたのに…。
だから、シエロが起きる前、アクア達がシエロは何も覚えてない、と教えてくれた時は凄く驚いた。
僕達と話しを合わせてほしいなんて言われて、更に驚いた。
目が覚めたあの子は、確かに私達と会った事も、話した内容も、私達の存在全てを忘れてしまっている様子だった。
だから、アクア達と話しを合わせる為に自己紹介もし直したし、上位属性の魔法を使ったから鼻が利かない、何て嘘もついた…。
私が教えた、魔力の循環方法と、体内から体外に力を出す方法も忘れてしまっているのかしら…。
何もかも無かった事にされてしまった事に対する苛立ちと憤りで、可笑しくなりそう。
『めがみさまがね?』
アクアの1人が小さな声で呟いた。
明るいのが取り柄のこの子にしては、珍しく弱々しい声を出し、俯いている。
『うん』
『シエロはまだけががなおってないんだって』
え?あの小さくて賢い赤ん坊に、どこも怪我は無かったと思ったけれど…。
女神様に心配される様な大きな怪我なら直ぐ分かりそうなものだし。
『シエロ、たましいボロボロなんだって』
『ぼくが、めがみさまとシエロおむかえにいったときね?めがみさまなおしたとおもってたけど、まだなおってなかったんだって』
魂?
そう言えば、この子は違う世界に女神様と行っていたのよね?
そこで、シエロの【前】と会ったって話しを、皆の前でしたもの。
『だから、まえのことおもいだしたらきずがひらくって』
『めがみさまとあったのもないしょなの、どうしてもおもいだしちゃうから』
『ごさいまでは、ないしょだってめがみさまいってた』
傷、魂に傷…。
昔、母様に聞いた事がある。
私達の力では魂の傷までは癒せないって。
女神様でも、完全に癒やすまでには長い時間をかけるって。
その傷を癒やす為に、前を思い出させては駄目なのだというのなら、私達は従うしかない。
でなければ、シエロは今度こそ死んでしまう。
魂がボロボロなのが事実なら、次は生まれ変わる事も出来ずに消滅してしまうだろう…。
二度と会えなくなるくらいなら、忘れられた方がまだ我慢出来る。
何度も忘れられるのは悲しいけれど、覚悟は出来た。
今、した!
『じゃあ、今日の記憶も消えてしまうの?』
『だいじょうぶ、シエロがまえのおもいで、おもいださなきゃいいって、めがみさまいってた』
『すこしならごまかせるんだって。めがみさま、たすけてあげて?っていってた』
『ぶーさんも、いっしょだよ?』
アクア達の言葉に少しホッとする。
前の思い出に引っかからなければ大丈夫って事ね?
ならシエロが5歳の誕生日を迎える日が来るまで、あの子を守ってあげますか。
私達ならそれが出来るんだから!




