二百三十一話目 禁忌の魔法の日
5月29日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
僕が頷くと、目の前の少年…時間の精霊――本人がそう名乗った。まぁ、確かに言われなくても服装とか、固まっているコローレ達を見れば分かるのだが…――は、また楽しそうに笑う。
『『良い返事だね?でもさ~?時間が止められてしまうんだよ?これ以上君の体は成長しなくなるんだよ?死ねもしなくなるんだ。ねぇ?怖くはないの?』』
時間の精霊は、どうやら僕を怖がらせたいみたいだったけど、実はおばあちゃんの話しを聞いてからも、事情が事情なら自分が対価を払ってでも時間を戻したいと考えていた僕からすれば、何でもない質問だった。
まぁ、どちらにせよ時間属性は持っていなかったから、あくまでも【もしも】【if】って事で考えていただけだけどね?
何だかんだゾルフに使う気も無くなってたし、考えてみたらゾルフには酷い目にしかあわされてなくない?何て思ったら、ゾルフ相手に使う気はなくなっちゃって…。すまんゾルフ!
僕は、そんな事を考えながら、目の前の精霊様に1つ頷く形で答えます。
『『『あやっ。本当に落ち着いてるね~?アスタから話しは聞いてるんでしょ?止めたでしょ?アスタは優しいから』』』
「勿論アスタさんには止められたよ?でもさ、そこにルドルフやクレアさんを助けられるかもしれない手段が転がっているって言うのなら、僕は怯まないし、やれるだけの事はやりたい」
例え、後から皆に叱られてもね?
《「人の時間を巻き戻す事は大罪なの」》
時間の精霊に言い切ったところで、アスタおばあちゃんの言葉がフと頭の中を過ぎる。
「ねぇ?どうして時間を巻き戻す事は大罪なの?」
ずっとこの言葉が引っかかっていた僕は、アスタおばあちゃんの言葉をそっくり話しながら、時間の精霊に問いかけてみました。
本当はこんな風に精霊さんと話している時間は無いんだけど、どうせ周りの時間は止まってんだからいっかな~?なんて思って聞いてみた。
まぁ、我ながら呑気だとは思う。
『『そうだねぇ。時間を巻き戻すってさ、人が思っているよりもエネルギーがいるんだよ。だから対価として、【時間】を貰ってるんだけど、それが悪魔の所業に見えたんだね?だから、アスタは【大罪】何て言葉を使ったんじゃないかな~?』』
時間の精霊も僕と同じ様に思ったのかどうかは分からないけど、僕の質問に何でもない事の様にあっけらかんと笑いながら答えてくれます。
オマケに、
『『『『あっ、僕あくまでも悪魔じゃないからね?アハハ、アスタも酷いこと言うよね~』』』』
とシャレを交えながら、【禁忌】の魔法だの【大罪】だのと言ったアスタおばあちゃんに文句を言ってみたりと、案外と人間くさい顔を覗かせていました。
まぁ、目の前に居るのが例え悪魔だとしてもやる事は変わらないんだけどね?……いや、本当に悪魔だったら、契約内容は選ばせてもらうかもしれないけどさ。
『『フフフ。本当に君は面白いねぇ?その心意気や良し!まっ、僕の姿が見える人何て、それこそアスタ以来だからよっぽど無理言われない限りは手伝ってあげる気満々だったけどね~?』』
満々って…。それはそれで怖いものがあるなぁ、とずっとニコニコと楽しそうに笑っている精霊さんを見つめていると、
『『『さっ、手を出して?』』』
と唐突に言われ、ビックリした僕は反射的に両手を差し出してしまいました。
『『『あぁ、片手で良いよぉ?自分の利き手を頂戴?』』』
しかし、両手を差し出した僕に精霊さんは苦笑混じりで僕の片方の手のひらを指差します。
あっ、何だ片手で良いのか、とちょっと恥ずかしく思いながら利き手の右手を精霊さんに差し出す。
すると、今度は満足したのか1つ頷くと、精霊さんは自分の頭に被っていたシルクハットをくるりんぱして持ち替え、僕の手のひらの上でブンブンと振り始めました。
精霊さん自体が僕の手のひらサイズしかない為、ちょこんと僕の手のひらに乗りながら小さなシルクハットを一生懸命振っている姿は、何とも和やかな気持ちにさせられると言うか何というか…。
そんな感じでほんわかした気持ちになりながら見つめていると、精霊さんのシルクハットからザラザラと金平糖みたいな色とりどりの塊がいくつもキラキラ出て来ました。
「これは?」
僕が訊ねると、
『『『これは時間の欠けらだよ?へぇ、やっぱり君は魔力の量が多いんだね?これだけあったら100人分の時間を14~15年分くらい戻せるよ?』』』
と、僕の手のひらに出された金平糖を眺めながらニコニコと笑っています。
100人分を14~15年戻せるだけの時間の欠けらって…多すぎやしませんかね?
「精霊さん、流石にこれは多くないかな?」
『『確かに少し多いかな?でもさ、これだけあったら……』』
――――――
「それ、本当!?」
『『『勿論!僕は嘘つかないよ?でもさ、使い切っちゃったら本当に君の時間は止まってしまうよ?半分くらい残せば対価も半分だから、年を取る時間がゆっくりくらいに止める事だって出来るんだけど…』』』
「残らなかったらその時だよ!僕に出来る事があるならやりたいし、悔いは残したくないからね?」
時間の精霊さんの提示してくれた救済策にも心惹かれるものはあったけれど、僕は精霊さんが初めに教えてくれた方の案を選択する事にしました。
手のひらでキラキラと輝く金平糖の粒が残ればラッキーくらいの気持ちで、僕は精霊さんに笑いかけます。
『その心意気や良し!では始めようか!!』
すると、さっきまでダブって聞こえていた時間の精霊さんの声が急に1人分のものになって聞こえ、ニコニコ笑っていた精霊さんの口元に浮かべた笑顔はそのままに真剣な表情を作ると…。
僕の手のひらサイズで可愛かった身長がぐんぐんと伸びて、一般的なヒューマン族の大人サイズ――大体180cmくらい――までみるみる成長していきます。
唖然とする僕を余所に、大きくなった精霊さんは僕の手のひら――正確には手のひらに乗っている金平糖――に、ふーっと息を吹きかけました。
息を吹きかけられた金平糖達は、キラキラと輝きを増していきます。うわぁ、手のひらまっぶしー。
『フフフ。さぁ、これで時間が動き出すよ?とは言え魔法の発動は君が行えばいい。さて、僕の役目はこれにて終幕だ。本当は君についていてあげたいけど、時間の精霊は1人しかいないからね?用があったらお呼びよ。行けたら行くからさ☆それじゃあまた会う日までご機嫌よう!!』
《パーーン!》
時間の精霊さんがシルクハットを自分の頭上で軽く振りながら、何とも自分勝手なお別れの挨拶?を告げると、次の瞬間に僕の手のひらの光り輝く金平糖達が輝きを伴ったまま、僕の周囲に勢いよく散っていきました。
「シエロ様、お気を確かに!まだ助からないと決まった訳では御座いません!!」
途端に動き出す時間。
さっきまでは聞こえなかった、僕を励まそうとしてくれているコローレの声が聞こえてきます。
反対側では宇美彦が僕の肩に左手を起きながら、反対側の右手で僕の背中を優しくさすってくれていました。
そう言えば過呼吸っぽくなっちゃってたんだったっけ?何て思い出しながら、僕は優しくて頼りっきりの2人に心の中で謝りながら魔法を発動させた。
《『『『これだけあったら、あの【魔族化】しちゃった坊やが魔物にしちゃった子達の時間も戻せるんじゃないかな?死んじゃった子達の時間を戻すのは、ただ時間を戻すよりもエネルギーがいるから、あんまりオススメはしないけどね?』』』》
頭の中で、シルクハット姿の精霊さんが笑った気がした。
時間の精霊なだけにマイペース…(笑)
おや?誰か来たようだ…。
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。
さて、またもや私事で申し訳ないのですが、明日の更新はお休みさせて頂きます。
明後日、水曜日にはまた更新させて頂きますので、宜しくお願い致します。