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二百四十八話目 続・卒業式の日


6月20日の更新です。


本日も宜しくお願い致します。




 穏やかな、いつもの微笑みを浮かべているランスロット先生と、涙を隠すことなく垂れ流しているスクルド先生。


 と言う、何とも対照的な2人の担任の間を通って講堂の中へと進む。



「わぁ…」



 扉を潜り抜けると、花が道を作る様に咲き乱れる地面と、高い天井付近から、キラキラと僕達のところへ降り注ぐ様な光の花火が僕達を迎えてくれました。


 思わず漏れた声は僕のものだけでは無く、扉を潜り抜けた生徒達皆から漏れ出ています。



 確か入学式の時は、僕達が【進んだ分だけ】花が咲き、光が溢れていた。


 あれも幻想的で綺麗だったけれど、今回の花の絨毯。しかもその両側から、僕達に携わってくれていた、色々な教科の先生が花びらを撒いて歓迎してくれている様は、とても感動的な趣向だった。



 入り口から僕達の座る席までズラッと並んで、僕達の卒業を祝してくれている先生方は、口々に


「おめでとう」


「おめでとう」


 を繰り返して、僕達の道を華やかに彩ってくれています。


 余りに最初から感動的な場面が続いた為、涙もろいブロンデはもうグズグズになっていました。


「うぇっく。ずずず」


 そんな音が、僕の前から聞こえてきます。


 ブロンデの泣き声につられる様にして、周りからもすすり泣きが聞こえてくる。



 早い。いくらなんでも早すぎるでしょ?


 まだ式は始まってすらいないのだから…。


 え?僕?彼らを見て呆れた様な事言ってますが、勿論口だけですよ。ボロボロですがな。



――――――


《え~~。卒業生の皆さんに置かれましては…》


 かれこれ30分くらい、来賓の挨拶が続いている…。


 しかも、だ。30分使ってたったの2人ってどういう事なんだよ!?


 今壇上には2人目の来賓の、何とか男爵が体をゆさゆさ揺らしながら、吹き出た汗を拭きつつ何事かを話しているけど、え~だの、う~だのが多すぎて全然頭に入ってこない。


 これには流石に、さっきまで号泣していたブロンデやスクルド先生の涙も引っ込んで、2人とも無に近い表情をしていました。


 せっかくさっきまでは感動的だったのに、台無しだ!?



《かくして、勇者は世界の平和を~。え~守った訳でありますが…う~。》


 ってかさ~?本当に何でお偉さんの話しって長いの?絵本に出て来る様な勇者の話しされて、お前らも見習え!言われてもな~。


 全く!入学式ん時のうちの爺さんを見習って欲しいわ…。


 ん?爺さん?


 まさか、卒業式にまでは呼ばれてないよ、ねぇ?


 ドキドキ



《と言うわけです。皆さんのこれからに期待しておりますぞ?私の話しは以上です…》


《ナゲーノ・ハナーシ様ありがとうございました》



 しかし、僕のドキドキは杞憂に終わりました。


 入学式の時に沢山いた来賓は、今回たったの2人にまで減っていたからです。


 え~だの、う~だの言っていた冗談みたいな名前のでっぷりしたオジサマが壇上を下りると、司会をしているC組担任の鳥族の先生が、


《それでは続きまして、卒業証書授与に移りたいと思います。卒業生、起立!》


 と、僕達に号令をかけてきたので、来賓の挨拶が終わった事に気がついた訳です。


 卒業式の流れに関しては、何度かこの講堂でも練習していたので、卒業証書授与が終わった後で来賓の挨拶がカムバックしてくる事が無いことは分かっています。


 だからこそ2人しかいないの?何て驚いたんですが…。



《6年A組から参ります。アラン・ハインド》


 と、マイクからランスロット先生の声が聞こえてくると、来賓の数何かどうでもよく感じました。


「はいっ!」



 いつもはどこかビクビクしているアラン君も、ランスロット先生に応える様に、元気よく返事を返します。


 最初は、


《「えぇ!僕が最初!?出席番号1番を誰か変わってよぉ!」》


 何て、嫌だ嫌だ目立つの嫌だ!と泣いていたけど、今見せているキリッとしたその表情には、あの時の泣き顔は微塵も感じさせません。


 アラン君は、キリリとした表情と背筋のまま、キビキビと壇上へ向けて歩いて行きます。


 …左右の足と手が同時に出る。何てお約束をかましているけど、それはご愛嬌って事で。


 途中来賓の前を通って会釈をし、壇上へと上がって行くアラン君を目で追います。


 壇上の上までそのまま視線を滑らせれば、いつの間にそこに立ったのか、可愛らしい小花柄のレースをあしらった、純白のドレスを身にまとった少女がニコニコと笑っていました。


 白に近い金色の髪の毛を緩くウェーブさせ、青と黒の左右色が違う、不思議な色合いの瞳を持つその少女。


 彼女は、僕達よりは年上かな?って感じの見た目をしていましたが、明らかにその身から感じるオーラが凄く、見た目だけで判断しようものなら袋叩きは必至だろう。


 そんな彼女は、壇上にたどり着いたアラン君に何か一言二言話してから、卒業証書を手渡していました。


 アラン君も緊張しながら、恭しい手つきで卒業証書を受け取っています。


 もしかして、あの人が理事長先生なのかな?


《シエロ・コルト》


「はっ、はいっ!」


 アラン君と少女?の動向を見守っていたら僕の番だったで御座る!?


 ちょっとどもっちゃって恥ずかしかったけど、ランスロット先生に返事を返し、立ち上がります。


 周りから笑い声が起きなかった事が救いだ…。何て思いながら歩き出す。


 椅子から右手側に動き、練習した通りの道順で来賓の前を通り、壇上を目指します。


 途中卒業生の家族の前を通ると言うのも、向こうの世界と同じです。


 まぁ、この学園を作った創立者の1人がこの世界へ召還された向こうの世界…地球出身らしいから仕方が無いんだけどね?



《きゅっ》


 来賓の方へ向き直る時に、講堂の床と僕の靴が摩擦を起こして音が出る。


 ちょっと大きな音が出てしまったけど、いい感じに曲がれた。



 あれ?


 壇上で喋ったのは2人だけでしたが、来賓席には20人程の男性と女性がニコニコ微笑みながら座っていました。


 中には当たり前の様にうちの爺さんが座っていて、僕の顔をニヤニヤしながら見ています。


 くそぉ、面倒くさいからって挨拶を辞退してたんだな?


 ちょっと残念に思っちゃった、僕の純粋な心を返せよ!


 ぷんすこしながら来賓席へ向けて会釈をすると、壇上へと向かいます。


 壇上に居たブロンデとすれ違う形で上る。



 目の前に来てダイレクトに彼女の姿を見ると、何か言い表しにくい様な違和感を感じました。


 何と言うか…混ざってる?


「「ククク気付いたか?」」


「「流石はアーサー坊やの孫、と言ったところかの?」」



 頼りになりそうな男性と、鈴を転がした様な可憐な女性の声が、目の前の少女の口から重なって聞こえる。


 目の前の少女は、心底楽しそうに、その整った顔を歪ませながら、


「「今、貴様が思うた事柄は内緒じゃぞ?」」


 と、僕の口に細くてしなやかな自分の指をあてて黙らせる様な仕草をしてきました。


 そんな事しなくても、壇上(こんな所)で騒ぐ気はサラサラ無かったけど、とりあえず素直に頷いておいた。


「「いいこだ。さて、君には1つ助言をしておこうかな?」」


 僕が頷くと、少女は今度はニカッと葉を見せて笑いながら、そんな事を言ってきました。


 助言?と首を傾げると、


「「ふむ。良い考えだの?さてシエロよ?呪いを恨むでないぞ?」」


 と、自分の答えに自分で返答しながら、僕に助言をくれます。


 やっぱり混ざってるんだ…。


「恨む?」


 僕が答えると、少女は


「「そうじゃ」」


「「理不尽に呪われちゃってるんだから、恨みや恐れ、罪悪感や孤独感を抱くのは仕方が無い事だ。だけどさ?」」


「「そんな生き方は詰まらぬであろ?私達の様な存在でも、それだけは理解しているつもりじゃ」」


「「そーそ。だからさ、後悔するならやってみてから後悔しろよ?先ずは動け!止まると、止まった足から錆びて行くぜ?」」


 と笑いながら、僕に卒業証書を手渡して来ました。


 どこか呪われてしまった事に対して、後ろめたい気持ちを持っていた僕の心にグサグサと彼女【達】の言葉が刺さっていく。



 僕は、何だったら他の呪いもかけられちゃえ!と笑う少女に会釈を返しながら証書を受け取って壇上から下りた。


 席に戻るまで、胸がドキドキしていた。






何かやっと理事長と接触させられた気がします←卒業式だけどな


本日もここまでお読み頂き、ありがとうございました。



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