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二百四十九話目 続々・卒業式の日


6月21日の更新です。


本日も宜しくお願い致します。




 席へ戻った僕は、座り直しながら彼女達から受け取った卒業証書を、しっかりと胸の中に抱きかかえる。


 そして、かけてもらった言葉を噛み締めながら、前を向いた。



 どこかで、僕はこの学園に居てはならない存在になってしまったんじゃないか?と思っていた。


 どこかで、呪われた自分を見下していた。卑下していた。そう周りにも思われているんじゃないか。と、恐怖した。



 自分の思い込み、だったのかな…。



 そう思うと、心が急に軽くなった様な気がしました。


 何て我ながら単純なんだ…とちょっと反省もしながら、壇上の上を見ると…。


 そこにはクレアさんと少女が立っていて、彼女もやはり少女が何事かを囁かれています。


 ちょっと驚いた様な顔をした後、顔が真っ赤になっていたけど、彼女達に何を言われたんだろう?



 まぁいいや、後で聞いてみよー。


 そんな風にぼんやり――自分の番が終わったら、何か気が抜けた…。――と壇上の様子を窺っていると、いつの間にか最後の組になっていました。


 僕らの学年はとびきり少なくて、100人ちょっとしかいないんだから仕方が無いんだけど、そんなにぼんやりしてたのかな?



《それでは卒業式、起立!後ろ向けー後ろ!!》


《ザザッ、ザッ》


 頭を傾げながらも皆と同じ様に足を後ろに引いて、クルッと体を半回転させる。


 向こうの世界に引き続き、こちらの世界でも染み付いた動きです。



 振り返ればそこには僕達の家族達の顔顔顔。


 貴族も庶民も混ざり合ったその家族席には、貴族も庶民も関係無く、顔をクシャクシャにした【親】達の顔がありました。



 あぁ、この国は、この学園は平和の象徴みたいなところなんだなぁ…。


 貴族であるハズのうちの母さんと、庶民で平民であるはずのブロンデの母さんが手を取り合いながら泣いている姿を見て、僕も目頭が熱くなりました。


 因みにルドルフの母さんは、その隣でしゃくりあげているブロンデの母さんの背中をさすっています。



「「「「「ありがとう、ございましたーー!」」」」」



《パチパチパチパチパチパチパチパチ》



 笑顔の子も泣き顔の子も一緒になって、ここへ通わせてくれた両親達への感謝の言葉をかける。


 両親達からは温かい拍手が起こり、天井の花火もキラキラと輝きながら、僕達を更に祝福してくれる。


 そんな温かい雰囲気の中、厳かに、しめやかに卒業式は進んで行きます。



――――――


《それでは、これで卒業式を終わります。皆さん!ご卒業、本当におめでとうございます》


《パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ》



 司会の、えーと名前が出て来ない…。


 …C組の担任が閉会の言葉を述べて、卒業式は終わりを告げました。



 ゾロゾロと来たとき同様、皆に見守られながら講堂を後にする僕達。


 教室への道のりが異常な程早く過ぎ去ってしまった気さえする中、いつもの席に座る。


 そして、最後のホームルームが始まりました…。



「え~。皆さん「ヒッグ!」今日は本当にお疲れ様でした…。「フグゥウ~」短い様でいて長く、長い様でいて短い6年間と言う月日を、替えの効かない皆さんと過ごす事が出来て、私「フグググ、ヒャア」……。私は幸せ者でした」


 始まったホームルームの冒頭、いつもの様にランスロット先生からのお話を受けたのですが…。


 僕達の席の後ろ、ワンダの席の真後ろ辺りを陣取っているスクルド先生のしゃくり声が五月蠅くて、話しに集中出来ません。


 当のランスロット先生も、呆れた様な、けど微笑ましい物を見る様な目でスクルド先生を見つめています。


「すっ、すまん…。ヒック、つづぅけてくれ」


 目を真っ赤に染めたスクルド先生はと言えば、ハンカチでは足りず、タオルをべしょべしょにしながら、何とかしゃくりあげてくる嗚咽を止めようともがいています。


 続けろと促されたランスロット先生は、ニコッとスクルド先生に笑いかけてから、話しの続きを話し始めました。


「皆さんはこれから、高等科へ進む人もあれば、全く違う場所へ身を置く事になる人達もいます。そこでは楽しい事も多いでしょうが、辛く厳しい事も多く経験すると思うのです」


 ニコニコと、穏やかないつもの笑みをたたえたランスロット先生は、いつもよりもゆっくりとした口調で言葉を紡いでいきます。


「そんな時、この学園での出来事や、友達の事、そしてほんの少しで良いので、この老いぼれの変人エルフが居た事を、思い出してみて下さいね?僕は此処にずっと居ます。皆が苦しくなったら、私に会いに来てくれたら、先生は泣くほど嬉しいのです」


 窓から差し込む光りを受けて、先生の銀色のサラサラした髪の毛がキラキラと輝きを放つ。


 優しげな深い青色の瞳は、目の縁がほんのり朱く染まっていて、先生も少し涙目になっているのだと言う事が分かります。


「あっ、だからと言って、絶対に学園に来いよ?と脅している訳ではありませんからね?フフフ。私からは以上ですかね?スクルド先生は、何かありますか?」


 そう訊ねられてもスクルド先生は返事を返せない。


 何故なら、ランスロット先生の言葉を聞いて、更に号泣しているからです。


 それでも僕達に何か言いたいのか、グズグズの顔を上げて、何とか言葉を紡ごうとしますが、全ての言葉が意味不明な言葉に聞こえてしまいます。


 全く、仕方の無い副担任兼部活顧問だなぁ…。


「先生!スクルド先生が落ち着かれるまでの間、少しだけ僕にお時間を頂けませんか?」


 グチャグチャのスクルド先生の顔に、苦笑しながら手を挙げて発言する。


 すると、


「勿論良いですよ?」


「ありがとうございます。肖像画撮影機を使って皆と記念の肖像画を残したいんです」


「おぉ!それは良い考えですね?皆で集合して肖像画を作る事が出来るなんて、夢の様な話しです!!」


 と、ランスロット先生はニコニコ笑って返してくれました。


 では早速…とばかりに席を立った僕は、皆に5cmくらいの長さの水晶柱をトップにあしらったペンダントトップを渡して回ります。


 ふっふっふ。この日の為に、毎日チマチマ作り貯めておいたのさ☆



「それは何ですか?」


「これは魔道具の部品です。使ってみてからのお楽しみですよ?はい、ランスロット先生の分です」


 不思議そうにしている皆に、なんの説明もせずに水晶柱のペンダントを渡していく。


 皆に配り終えたところで、


「風華、悪いんだけどさ?ちょっと撮影お願いしてもいいかな?」


 と風華にカメラ係りをお願いします。


『おっけ~。良いわよ?じゃあ、姿をこっちに変えるわね?」


 風華は承諾の声を出しながら、あの時の様に精霊の姿へと変身していきます。


 姿が変わったところで、


「じゃあ、お願いね?」


「任されたわ」


 風華に、とある加工を施したポラロイドカメラを手渡し、もう一度頭を下げた。


 快くカメラ係りを引き受けてくれた風華に笑いかけながら、僕は皆の首にペンダントがかかっているのを確認した後で、黒板の前に並んでもらいます。


 僕はチビなので最前列、座ったランスロット先生の隣を薦められながら位置につきました。


 くそぅ…。皆デカすぎだろうよ…。


「それでは良いかしら?撮るわよ~?」


「「「「「は~い」」」」」


「んふふ。じゃあ皆、しっかり笑ってよね?それじゃあ…3、2、1…」


 皆の声が揃った事に風華は微笑みながらシャッターを切る。


《カシャ》


《ピカッ》


 風華がシャッターを切ると同時に、皆の首から下げてもらったペンダントが小さく光ります。


 よしっ!うまく行ったかな?


 水晶柱が光った事に気づいた皆が、水晶柱を手に不思議そうにしています。僕は笑いながら皆に、


「皆、水晶に向かって、【起動】って言ってみて?」


 と声をかけました。


「「「「「起動!」」」」」



 すると、これまた声が揃い、皆は揃ってペンダントの魔道具を起動させてくれます。


 ちょっとは疑ってよ!とも思いましたが、別に彼らを騙くらかそうとは思っていないので、信じてくれてありがとうの気持ちで笑いながら彼らの動向を見つめます。


「うわっ!?何か出てきた?」


「絵が空中に浮いてる?」


「あっ!これ僕達だよ?」


 口々に騒ぎ始める彼らを見て、更にニヤニヤしてしまう。


 よしっ!ちゃんと動いてくれたね?



 あの水晶柱は、実は受信機なんです。


 あのポラロイドカメラで撮影すると、勝手に彼らの持つ水晶柱に送信される機能をつけてみたんです!


 空間魔法で飛ばし、光魔法を使って水晶柱のメモリー部分に焼き付ける方法を取ったのですが、ぶっつけだった割には上手く行きましたね♪



「それは、今撮った肖像画が勝手に記録されていく魔道具だよ?まだ容量は残っているから、色んな肖像画を撮影しませんか?」


 僕がそう提案すると、皆からは【賛成】の声が挙がります。


 それじゃあ撮影会をしようとしたところで、復活したスクルド先生から、


「シエロ、これはどうやって作ったんだ?」


 と聞かれたので、僕は予備のカメラと水晶柱を先生に渡しながら、


「後輩達と研究してみて下さい?」


 と言うと、


「面白い!やってやろうじゃねぇか!!」


 と、目を腫らしたスクルド先生が不敵に笑いました。


 うん。やっぱりスクルド先生はこうでなくちゃね☆


 ニヤニヤしながらカメラと水晶柱を受け取るスクルド先生の顔を見ながら、僕はそう思ったのでした。



 その後、僕達は時間が許すまで撮影会をしました。


 笑ったり、泣いたりを繰り返しながら、水晶柱のメモリーに、僕らの最後の思い出達が次々と焼き付けられていきます。


 途中カメラ係りが風華から実里に変わったり、ニヤニヤしていたスクルド先生がまた泣き始めたりと、色々な事が起こりながら、メモリーが限界値に達するまで、僕達は騒ぎ続けました。



 そして―――


《ピピピ》


 肖像画作製記(カメラ)から、電子音が鳴り、水晶柱のメモリーがいっぱいになった事が告げられました。


 それと同時に、ランスロット先生からタイムリミットである、とも告げられたのでした。



 本当ならもうちょっとだけ!と、駄々でもこねたいところですが、後一週間も経たずにやってくる新入生達の為に、部屋を空けなくてはいけません。


 僕のクラスは全員に魔導袋(大)を渡してある為、出て行く側は皆昨日の内に出立の準備が出来ていたからこそ、ここまで写真を撮る時間を引き伸ばせました。


 が、それでも出立を明日までには引き伸ばせないのは、明日にはステータスカードの所属の欄が空欄になって、学園のテレポート装置が使えなくなってしまうからです。


 家が近いなら使わなくても帰れますが、それでも家や、次の所属先が遠かったりする人にはキツいので、多くの人は今日中に学園から出て行く事になっているんです。


 それでも、昔は一泊二泊くらいなら許可されていたそうですが、更に名残惜しくなるとの声から、その日のうちに…と言う事になったのだそうだ。



 まぁ、そうだよね?



 皆と一晩過ごしちゃったら、別れ難くなってしまうものだ。と僕は思う。



 何て、考えながら歩いていたら、いつの間にか、テレポート装置室まで来ていました…。






アルバム代わりに大盤振る舞いしてみたシエロなのでした…。


本日もここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。


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